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[COORDINATE 0003] Flame Incarnate Dragon 1

# Hero of the Goddess:


がたがたと、馬車が一定のリズムで揺れる。

雇ったのは、他人の目を気にしなくて済む短距離の貸切馬車だ。

フリージアから目的地まではそう遠くないが、それでも乗り合い馬車を使うよりは数倍の金がかかる。


だが、ルナリアと組んでからというもの、俺は乗り合い馬車を選んだことは一度もない。

無用なトラブルで誰かに刺されたくないからだ。

ルナリアと一緒に乗り合い馬車に乗ったら刺されること必至だろう。


そんなルナリアを見ながら、昔を思い出す。


――突然だが、俺は、おっぱいが好きだ。

心躍る冒険が一番大好きだが、その次におっぱいが好きだと断言できる。


だから養成学校時代、初めてルナリアに出会った時は「なんて露骨で計算高い女だ」と、内心で毒づいていた。

俺の好みを正確に射抜き、その『武器』を強調することで俺を手玉に取ろうとしている。

そんな風に、彼女をあざとい策略家だと思い込んでいたのだ。


弱みを握られているような気がして、余計な布地など一切つけないその無防備な姿を、…そりゃあチラチラ見てしまうし、男として敗北感すら感じてはいたが、どうしても本人を好きにはなれなかった。


さらに、魔法も隠していて実技は大した事ない、座学だけが得意な、冒険者志望らしからぬ落ちこぼれ気味の俺に、

意味不明なくらい懐いており、それがさらに俺の恐怖心と不快感を煽っていたため、頑なに距離を置いていた。


だが、あるきっかけでそうではないことを知った。

彼女は計算高いどころか、単に自分の女性的魅力に対して致命的なまでに無頓着なだけだった。

今では俺は心から彼女を尊敬するようになったし、彼女の危機には自分の命なんて天秤から投げ捨てるだろう。


…まあ、それはそれとして。

だからこそ今となってはより一層、謎が深まる。


なぜ彼女は、今この瞬間も、こんなにぷるんぷるんとさせたまま平気でいられるんだろうか。

馬車の振動によるぷるんぷるんがやばいんだが。俺を試しているのか。女神リゼット。


「ん、どうしたの? アルス」


景色を眺めていたルナリアが、視線に気づいて首をこてんと傾ける。

その動きに合わせて、さらに、ぷるんぷるんが重たげな軌道を描いて揺れた。


俺は考える。これ、あと数年もしたら重力に負けて垂れてしまうのではないか。

それは人類にとって、いや、この世界の在り方にとっての大きな損失だ。

俺が、しっかりとこの手で支えてやらなければならない――。


そんな使命感にも似た真剣な思考に没入していると、ルナリアが再び窓の外に目を向け、どこか遠くを見るような目で声を出した。


「いつまでも、こうやって二人で冒険できるといいね」


不意に投げかけられた言葉。

ルナリアは穏やかな微笑みを浮かべたまま、夢見るような赤い瞳で続ける。


「わたしたちなら、いつかS級になって、本当に語り継がれるような勇者パーティーになれるかもよ?」


「…そうだな。そしたら悪い魔王をやっつけて、世界樹にでも住むか。女神様も喜ぶだろうよ」


俺が半分冗談で返すと、ルナリアは顔をこちらに向け、楽しそうに瞳を輝かせた。


「あはは、それいいね! …でも、女神様に言われたんだっけ? 世界樹を目指せって。

その夢、何回も見てるの? 続いてるんだとしたら、君は本当に勇者様なんじゃないのかな?」


彼女の瞳に一点の曇りもない。

世辞ではなく、心からの確信。


「勇者どころか、君はこの世界を救う『救世主』にだってなれる。わたしは本気でそう思ってるんだけどな」


「バカ言うな。どこに攻撃手段を一切持たない勇者がいるんだよ。それを言うなら、お前が勇者で、俺はそのお供だろう」


俺が呆れて肩をすくめると、ルナリアは「んー」と可愛らしく唸りながら、また胸をゆさりとさせて俺に寄り添ってきた。

密着した肩から、熱を帯びた甘い香りが漂う。


「そうかなぁ? 攻撃なんて、わたしがいれば十分だよ。君はその『精神』が勇者なんだよ、きっと」


話半分に聞きながらも、俺は内心で少しだけ焦りを感じていた。

そういえば、あの夢は今日ので四回目だ。

あんな星空を俺は知らないし、本当はもっと焦るものなんじゃないか?

なぜ、俺はこんなにいつものことみたいに考えていたんだ。


俺が勇者なわけはないが、何かしらの意味を調べる必要はあるのかもしれない。

調べるとしたら、聖都に行くか、王都に行くか。聖都は遠すぎるし、まずは王都の図書館あたりが無難か?


女神リゼット。

彼女は俺を、ルナリアを世界樹に連れていくための交渉役として選んだのだろうか。

ルナリアは俺の言うことしか聞かないから、という俗物的な理由だとしたら、神様も意外と世俗的なのかもしれない。


俺たちを乗せて馬車はごとごとと進み続ける。

依頼のあった近隣の村はもう少しだ。昼過ぎには到着するだろう。



# The Lich Lord:


########################################


Core_Drive: 潜在欲求、欲望の源泉、魂の願望、カルマ

Region_Wall: 理性、内的規範、存在の輪郭


- Region_Gaugeは生命の精神である。

この Core_Drive と Region_Wall の拮抗と平衡が、Region_Gaugeを精神たらしめる。


########################################


馬車を降りた瞬間に広がる、どこまでも澄み切った空。

長時間の揺れから解放された身体に、田舎特有の少し冷えた風が心地よく吹き抜ける。


だが、そんな開放感とは裏腹に、村を包む空気は重く沈んでいた。

のどかな田舎の平穏などそこにはなく、まるで鋭利な刃物を突きつけられているような、張り詰めた緊張感が村の隅々にまで満ちている。


俺が周囲を観察していると、隣でルナリアが大きく背伸びをした。


「ふあぁ〜…! やっと着いたね、アルス! やっぱりお外の空気は最高だよっ」


そう言って両腕を天に突き出す彼女の動作に合わせて、ネイビーブルーの布地が悲鳴を上げるようにぱつんと張り詰める。

Fカップの暴力的な質量が、上向きの力に逆らうようにして「ふにゅん」と形を変え、鎖骨の下あたりまでせり上がっていた。


本人は至って無邪気な笑顔を俺に向けているが、

そのあまりの無防備さに、俺は危うく澄んだ空気を吹き出すところだった。


「んっ。こほん。…そうだな」


俺の上ずった声に、ルナリアは「どうしたの?」不思議そうに小首をかしげる。

金色のセミロングがさらりと肩から滑り落ちる。その可憐な動作はいつもなら周囲の男性の注意を惹くものだが、

この村の人々が向けるのは、そういった浮ついた視線ではなく、藁にも縋るような、助けを求める切実な目だった。


怯える大人たち。そして何も知らずに、広場で泥だらけになって笑い転げる子供たち。

そのアホ面を見て、少しだけ安心する。まだ致命的なところまではいっていないらしい。


「…ねえ、アルス」


それまでの「可愛い相棒」の空気が、一瞬で切り替わった。

ルナリアが腰の銀色の剣の柄に、そっと手を添える。

その赤い瞳には真っ直ぐな正義感が鋭い光となって宿り、高潔で、それでいて圧倒的な戦士の圧が放たれていた。


「あの人たちの目、見てるだけで胸がギュッてなるよ。…でも、大丈夫だよね。だって、今日はわたしたちが来たんだもん」


ルナリアは俺の顔を真っ直ぐに見つめ、凛とした声で続けた。


「きみが隣にいてくれるなら、わたし、この村に一つの影も落とさせない。あの子たちの笑い声、わたし達できっと守ろう!」


俺はルナリアみたいに、まっすぐな正義感は持てない。

けど、冒険者ってのはかっこいいものだ。

そうだ。こういう時に活躍してこそ冒険者だ。


「そうだな。あいつらが明日も、あのアホ面のまま遊べるようにしてやるとするか」


俺は柄にもないことを考えつつ、ルナリアを促して村長の自宅へと歩き出した。



――――――――――――――――――――――



村長宅の重苦しい空気は、外の比ではなかった。

古びた木の椅子に腰掛けた村長は、組んだ指を震わせながら、ゆっくりと、けれど切実な口調で語り出した。


「…最初は、数名の若者が墓地へ行ったきり戻らなくなったのです。

捜索に向かった自警団のうち、命からがら逃げ帰ってきた者は『死者が歩いていた』と。

すでに、五人が命を落としました」


村長の話によれば、墓地はすでに生者の立ち入る場所ではなくなっているらしい。

夜な夜な聞こえてくる低い呻き声と、冷たい魔力の奔流。

単なる「死霊の発生」にしては、あまりに質が悪い。


「そうですか…。お悔やみ申し上げます。俺達がきっと解決してみせます」


俺の言葉に合わせるように、ルナリアも力強く答える。


「わかりました。わたしたちがきっと村を守ってみせます。

いこうアルス。わたしたちならリッチでもヴァンパイアでも、魔王でも勝てるよ!」


隣に座るルナリアが立ち上がった拍子に、彼女の胸元で豊かな質量が「ぷるん」と震えた。

魔王は無理だよ? と、俺は恥ずかしさを誤魔化すように内心で茶化しつつ、気合を入れ直した。


そうだ。俺達なら守れる。勝てる。

ルナリアとなら、どんな困難も超えられる。


俺たちは日没を待ち、村から離れた高台にある共同墓地へと移動を開始した。



――――――――――――――――――――――



夕闇が完全に地平線の向こうへ溶け落ち、冷たい夜の帳が共同墓地を包み込む。


俺は周囲に酷く淀んだ魔力の気配を感じていた。

墓石の間をうごめいているのは…十数体のスケルトン――アンデッド・スモールの群れか。


カチャ、カチャと、嫌な骨の鳴る音が静寂をつんざく。

少し数は多いが、ルナリアの敵じゃない。


だが……一番最悪なパターンを引いたらしい。

スケルトンの群れのさらに奥、歪な墓標の上に浮かぶように佇む、ボロ布をまとったような不吉なシルエット。


リッチだ。まごうことなき、ハイ・アンデッド。


ここは魔力の濃い大森林じゃない。

こんな辺境にいるってことは、手も足も出ないような規格外の個体ではないだろう。


それでも、ハイ・アンデッドには違いない。

俺たちには十分すぎる脅威だ。


「もう少し信心深くしておくんだったなぁ」


俺は内心の舌打ちを軽口で誤魔化しながら、ルナリアの華奢な背中へ手をかざした。

物理耐性向上、魔法攻撃強化、反応速度上昇。詠唱を必要としない俺は、その三つの強化術式を一息に編み上げ、彼女の身体へと流し込む。


「――行くぞ、ルナリア」


「……んっ、ぁ……っ、そんな一気に……。アルス、これ……きみの魔力、すごく熱くて……身体の奥の方まで、直接、ぎゅって……っ」


俺の意志に呼応し、淡い光がルナリアの身体を包み込んだ瞬間。

ビクッと彼女の華奢な肩が跳ね、甘く艶っぽい吐息が夜の空気に漏れた。


内側から熱を帯びた胸が、弾けそうにぱつんと張り詰める。ネイビーブルーの布地越しに、柔らかな頂の先端がポツリと硬く、はっきりとその形を主張し始めた。

だが、本人は自分の肉体がどんな扇情的な変化を起こしているかなど微塵も気づいていない。


「はぁっ……ん、でも、すごい力……これならっ。任せて、アルス!」


熱い呼気を吐き、ルナリアは力強く頷くと、一切の躊躇なく前へ踏み出した。

アストライアの剣はまだ抜かず、前方へ真っ直ぐに左手を突き出す。


「――ファイアブラスト!!」


紅蓮の炎が爆発的に広がり、夜の闇を真昼のように照らし出す。

熱波が頬を叩き、数体のスケルトンが炎に呑み込まれた。


ルナリアの火力なら、この一撃で群れの半数は消し炭になるはずだった。

だが、炎が晴れた後、数体のスケルトンが黒い靄のようなものに守られ、ギリギリで立ち上がってくる。


リッチの強化魔法がかかっているのか。厄介だな。


「ルナリア、突っ込め! 前衛を崩してくれ! こっちは気にするな!」

「了解っ!」


ルナリアはアストライアの剣を抜き放つ。

刀身が爆発的な炎を纏い、宵闇を鮮烈に照らしはじめる。

周囲の酸素が瞬時に燃焼し、チリチリと肌を刺すような熱波となって俺の頬まで届いた。


赤々と燃え盛る真紅の光が、ルナリアの金糸の髪と、星の宿る赤い瞳を鮮烈に照らし出す。

炎の熱で陽炎のように揺らめく視界の中、彼女は大地を深く踏み込み、爆発的な推進力で残ったスケルトンの群れへと単騎で突入していった。


敵陣のど真ん中で、彼女の剣は赤い炎の軌跡を描きながらスケルトンを両断する。

あいつは炎の女神かなんかじゃないだろうか。そう思わせるほどの、圧倒的で暴力的な美しさだった。


俺は腰の日本刀を抜き放ち、奥にいるリッチの動向に注意を払う。

だが、乱戦の中で数体のスケルトンがルナリアをすり抜け、後衛である俺の方へと殺到してくる。


「まあ、そりゃそうかっ! 俺を狙うよな!」


俺は迫る錆びた剣を下から弾き上げる。

手首に重い衝撃が走る。

自分の近接能力はしっかり把握している。俺は殴り合ったら中堅以下だ。まともに打ち合う気など毛頭ない。


いなし、弾き、姿勢を低くして地面を蹴る。

俺はスケルトンから距離を取るように走りながら、前衛で剣を振るうルナリアへと声を張り上げた。


「ルナ! 雑魚を倒しつつ前線を押し上げろ! 俺が指示したらすぐ俺のところへ戻れ!」

「わかった! アルスは逃げるの優先してねっ!」


敵陣のど真ん中で、炎をまといながら剣を振るうルナリアが、アルスの指示に即答する。

ルナリアの理性を削るアルスの力強い指示が、脳に響く。

それは、彼女の根源的欲求(Core_Drive)を甘く刺激する。



[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]



あのリッチ、動かないな…。

様子見か? 俺はスケルトンをいなしつつリッチを注視していたが、動きがない。

何をしているんだ…? そう思った瞬間、奥に佇んでいたリッチのシルエットが、不気味に揺らいだ。


空気が凍りつくような、冷たく濃密な魔力の奔流が起きる。


脅威を見定めていたのか? いや、そんな事を考えている場合ではない。

俺は走りつつ、急ぎルナリアへ指示を飛ばす。


「ルナリア! リッチの魔法攻撃だ! 引け!」


ルナリアもそれに気づき、俺の指示通りに後退しようと地を蹴る。

だが、運悪く足元に半壊のスケルトンが這いつくばっていた。


彼女の細い足首は、容赦なく捉えられてしまう。


「っ…!」


ほんの一瞬。

コンマ数秒の足止めが、致命的な隙を生む。


リッチの放った不可視の闇の弾丸が、空間を削り取るような音を立ててルナリアへと直撃した。


「くぅっ…!」


鈍い衝撃音と共に、ネイビーブルーのバトルドレスの肩口が弾け飛ぶ。

白い肌が裂け、鮮血が夜の空気に散った。

ルナリアが苦悶の声を漏らすが、まだそこまでの傷ではないようだ。


「ルナリア!」


俺は走りながら、即座に彼女へ向けて手をかざし回復魔法をかける。

輝く奇跡の光が彼女の傷を癒やしていく。


「ありがとう! わたしは大丈夫! かすり傷だよ!」


体勢を立て直したルナリアが、気丈な声で叫び返す。


「…もうっ! アルスにカッコ悪いところ見せちゃったじゃないか! もう容赦しないよっ!」


自責と羞恥で頬を染めた彼女が持つアストライアの剣を覆う炎は、

彼女の精神に呼応し、さらに強く燃え上がり、スケルトンの数をどんどん減らしていく。


(なんであいつはリッチの魔法をまともに食らってかすり傷なの……?)


化け物じみた彼女の耐久力に内心でツッコミを入れつつも、俺は背後から迫る嫌な気配に顔を引きつらせた。


「うぉ!? まずい、俺の方がやばい。俺の相手はスケルトン二体なのに!」


いつの間にか追いついてきたスケルトンを、手にした日本刀で四苦八苦しながら弾き、いなし、再び走って逃げる。


夜闇と焦りから、足元の確認が遅れた。

盛り上がった古い墓石の欠片に靴先が引っ掛かり、俺は無様に地面へと転がる。

仰向けになった俺の視界で、二体のスケルトンが容赦なく錆びた刃を振り上げた。


「くそっ」


無駄だと理解しながらも、刀で防御しようと腕を上げる。

――死ぬ。

そう直感した瞬間だった。


「わたしのアルスに、触るなああぁぁっ!!」


凄まじい踏み込みの轟音。

暴風のような熱波と共に、金色の髪をなびかせたルナリアが俺の視界の端から弾丸のように飛び込んできた。


赤い閃光。

アストライアの剣が、横一文字に薙ぎ払われる。


俺に刃を振り下ろそうとしていた二体のスケルトンは、その暴力的な炎の刃によって、抵抗を許される間もなく文字通り上下に両断されていた。

骨の髄まで焼き尽くす圧倒的な熱量が、俺の鼻先わずか数十センチを通り抜けていく。

遅れて爆ぜた炎の余波が、彼女の白いスカートを激しく捲り上げた。



[ System : Lunaria Reason_Gauge -20 / Phase Overheat Reached ]



俺の視界の端に映る、空に浮かぶ月。

アズールが、蒼く瞬いた気がした。



# COORDINATE 0003 END

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