[COORDINATE 0001] Boy Meets Girl
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魂とは座標、生命とは魂に情報が投影され顕現する現象である。
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# End_of_Infinity:
どこともしれない、なにもない場所。
星が煌めく。でも全てが遠くて時間も空間も認識できないそんな場所に俺はいた。
「お兄ちゃん、世界樹を目指して」
俺の心の奥底まで捉えて離さない青い目、光を透かしてきらめく銀色の髪、
神がかり的なほどの完璧さをした顔立ちの造作。
それほどの存在なのに、なぜか俺は酷く懐かしいと思ってしまった。
今にも泣き出しそうな顔をしたその少女は、そういった。
「リゼット!」
俺は無意識に叫び、飛び起きる。
視界に真っ先に飛び込んできたのは、見慣れた、
それでいて、いつみても少し鼓動が高鳴ってしまうような美しい少女の顔だった。
「わっ!びっくりした。あ、おはよう、アルス。…寝ぼけちゃってるの?もうお昼前だよ。」
声のする方へ顔を向けると、隣で自分の愛剣をメンテナンスしていた彼女と視線がぶつかった。
白磁のように滑らかで一切の瑕疵がない肌。
長い睫毛に縁取られた、宝石のように澄んだ深紅の瞳。
朝陽を受けてきらきらと輝く金色の髪が、
その神に愛されているとしか思えない完璧な造作を柔らかく縁取っている。
少女の名前はルナリア・アストライア。
腐れ縁で、二人しかいないこのパーティーの相棒だ。
ウェーブがかった金色のセミロングの髪がさらりと肩からこぼれ落ちる。
剣のメンテナンスのために前傾姿勢になるたび、その凶悪なまでの豊かなふくらみが、窮屈そうに形を変える。
重力に従ってぱつんと張り詰めた布地には、明確な質量の主張があった。
彼女は無防備に、呆れたような嬉しいような、親愛をこめた表情でこちらを見ている。
こいつは、そのFカップを何故下着で覆わないのかと、宇宙の真理を探求しつつ答えた。
「ん、いやなんでもないよ。ちょっと可愛い女の子と星空の中でデートする夢をみてさ。」
ルナリアは不思議そうに小首を傾げる。
その動きに合わせて、胸の双丘がふにゅ、と重たげな軌道を描いて揺れた。
「あはは。女神様とデートでもしてたの?能天気なのか、ロマンチックなのか…。きみは養成学校の頃から全然変わらないね。」
一般常識ではあるが、世界樹は女神様がこの世界に祝福を与えているという大森林の中にある伝説の地だ。
女神様の名前はリゼット。
女神リゼットは、世界樹から祝福を与え、人々を守り続けてくれているらしい。
大昔は、巡礼者などが訪れていたらしいが、現在の大森林は魔族や上位魔物で溢れ魔界と呼ばれ、誰も近づかない。
魔王が世界樹を占拠しているとの噂まである。
これはあれか? 女神リゼットが俺を勇者として見出した流れか?
「うーん。ルナリア、もしかしたら俺は伝説の勇者かもしれないぞ。
回復魔法と支援魔法しかつかえない、神官系勇者の誕生だ。」
けれど、ルナリアは俺の言葉を笑わなかった。
ただ真っ直ぐで裏表のない笑顔を浮かべ、俺の目を正面から見つめ返す。
「きみなら、勇者でも英雄でもなんにでもなれるよ。そしたらわたしは勇者様パーティーの魔法剣士だね。」
――アルスにそう答えるルナリアの言葉には、一片の迷いもない。
それは信頼を超えた、ルナリアのの奥底にあるドロドロとした熱い何かの片鱗だった。
けれど、アルスに無邪気に笑う彼女の涼やかな表情からは、そんな狂熱など微塵も読み取れない。
「でも…。まずは明日のご飯代を稼がないとね。」
そう言ってにこりと笑う。
腰に提げた、シンプルな銀の装飾の施された直剣が、彼女の動きに合わせてかちゃりと小さな金属音を鳴らす。
目先の切実な現実に俺も軽口を叩くのをやめ、出かける準備を始める。
黒の神官服を外套のように肩へ流し、裾の内側に隠した帯へ日本刀を差した。
偽装工作用だ。
「そうだな。ルナリアの食費は通常の三倍だからな。」
未来の勇者様パーティーも今はしがないB級冒険者だ。
まずは日銭を稼がないといけない。
「ちょっとやめてよ。そこまでじゃないよ!きみが少食なだけだし!」
俺達は軽口をたたき合いながら宿のドアを開けた。
これから始まる冒険の毎日に心を躍らせながら。
# COORDINATE 0001 END




