表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/97

37話 破壊神の降臨


「グオオオオオォォォッッ!!」

それは、声ではなかった。宇宙そのものが断末魔を上げているかのような、存在の軋みだった。不完全に復活したゾラスは、定まった形を持たない。ある者には無数の目が蠢く混沌の塊に見え、ある者には光さえ飲み込む終わらない深淵に見えた。それは、認識した者の精神を内側から破壊する、純粋な恐怖の具現だった。

その咆哮だけで、連合艦隊の前衛は物理法則を無視して「消滅」した。爆発ではない。破壊でもない。ただ、そこにあったという事実そのものが、世界の理から消し去られたのだ。

「こちら第七艦隊、シールド消失!もうダメだ!妻に、…(通信途絶)」

「第五艦隊より緊急通信!時間が…時間が歪んで…あ、ああ…(通信途絶)」

黒龍号のブリッジに、仲間たちの最後の声が悲鳴となって響き渡る。軍略家であるリアム侯は、目の前の光景に愕然と立ち尽くしていた。

「なんだ…これは…?戦術が、戦略が、一切意味をなさない…。あれは災害などではない。世界の理そのものを否定する、絶対的な力だ…!」

マリーナ姫は、女王として気丈に前を向こうとしながらも、唇を噛み締め、その瞳から涙が止めどなく溢れていた。スクリーンに映る、一瞬で消え去っていく光の一つ一つが、自分を信じてくれた民の命なのだ。無力感が、彼女の心を氷のように冷たくしていく。

「機関室、被弾!」「医務室、負傷者で溢れています!」「ダメです、もう持ちません!」

黒龍号の内部は、阿鼻叫喚の地獄と化していた。クルーたちは悲鳴を上げながらも、必死に持ち場を守ろうとする。だが、ゾラスの波動は艦の装甲だけでなく、人の心をも蝕んでいく。

その最も深い闇に囚われたのは、アキトだった。

彼の脳裏に、仲間たちとの楽しい記憶が蘇る。宴での笑い声、リョーコの優しい歌声。だが、ゾラスの波動がそれに触れた瞬間、全ての記憶が悪夢のように歪み始めた。仲間たちの笑顔は嘲笑に変わり、リョーコの歌は不協和音となって彼を責め立てる。

そして、父ゼファーの最期の姿。それすらも、ただ世界を滅ぼすための狂気の儀式にしか見えなくなっていた。母を救うという悲願も、贖罪の死も、全てが欺瞞だったのではないか。

(父さんは…結局、世界を滅ぼしたかっただけじゃないか…)

虚無的な思考が、彼の魂を完全に塗りつ潰す。

(僕の戦いは、何の意味もなかったんだ…)

希望、怒り、悲しみ。その全ての感情が消え去り、後に残ったのは、冷たい空虚だけだった。彼はその場に膝から崩れ落ち、手から滑り落ちた愛剣が、カラン、と絶望の淵に響き渡る、最後の音を立てた。


エルザでさえ、その光景を前に、一瞬、呼吸を忘れた。最強の海賊船も、勇敢な仲間たちも、そして希望の象徴だった少年も、今や絶対的な神の力の前に、塵芥のように無力だった。

戦場は、完全な沈黙と絶望に支配された。もはや、誰もが終わりを悟っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ