36話 最終決戦へ
異次元の回廊は、精神まで蝕むような混沌の奔流だった。ゼファーが生み出した思念体のガーディアンたちが、連合艦隊の行く手を阻む。だが、今の彼らは烏合の衆ではなかった。リアム侯の的確な指揮が艦隊を統率し、諸侯の船が己を盾にして黒龍号への道を開く。
回廊の終着点、脈動する巨大な繭を背に、ゼファーが待ち構えていた。
「来たか。愚かな者たちを引き連れて」
「父さん!」アキトが叫ぶ。「あなたのやっていることは、母さんが最も望まないことだ!」
「黙れ!リアーナの心を、お前が知ったような口をきくな!」
ゼファーから放たれる神の力の奔流。しかし、アキトとカーラは怯まなかった。二人は背中を合わせ、互いの死角を完璧に補い合う。アキトの荒々しくも鋭い剣閃がゼファーの防御をこじ開け、その隙間をカーラの疾風のような拳撃が縫っていく。
「双竜閃!」
二人の力が合わさり、竜巻のような連撃がゼファーを襲う。だが、神の力を宿した父はあまりにも強大だった。二人の猛攻をいなしながら、ゼファーはアキトの動きに一瞬、父親としての情を滲ませた。その僅かな隙を見逃さず、クライブの放った狙撃がゼファーのバリアを貫き、カイルの星霊フェルンとリョーコが生み出した光がアキトとカーラの武器に宿った。
「「うおおおおっ!」」
仲間たちの援護を受け、二人の力は極限まで高まる。激しいつばぜり合いの末、アキトの一撃がゼファーの体勢を大きく崩した。
「今よ、アキト!」
その懐に、カーラが閃光のように飛び込み、彼の胸元で禍々しい光を放つペンダントを、その手で掴み取った!
「やった…!」
ペンダントを奪還した安堵も束の間、ゼファーは血を吐きながらも、狂気の笑みを浮かべていた。その瞳には、絶望と、それでもなお消えぬ凄まじい執念が燃え盛っていた。
「……遅かったな」
彼は残された最後の生命力を振り絞り、自らの胸に手を突き刺すと、その魂の全てを背後の繭へと注ぎ込んだ。
「リアーナ…今、迎えに行く…!」
ペンダントを奪われ儀式は不完全なはずだった。だが、父の魂を喰らった繭は、甲高い悲鳴と共に砕け散る。そこから現れたのは、神でも人でもない、ただ純粋な破壊の意思そのものだった。