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35話 決戦の海へ


アキトの心の迷いを打ち砕いたのは、ゼファー自身の行動だった。

「感傷に浸っている暇はない。もはや、誰にも止められん」

ゼファーが最後の星の欠片を天に掲げると、神殿全体が激しく振動し、空間そのものが悲鳴を上げた。彼の背後に、古代のルーン文字が明滅しながら虚空に浮かび上がり、やがて漆黒の亀裂へと姿を変える。それは、星々が渦巻く異次元の祭壇へと続く、禁断のゲートだった。

「アキト、お前が真に母を思うなら、私と共に来い。最後の儀式を、家族で見届けようではないか」

その言葉は、もはや誘いですらなかった。有無を言わさぬ、呪いのような響きを伴ってアキトの心に突き刺さる。ゼファーは光の渦の中へと姿を消し、後には絶望的なまでの静寂と、次元の亀裂から漏れ出す不気味な波動だけが残された。

「……ちくしょうっ!」アキトは地面を殴りつけた。自分の甘さが、最悪の事態を招いた。

「下を向いている時間は一秒もない!」エルザの凛とした声が、アキトの心を打ち据える。「船に戻るぞ!父の過ちは、子であるお前が止めるんだ!一人でじゃない、私たち全員でだ!」

その檄は、黒龍号を通じてアクエリス全土へと飛んだ。最初は、ゼファーの狂気と圧倒的な力の前に、誰もが絶望し、沈黙した。だが、エルザの必死の訴え、そしてマリーナ姫の涙の演説が、人々の心を動かし始める。

リアム侯の艦隊が真っ先に駆けつけた。かつて敵対した諸侯の一人が、領民たちの「姫様を助けろ!」という声に背中を押され、「過去の過ちは、未来への忠誠で償う!」と艦隊を率いて現れた。一人、また一人と、絶望の淵から立ち上がった者たちが、黒龍号の下へと集結してくる。それは、地位も出自も超えた、アクエリスの未来を願う魂の集結だった。

黒龍号のブリッジでは、緊急の作戦会議が開かれていた。

「敵は次元の狭間にいる。通常航行では到達不可能だ」リアム侯が軍事的な見地から困難を述べる。

「ですが、行かねばなりません。民の希望が、私たちを後押ししています」マリーナ姫が、指導者として民の心を代弁する。

アキトは、カーラの横で固く拳を握りしめていた。彼はエルザの前に進み出ると、真っ直ぐにその瞳を見つめて言った。

「エルザ、僕に行かせてくれ。僕が世界を守る。そして、父の間違いを、この手で止める」

その瞳に、もう迷いはなかった。エルザは満足げに頷くと、集った全艦隊に向けて高らかに宣言した。

「野郎ども、聞こえるか!これより我々は、世界の運命を賭けた最大の喧嘩に向かう!旗艦は我が黒龍号!アクエリスの全ての希望を乗せて、決戦の海へ、いざ、出航だ!」


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