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33話 星海帝国の残骸


静寂が支配する深海。黒龍号から放たれた探査艇のライトが、数千年の闇を切り裂いていく。海の民の古文書が示した座標は、生命の気配すら感じられない死の海域だった。クルーたちの間に漂う緊張を破ったのは、ソナーの甲高い反応音だった。

「前方、巨大な構造物を探知!」

オペレーターの叫びに、誰もが息を呑む。ライトの光が届く先に、それは忽然と姿を現した。滅びたはずの海底都市。しかし、その姿は想像を絶していた。巨大なドーム状の都市は、自ら淡い光を放つ未知の鉱石で覆われ、まるで深海に沈んだ巨大な真珠のように荘厳な輝きを放っている。滅びてなお、その威容は失われていなかった。

アキト、エルザ、カーラたちが乗り込んだ探査艇が、巨大な隔壁の前に着水する。不思議なことに、都市の内側は海水で満たされておらず、清浄な空気が保たれていた。彼らが足を踏み入れた瞬間、都市全体が共鳴するように微かな光を灯す。まるで、永い眠りから覚めた主を歓迎するかのように。

一行は都市の中心部、巨大な神殿へと歩を進める。壁面には、星々の運行と生命の進化を描いた壮大なレリーフが刻まれていた。その歴史の中心には、常に一人の穏やかな表情を浮かべた存在が描かれている。それが、かつてのゾラスの姿だった。彼は星々の調和を司り、海の生命を育む、慈愛に満ちた皇帝だったのだ。

神殿の最奥。巨大なクリスタルの祭壇に触れた瞬間、アキトたちの脳内に、奔流のように過去のビジョンが流れ込んできた。

───美しく輝くゾラス。彼に寄り添う、星の力を宿した巫女。二つの存在が共鳴し、世界は調和と繁栄を謳歌していた。しかし、その平和は突如として引き裂かれる。異界より飛来した未知の汚染物質が、巫女を蝕み始めたのだ。ゾラスはあらゆる力を行使して彼女を救おうとするが、汚染は彼の力すら跳ね返し、巫女は彼の腕の中で光の粒子となって消滅した。

愛する者を失った絶望と、自らの無力さへの怒り。その巨大な負の感情が、調和の神を内側から破壊した。彼の慈愛は憎悪に変わり、創造の力は破壊の衝動へと反転する。穏やかだった皇帝の顔は、苦悶と狂気に歪んでいく。

「これが……ゾラスの真実……」

アキトは愕然と呟いた。ゼファーが語った破壊神の伝説。その裏には、あまりにも悲しい愛の喪失があったのだ。一行は言葉を失い、ただ目の前で繰り返される悲劇のビジョンに立ち尽くすしかなかった。海底都市の遺跡に満ちる淡い光は、今はただ、失われた神の悲しみを映す残照のように揺らめいていた。


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