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30話 海戦


「忘れられた群島」へ向かう航路は、ゼファーが張り巡らせた悪意の網によって閉ざされていた。行く手には、煮えたぎる溶岩が海に流れ込む火山島群。そして、その背後には不気味な濃霧が立ち込める迷いの海域が広がっている。

「エルザ船長! 前方に火鉄団の高速艦隊! 後方からは、サイレーン伯の幽霊船団です!」

見張りの声が、黒龍号に緊張を走らせる。

「ハッ、前門の虎、後門の狼とは、上等じゃねえか!」

エルザは獰猛な笑みを浮かべた。

「クライブ、策は!?」

「挟撃を避けるため、まず火山帯に突入! 噴出する火山ガスと視界の悪さを利用し、火鉄団を撹乱。その隙に霧の海域へ逃げ込み、サイレーン伯を叩く!」

クライブの立てた大胆不敵な作戦に、エルザはニヤリと頷いた。

「面白い! やってやろうじゃねえか!」

黒龍号は火山帯へと突っ込んだ。降り注ぐ火山弾を、クライブの神業的な操舵が紙一重でかわしていく。アキトは甲板の最前線に立ち、飛来する火の粉をリョーコと魔力で薙ぎ払った。

「こっちだ、鉄くずども!」

アキトが叫び、敵の注意を引きつける。その隙に、カーラ率いる一団が敵艦に鉤縄をかけ、瞬く間に乗り込んでいく。鉄王国の宿敵との、意地と誇りがぶつかる白兵戦が始まった。

火鉄団を混乱に陥れた黒龍号は、返す刀で霧の海域へと舵を切る。そこは、サイレーン伯の幻惑魔法が支配する死の領域だった。偽りの島影、仲間を惑わす声、そして船乗りを狂わせるセイレーンの歌声。

「みんな、惑わされないで!」

その時、リョーコの澄んだ声が響いた。彼女が両手を広げると、その体から放たれた純粋な光が、濃霧を切り裂き、幻を打ち破っていく。

「敵船、三時の方向!」

カイルの星霊フェルンが、幻の向こうに隠れた敵本体の位置を正確に突き止めた。

「全門斉射ァッ!」

エルザの号令一下、黒龍号の砲門が火を噴く。正確無比な砲撃はサイレーン伯の旗艦を捉え、海上に巨大な水柱を噴き上げた。

「これしきの罠で、この海賊王女エルザと黒龍号を止められると、本気で思ったか!」

エルザの高笑いが、晴れゆく霧の海に木霊した。


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