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7話 リョーコ


ルーナに案内され、訓練所の中でも特に広々とした一室に通された。床には複雑な魔法陣が描かれており、部屋の中央には淡い光を放つ台座が設置されている。契約の儀式を行う場所なのだろう。


「ここに、有望な若き星霊たちを呼んであります。まずは火の星霊、彼女は『サラ』」


ルーナが呼びかけると、部屋の隅から活発そうな燃えるような赤い髪の星霊が現れた。体からは陽炎のように熱気が立ち上っている。サラは自信満々に胸を張り、アキトを見つめた。


「次は水の星霊よ、『ミスティ』」


今度は、透き通るような青い羽根を羽ばたかせて人型の星霊が、静かに姿を現した。穏やかで、どこか神秘的な雰囲気をまとっている。


「風の星霊、『ゲイル』」


軽やかな風と共に、緑色の髪を持つ小柄な星霊が舞い降りた。シエルのシルフとはまた違う、少しおっとりとした印象だ。


「最後に土の星霊、『テトラ』」


ずしりとした足音と共に、いかにもパワー系なゴツゴツした体を持つ、小柄だが頑丈そうな星霊が現れた。少し頑固そうな顔つきをしている。

シエルは興奮した様子で、僕の肩を叩いた。


「すげえ!どいつも将来有望そうだな!さあ、アキト、どいつと気が合いそうか、話しかけてみろよ!」


シルフも僕の周りをくるくると飛び回り、「ガンバレー!」と風を送ってくる。

僕は少し緊張しながら、まず火の星霊サラに近づいた。


「はじめまして、アキトです。よろしく…」


僕が手を差し伸べようとした瞬間、サラはビクッと体を震わせ、後ずさった。


「な、なんだ…?アンタの中から、ものすごい…熱いような、でも冷たいような…変な力を感じるよ!」

サラは明らかに怯えた様子で、ルーナの後ろに隠れてしまった。


「えぇ…?」僕は戸惑った。シエルも「おいおい、どうしたんだ?嫌われちゃったのか?」

と驚いている。

次に、水の星霊ミスティに近づいた。彼女は静かに僕を見つめていたが、僕が近づくにつれて、その透き通った羽根が僅かに揺らぎ始めた。


「…あなたの中にある力…それは、古の…星の…?」

ミスティはそう呟くと、すぅっと姿を消すように後退した。

風の星霊ゲイルは、好奇心旺盛に僕の周りを飛んでいたが、僕が意識を向けると、ピタリと動きを止め、蒼白な顔になった。


「ひぃっ!な、なんか…すごく大きくて…怖い感じがする…!」

ゲイルは慌ててシルフの後ろに隠れてしまった。シルフは困ったようにゲイルをなだめている。

最後に、土の星霊テトラに近づいた。彼は腕組みをして、じっと僕を睨んでいた。

「…フン。得体の知れない力を持っているな。まるで、星の海そのものみたいな…俺様には、まだ早すぎる相手だ」

テトラはそう言い放つと、ドスドスと足音を立てて部屋の隅に戻ってしまった。


「な、なんだよ一体…」シエルは呆然としている。「こんなこと、初めてだぞ…」

ルーナは顎に手を当て、冷静に分析するように呟いた。


「…どうやら、彼らはアキト君の中に眠る、通常とは異なる力の源流を感じ取っているようです。おそらくは、星海帝国の血筋、あるいは異世界から来たことによる未知の要素…それが、まだ若い彼らにとっては畏怖の対象となっているのでしょう」

部屋には気まずい沈黙が流れた。僕には相棒となる星霊を見つけられないのだろうか…? 不安が胸をよぎったその時。

ふわり、と。

部屋の入り口から、一体の星霊が迷い込んできた。他の星霊たちのようにハッキリとした属性の色を持たず、全体的にぼんやりとした淡い光を放っている。時折、ゆらゆらと輪郭が揺らいで見えた。鋭い視線で、きょろきょろと周囲を見回している。


「ん?なんだあいつ?見たことない星霊だな」シエルが首を傾げる。


ルーナも眉をひそめた。「…訓練所の管理下にない星霊ですね。どこから迷い込んだのでしょう。しかし…妙な気配です。こんな光は見たことがないわ。…」

そのぼんやりとした星霊は、他の星霊たちが恐れた僕の存在に気づくと、怖がる様子もなく、むしろ興味深そうに、ふわりふわりと近づいてきた。そして、僕の目の前でぴたりと止まると、じっと僕の顔を見上げてきた。その光には、なぜか敵意や恐怖は感じられなかった。ただ、純粋な好奇心と、どこか寂しげな色が滲んでいるように見えた。


「ワタシのこと覚えてるかしら?昨晩会ったばかりだけどなんだか面白そうなことしてるわね。ちょっとワタシにも試させてよ。」


昨日寝室へやってきた星霊のようだ。僕も、なぜかその星霊から目が離せなかった。他の星霊たちが感じたという僕の中の力に、この星霊は全く反応していない。ただ、僕という存在そのものを見ているような気がした。

そっと手を伸ばしてみると、その星霊はためらうこともなくさっさと僕の指先に触れた。

その瞬間。

パァァァッ!

眩い光が僕とその星霊の間から溢れ出した。温かく、優しい光が部屋全体を満たしていく。他の星霊たちは驚きの声を上げ、シエルは目を丸くして叫んだ。

「お、おい!なんだこの光は!?契約の光…なのか!?」

ルーナも驚きを隠せない様子で、目を見開いている。

「…まさか…この星霊と契約が成立したというのですか?自身の属性すら曖昧な、この迷子の星霊と…?」

光が収まると、僕の手の甲には、淡い星屑のような紋章が浮かび上がっていた。そして、目の前の星霊は、輪郭がはっきりとし、綺麗な笑顔で嬉しそうに僕の周りをふわりと一周した。


「すっげー!やったなアキト!相棒ゲットだぜ!」


シエルは満面の笑みで僕の背中をバンバン叩いた。シルフも祝福するように、キラキラとした風の粒子を振りまいている。

僕は、まだ少し呆然としながらも、目の前の新しい相棒に微笑みかけた。

「君、名前はなんていうの?」


「ワタシは名前覚えてないからね。アンタがつけなさいよ。」


強い光の中から彼女はそう告げた。

ルーナが静かに言った。

「…記憶を失っているようですね。自分が何者なのか、どんな力を持っているのかも分かっていないのでしょう。」


「記憶喪失の相棒か…」

僕は呟いた。「そっか…じゃあ、僕が君に名前をつけてもいいかな?」

「そうだな…リョーコ。 君の名前は今日からリョーコだ。」

星霊は、嬉しそうにこくこくと頷くように光を明滅させた。


「記憶喪失の星霊が相棒ねぇ…」ルーナは、やれやれといった表情でため息をついたが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。

「…まあ、結果的に相棒が見つかったことは喜ばしいことです。ですが、アキト君、そしてその星霊。あなた方の道は、他の者たちよりも険しいものになるかもしれません。これから、この訓練所で基礎からみっちりと鍛え上げますから、覚悟なさい。」


ルーナの紫色の瞳が、厳しくも期待を込めて僕を見据えた。


「はい!」僕は力強く頷いた。隣では、リョーコが、僕に応えるように、ひときわ明るい光を放っていた。

「よーっし!面白くなってきたじゃねえか!な、アキト!」シエルが僕の肩を組んで、ニカッと笑う。

こうして、僕は予期せぬ形で、記憶喪失の星霊と相棒になった。これからどんな困難が待ち受けているのか、まだ想像もつかない。それでも、この小さな、強い光と共に、僕の異世界での新たな一歩が始まったのだ。


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