16話 囚われの身
ここはアイゼンブルク郊外にあるゼファーの砦、
冷たい石の床に、リョーコは座り込んでいた。手首には冷たい枷がはめられ、部屋は薄暗く、空気は重い。数日前、アキトと共にいたところを火鉄団に襲われ、気を失い、目覚めた時にはこの場所にいた。アキトのペンダントも、その際に奪われたのだろう。
「団長の目的は、あのペンダントと…そしてお前だ、星霊」
時折、部屋を見回りに来るローブ姿の男が、そう嘲るように告げる。男はゼファーの部下の一人らしいが、ゼファー本人はまだ姿を現さない。
(アキト…無事でいて…)
リョーコはただ、アキトの無事と、いつか助けが来ることを信じるしかなかった。彼らはリョーコに危害を加える様子はないが、何かを待っているかのように、不気味な静けさで彼女を監視している。時折、彼女自身の内側から湧き上がる不思議な感覚――星の欠片に由来するかもしれない微かな力の兆し――を感じることがあったが、それが何なのか、どう使えばいいのか、リョーコ自身にも分からなかった。
一方、カーラ、キール、アキト、シエルは、リョーコの行方を掴むため、焦燥感を募らせながらも奔走していた。新たなる仲間として結束を誓ったものの、巨大な鉄王国の首都で、ゼファーという謎多き敵に囚われた一人を見つけ出すのは至難の業だった。
「ゼファーに関する情報はあまりにも少ない。火鉄団も一枚岩ではないらしいが…」
カーラは集めた情報を地図に落とし込みながら、眉間の皺を深くする。守備隊にいた頃の人脈を辿ろうにも、父ガルムの失脚後、彼女を信頼する者は限られ、かつての部下たちもガイウス派の監視下にある可能性が高かった。
キールは裏社会の情報網を駆使していた。
「火鉄団の連中が最近、都市郊外の古い砦を頻繁に出入りしているという話がある。元々は使われていない砦のはずだが、妙な動きだ。ただ、それがリョーコの監禁場所と直結するかは…」
酒場の情報屋から引き出した話は、可能性の一つに過ぎなかった。
アキトは、リョーコが連れ去られた時の状況を何度も反芻していた。
「襲ってきた連中は、火鉄団の兵士とは少し雰囲気が違った気がする。もっと統制が取れていて、目的がはっきりしていた…ゼファーという男、一体何者なんだ…」
彼の脳裏には、ガイウスが砦で口にした「ゾラス復活」という言葉もこびりついていた。ペンダントとゾラス、そしてリョーコ。点と点が繋がらない苛立ちが彼を襲う。
シエルは星霊シルフと共に、目立たぬよう街の様子を偵察していた。
「アイゼンブルクの空気は重いな。特に最近、東門から郊外へ向かう怪しい一団を何度か見かけた。武装しているが、正規の兵士ではなさそうだ」
シルフが感じ取った微かな魔力の残滓も、特定の地域――キールが言っていた郊外の古砦の方角を指し示していた。
それぞれの情報が少しずつ集まってくる。断片的だったパズルのピースが、徐々にはまり始めた。
「郊外の古砦…火鉄団が利用し、ゼファーの部下らしき者たちも出入りしている…」カーラは地図上の一点を指で強く押さえた。「リョーコ殿が囚われているとしたら、そこが最も可能性が高い」
「しかし、砦となれば警備も厳重だろう」キールが懸念を示す。
「だからこそ、我々全員の力が必要だ」カーラは決然と言った。「砦の構造、おおよその兵力、見張りの配置。それらを徹底的に洗い出す。シエルとシルフには、再度、危険を承知で砦周辺の偵察を頼みたい。アキトは、リョーコ殿が囚われている塔や部屋に何か特徴がなかったか、思い出せる限りの情報を。キールと私は、砦の古い図面が残っていないか、潜入と脱出のルートを探る」
数日が過ぎた。シルフの命懸けの偵察、アキトの記憶の断片、そしてカーラとキールが探し出した砦の古図。それら全てを突き合わせ、彼らはついにリョーコが監禁されている場所を、砦の北側に位置する古い塔だと特定する。
「よし、これで役者は揃った」カーラは完成した砦の簡易見取り図を前に、一同を見渡した。「作戦は単純かつ大胆にいく。陽動と制圧、そして潜入と救出。それぞれの役割は…」
カーラの声が、隠れ家の内に響き渡る。彼女の指揮の下、奪還作戦の具体的な内容が形作られていく。キールの戦闘力、アキトの剣とリョーコへの想い、シエルの機動力とシルフの特殊能力。それらが一つの目的のために集約されようとしていた。
作戦決行は、月が雲に隠れる三日後の夜と定められた。残された時間は少ない。一同はそれぞれの武器を手に取り、精神を研ぎ澄ませる。リョーコを救い出す。そして、ガイウスとゼファーの野望への反撃の狼煙を上げるのだ。隠れ家には、張り詰めた緊張感と共に、仲間を信じる静かな闘志が満ちていた。




