脈打つ夜をおぼえていて
「ねえ、銀千代の子ども欲しい」
「ああ?何だよいきなり。バカかテメェは」
小春はたまに突拍子のないことを言う。
今も真剣な顔をしてそんなバカなことを言い出すものだから、また始まったと月乃木銀千代は頭を抱えた。
「私ねぇ調べたんだけど、結婚しないで子ども産むと、嫡出でない子?になるんだって。戸籍の父親欄が空欄になるんだってさー」
「フーン」
「で、認知してもらうと父親欄に名前が載るってわけ。月乃木銀千代って」
「ハア」
難しい話はよくわからなかったが、とりあえず小春は自分との子どもが欲しいらしいことはわかったのだが、結婚したいとかそういうのではなく、何で順番をすっ飛ばして子どもの話になったかわからない月乃木はその旨を小春に尋ねた。
すると、小春はあっけらかんと「どうせ結婚してって言っても銀千代してくんないじゃん」と言った。
「まあ……たしかに。めんどくせえからな」
「でしょ?私のことブスとか言うもんね?とても根に持っています私は。でもね、銀千代の血を引いた子どもだったら絶対美形になると思って!絶対子孫残した方がいいよ銀千代」
「何でテメェと子孫を残さないといけねえんだよ」
「私が銀千代似の美形の子どもが欲しいからだよー」
小春の頭を小突きながらそう言うも、小春は悪びれもなくなくそう言う。
「テメェは何のためにガキ作りてーんだよ。周りに見せびらかしたいのか?」
「いやぁー、見た目がいいと人生得することも多いじゃん。銀千代も見た目で得することあるでしょ。親心ですよ」
親になったこともねえくせに言うなと吐き捨てる月乃木に、小春はそれにねと続ける。
「銀千代のこと好きだもん。好きな人の子どもが欲しいと思うのは当たり前でしょ?」
「よく恥ずかしげもなくそんなこと言えんな」
「だって好きなんだもーん好き好き銀千代」
小春はそう言いながら月乃木の両頬を両手で包み込んでぶちゅっと大胆にキスをした。
なんだかんだ言いながらも、月乃木も小春のことを憎からず思っているため、それを拒否したりはしない。
何度もついばむようにちゅっちゅと音を立ててキスをした小春は、両頬を両手で包み込んだまま熱っぽく月乃木を見つめた。
「ね、銀千代、結婚しよ。戸籍上だけでもいいよ」
「バァーカ、やだよ」
「えぇー、やなの?戸籍上だけだよ。子ども産まれたら別れてくれてもいいからさぁ」
月乃木は無言で立ち上がり、カーテンを閉めた。
そして不思議そうに月乃木を見上げる小春を抱き上げてベッドの上に放り出すと、噛み付くように小春の首筋に唇を落とす。
「あっ……」
「するなら戸籍上だけじゃねーよ、ボケ」
「え?ほんと?えへ」
そう言って、月乃木は改めて小春の唇に自分の唇を重ねたのだった。