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ひとりでもキスはできる

「え、なに銀千代。突然どうしたの」

「んだよ、来ちゃ悪いのか?」


 相変わらず狭ェ部屋だな、と独り言ちながら銀千代はずかずかと私の部屋に踏み入ってきた。

 今まさに出かけますよ、といった様子だった私を見て、銀千代はそのきれいな顔を不機嫌そうに歪める。


「別に来てくれていいけど、私今から出かけるよ」

「どこに」

「マツエク」


 はっ、と銀千代は軽く鼻で笑った。

 まあ、この男とはまるで無縁なものだから、鼻で笑いたくなるのも仕方ないが、私にとっては必要なものなのでむっとした。


「それいくらすんの」

「つけ放題で12000円くらい」

「バッカじゃね」

「バカじゃないですう。銀千代くんはおしゃれに気を遣ってる彼女を褒めてくださーい」


 ソファにどっかりと座った銀千代の頬をつんつんしながら私は言った。鬱陶しそうに眉を(しか)める銀千代が面白くて、更につんつんと頬をつつきまくる。いい加減鬱陶しかったのか、やめろやと言いながら銀千代は私の手を払いのけた。


「キャンセルしろよ」

「やだよ、キャンセル料かかるしもう前につけた分殆ど残ってないんだよ、みっともないじゃん」

「別にみっともなくねえけど」

「え?ほんと?小春ちゃんかわいい?」

「はいはいカワイイカワイイ」

「あらまー嬉しい。キャンセルはしないけど」

「あ?」


 二時間くらいで帰るから待っててねぇ、と言い残し、私の背後から文句を投げつけまくる銀千代を無視して部屋を後にした。


 ***


「ただいまあ。銀千代、いい子にしてた?」


 銀千代と同じくらい豊かになったまつ毛に上機嫌で私は帰宅したが、銀千代ははちゃめちゃに不機嫌な顔で私をじとっと睨みつけていた。

 若干部屋が荒らされているような気もするが、まあよしとしよう。


「ちゃんといい子でお留守番してて偉いね。よしよし」


 そんな銀千代に怯みもせず、明らかに子供扱いをして銀千代の頭を撫でたらますます銀千代の不機嫌さに拍車がかかる。

 わかりやすい銀千代が可愛くて、ソファでぶーたれている銀千代をがばっと抱きしめて、抱きしめたままムツゴロウさんのように銀千代の頭をわしゃわしゃ撫でた。


「銀千代かわいいねえ!かわいいかわいい、私に放っておかれて寂しかったねえ!銀千代かわいいねえ!」

「あああ、うぜえ」

「うざいのにやめさせないんだねえ!銀千代は小春ちゃんのことが大好きなんだねえ!かわいいねえ!」


 うざいと言いながらも本気でやめさせようとしない銀千代は、なんだかんだで私のことが本当に好きなんだと思う。いつもブスだのなんだの言ってくるけど。私が好きって言ってハグしようとすると、すっと避けるけど。本当に気難しいねこみたいだ。でも、気付いたらそばにいる。やっぱりこれって、銀千代は結構私のことを好きだと思う。

 これはきっとうぬぼれなんかじゃない。


「ねえねえ、銀千代の好きな女の子の名前教えて」

「あ?」

「教えてくれたらちゅーしてあげる」

「いらねーわ」

「いいの?ほっぺたじゃなくて口にちゅーだよ?いらないの?」

「いらねーつってんだろ」


 照れ屋さんな銀千代の口から私のことが好きという言葉が無性に聞きたくなって、銀千代にエサを与えてみるが、なかなかどうして釣れてくれない。

 やっぱり銀千代は照れ屋さんだ。

 きれいな顔を歪めてそっぽを向く銀千代の頬に、ぷちゅっと不意打ちでキスをすれば、銀千代はその大きな目を見開いた。


「は?」

「私の好きな人の名前はねえ、銀千代だよ。ね、銀千代も好きな人の名前教えて」

「あーうぜえ。小春だよ」

「わあ嬉しい!ありがとう」


 その言葉を聞いてあーよかったとニコニコしていたら、銀千代の顔は更に不機嫌そうになった。


「どうしたの?両想いだよ。銀千代もニコニコすべきでしょ」

「……好きな奴の名前言ったらチューすんじゃねえのかよ」

「……ああ!ちゃんと覚えてたんだ。かわいいねえ銀千代!」


 そう言って私は銀千代と同じくらいふさふさになったまつ毛を伏せて、改めて銀千代の唇にキスをしたのだった。

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