朝日に眩暈
銀千代が割と大きめに寝返りを打ったときに、目が覚めてしまった。
上体を起こして枕元に置いてあったスマホを見ると、まだ起床すべき時間よりもずいぶん早い。
よくも起こしてくれたな、と思いながら銀千代を睨むものの、当の本人は気持ちよさそうに眠っていた。
銀千代は、普段こそ無表情だけど、たまにとても表情筋が動く。
お人形のように豊かなまつ毛が、カーテンの隙間から漏れる朝焼けのぼんやりした光に照らされて影を作っていた。
黙っていればとっても綺麗なのに、そのお上品な口からはいつもすさまじい口吻が飛び出すのだからわからないものだ。
それでも、銀千代は私にはたまに、ものすご~くたまに、とてもやさしい。特に寝ぼけているときは優しい。これが彼の本性なのか?と思うけれど、それを言うと銀千代は猛烈に怒るので、それはもう言わないでいる。
銀千代の顔にかかった髪を、そっと指で払った。
やっぱり、綺麗な顔をしている。
銀千代の隣にもう一度身体を横たえて、至近距離でその顔を見つめた。
顔中のどこを見ても、ケチのつけようのない顔だ。
私もこんな顔に生まれたかった。
そんなとき、すうっと大きく息を吸いながら、銀千代の目が薄く開いた。
「おはよ」
「……はよ」
小さく呟くと、銀千代はまだどこかぼんやりした、掠れた声でそう返してくる。
「……今何時」
「5時くらい」
「……まだ寝れんじゃん」
うんざりしたように眉間にシワを寄せながら、銀千代は私を抱き寄せて抱き枕なんかのようにしながら気だるげに呟いた。
銀千代の鎖骨のあたりに顔を押し付けられた私は、ふがふがとしながらも「銀千代の顔が綺麗だったから見てた」と言った。
「あー……はいはい」
銀千代は私の頭のてっぺんらへんに顔をうずめながら、さも当たり前だと言わんばかりにぞんざいな返事をしながら、またすうっと寝入ってしまった。
とく、とく、とく、と規則正しく脈打つ銀千代の心音を遠くに聴きながら、私はカーテンの隙間からさす黄金の光を見ていた。
こんな朝も悪くないな、と思って、私もまた目を閉じた。