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第7話

 ダンジョン内のモンスターをすべて倒し尽くしてしまった俺は、前回ホブゴブリンがいた広い空間へとやってきていた。

 前回は出入り口が土砂で埋まっていたはずなのに、今はそれがなくなっていたので容易に中に入ることが出来た。

 しかし部屋の中には何もない。

 あるのは地面に描かれた光る紋様だけ。

「もうここにいても意味はないし、帰るとするか」

 俺は紋様から放たれている光にそっと手を伸ばした。

 直後、俺はまばゆいばかりの光に包まれて――気が付くと自分の部屋のドアの前にいた。

 

「ふぅ……あ、もうこんな時間か」

 時計を見上げると時刻は午後十一時。

 ゴブリン狩りに夢中になっていて時が過ぎるのを忘れていたようだ。

 それにしても……。

「さすがに腹減ったなぁ……」

 だがお金はない。

 換金するアイテムもない。

 いや、正確には<プラチナナックル>ならばあるのだが、これはもう少し手元に置いておきたい。

「なんかあったかな、冷蔵庫の中」

 キッチンに向かうと冷蔵庫を開けてみた。

 中には残りわずかなマーガリンと賞味期限ぎりぎりの卵が一つ。

 我ながら情けなさすぎて涙が出そうになる。

「はぁ~。とりあえず今日はこれで我慢するか。そんでもって明日こそはダンジョンで換金できそうなアイテムを手に入れよう」

 自分に言い聞かせるようにつぶやくと、俺は卵を割ってそれを直接口に入れ、ごくんと飲み干した。

 

 翌朝、俺は腹が減りすぎてアラームが鳴るより先に目覚めてしまった。

 パン屋でまたパンの耳をもらいたいところだが、昨日もらいに行った際、店員に割と嫌な顔をされたので今日はもらえないかもしれない。

 それならばすぐにでもダンジョンをみつけて、そこでアイテムをゲットしてやる。

 俺はそう意気込んで、手早く着替えを済ませると家を出る。

 スマホ片手に街中をくまなく見て回る俺。

 今の俺のレベルは24で、しかも相手に与えるダメージが五倍になるという激レア武器を持っている。

 なので、ある程度はランクが高めのダンジョンでもなんとかなるかもしれない。

 とはいえ、緊急脱出をしてしまうとアイテムもレベルも何もない初めの状態に戻ってしまうので、それほど無茶も出来ない。

 ちょうどいい感じのダンジョンがみつかればいいのだが……。

 そんなことを思いつつ街を歩いていると、さびれた神社の境内付近で、ブラックホールのような黒い塊を発見した。

「おっ、あったぞ」

 喜び勇んでそれに近付いていき、ダンジョンのランクを確認する。

 スマホの画面の上を見ると、

 <群馬県伊勢崎市 V―1ダンジョン 地下〇/九階>

 と表示されていた。

「Vか……Vくらいなら今の俺だったら大丈夫な気もするんだけどな、どうだろうな」

 俺はダンジョンへの入り口を前にして頭を悩ませる。

 が、すぐに俺の腹の虫が空腹を訴え出したので、

「よし、行ってみるか!」

 俺は目の前のダンジョンに潜ることを決めた。


 <群馬県伊勢崎市 V―1ダンジョン 地下一/九階>


 ダンジョンに入った俺は<プラチナナックル>をスマホから取り出し、それを両手に装着する。

 両手をガツンと打ち鳴らして、

「さあ、やってやるぞっ」

 と自分を鼓舞する。

 どこからでもモンスターよ、かかってこい。と意気込んでみせるが、

 ぎゅるるる~。

 俺の腹はモンスターよりも食べ物を欲しているようだった。

「何か食べられるアイテムか、換金できそうなアイテムをみつけないとな」

 そうして俺は、足取り重くダンジョン内を歩き出した。

 

 しばらく歩くと前方から『ブフッ、ブフッ』という声が聞こえてきた。

 通路の曲がり角からその声はどんどん近付いてくる。

 聞こえてくる音からしてモンスターに間違いないが、果たしてどんなモンスターだろうか。

 俺は少しばかり緊張しながら通路の曲がり角を注視した。

 すると壁に手が見えた。

 そして直後、ぬぅっと全身が現れ出る。

「ぶ、豚っ!?」

 俺はその姿を見て思わず声を漏らした。

 というのも通路の曲がり角から姿を見せたのは、二足歩行をする豚のようなモンスターだったからだ。

 手にはヤリを持ち、軽装の鎧に身を包んではいるが、顔は完全に豚そのものだ。

 俺はスマホを通してそのモンスターを再度見る。

 とそこにはオークという文字が表示されていた。

「オークか……アニメか何かで聞いたことある気がするぞ」

 豚のようなモンスター、オークは俺と目が合うなり、ヤリを器用に振り回してから身構える。

 見た目によらず機敏に動けるらしい。

『ブフファッ!』

 次の瞬間、ヤリを俺めがけて突き出してきた。

 なかなかに素早い動きだったが、俺はそれを後ろに飛び退きかわす。

『ブファッ!』

 続けてオークはヤリを何度も突き出してくる。

 俺はそれらを避けながらタイミングを見計らう。

 そしてオークが一瞬体勢を崩した隙を狙い<プラチナナックル>を装着したこぶしで、オークの出っ張った腹にパンチを打ち込んだ。

『ブファッ……!』

 オークの腹に俺のこぶしがめり込んで、オークは口から血を吐き地面に沈む。

 身体がくの字に折れ曲がったまま、オークは灰と化して消えていった。

 それと時を同じくして、スマホが俺のレベルアップを告げてくれる。

 さらに、オークは消滅する際にアイテムをドロップしていった。

 そのアイテムは<オークの肉>というもので、俺が夢にまで見た、まさに食べられるアイテムだったのだ。



 ――――――――――――――――――――――――ー

 オークの肉――とても栄養価の高い肉。生のままでも食べられる。

 ――――――――――――――――――――――――ー



「これ、生でも食べられるのか……?」

 俺は<オークの肉>を手に取り、あれをあらゆる方向から見てみる。

 ピンク色をした<オークの肉>はそれなりに美味しそうではあるが、もとがブサイクな豚のモンスターだったことを思うとやや食欲が減退する。

 ぎゅるるるる~。

「うーん……背に腹は代えられないか」

 俺は少しの間考えを巡らせたのち、腹の足しになるならと<オークの肉>に思いきりかぶりついた。

 もぐもぐもぐ……。

「お、美味しいっ! な、なんだこれっ、すげーうまいぞっ!」

 思わず声があふれ出る。

「なんだよこれ、すげぇうまいっ! うますぎるっ!」

 <オークの肉>はオークの見た目とは裏腹にとても美味なものだった。

 

 俺はここがダンジョンの中だということも忘れ、一心不乱に<オークの肉>を頬張り食べ進めていった。

 そして五分後、かなり大きな肉の塊だったそれは、すっかり俺の腹の中にすべておさまってしまっていた。

「ふ~、腹いっぱいだぁ……」

 数日ぶりに満腹というものを実感する俺。

 腹を撫でつつ満足感で悦に浸る。

 とそんな時、

『ブフフー、ブフフー』

 オークがまたもやってきた。

 しかも今度は同時に五体も。

「おっ、出たなオーク。お前たちが美味しいとわかった以上、絶対に逃がしはしないからなっ。覚悟しろよっ!」

 俺はオークが落とすであろうドロップアイテムの<オークの肉>目当てに、威勢よく掛け声を上げながらオーク狩りを開始するのだった。


 五体のオークたちは<オークの肉>をドロップすることはなかったが、その代わりに俺のレベルを4上げてくれた。

 おかげで俺のレベルは29にまで達した。

 さらに地下一階のフロアを探索したことでアイテムを二つゲットした。



 ――――――――――――――――――――――――ー

 三日月刀――三日月のような形をした刀。斬れ味はなかなかのもの。


 エリクシア――若返りの秘薬。肌に塗り込むと実年齢も肌年齢も十歳若返る。

 ――――――――――――――――――――――――ー



 これらは換金額がそれぞれ50万円、200万円とそれなりに高額だったので換金することにした。

 今の俺には<プラチナナックル>があるから武器は必要ないし、若返りの薬などまったくもって興味がないからな。

 今すぐ換金してもいいのだが、万が一必要になる可能性も考慮して、このダンジョンを出たら換金しよう。

 そう決めた俺はとりあえずこの二つのアイテムをスマホの中に収納しておく。

 そして意気揚々と再びダンジョン探索を開始した。

 

 <プラチナナックル>の効果はやはり絶大なものだった。

 ダメージ五倍もさることながら、獲得経験値三倍もとてつもない効力を発揮した。

 そのおかげで俺のレベルはぐんぐんと上がっていった。

 襲いかかってくる数多くのオークたちを返り討ちにしたことで俺のレベルはいつしか大台を超えていた。

 そして地下八階に下り立った頃には、俺のレベルは102に到達していたのだった。



 ――――――――――――――――――――――――ー

 NAME:カグラ・シロウ

 LEVEL:102

 STR:110

 DEF:108

 AGI:105

 LUK:69

 ――――――――――――――――――――――――ー



 <群馬県伊勢崎市 V―1ダンジョン 地下九/九階>


 俺はオークが巣食うダンジョンの最深階へとやってきていた。

 レベルが100を超えた俺にはもうオークなど敵ではない。

 一度に何体出てこようが無傷で倒せる自信がある。

 それもこれもみんな<プラチナナックル>のおかげだ。

 やはり換金しなくて正解だった。

 俺のほかに【ダンジョンサバイバー】のプレイヤーが何人いるのか知らないが、これならそうそう命を狙われることもないだろう。

 いや、もしかしたらもう、とっくに俺がプレイヤーの中で一番強くなっているかもしれないな。

 などと考えながら俺は最深階のフロアを歩いて回る。

「ん? あれは……」

 すると前方に、広い空間の中央付近でたたずむオークに似たモンスターを発見する。

 しかし手に持っているヤリはオークのそれよりも一回りも二回りも大きく、よく見ると身体もやや大きい。

 俺と目が合っているにもかかわらずこっちに向かってこないことを鑑みるに、おそらくこのダンジョンのボスだと思われた。

 俺はスマホを取り出して画面をのぞき込む。

 とそこにはオークキングと表示されていた。

「オークキングか……間違いなくボスだよな、やっぱり」

 オークキングとやらは俺の目をしっかりと見据えたまま微動だにしない。

 ただ部屋の中央で悠然と立っているだけだ。

 その雰囲気からは強者の余裕のようなものが漂って見えた。

 だが自分の強さに自信があるのは俺も同じだ。

 レベル102で、しかも相手に与えるダメージが五倍になる<プラチナナックル>を装備した俺が、Vランク程度のダンジョンのボスに負けるはずがない。

 俺はオークキングから目をそらすこともせず、大部屋へと直進していき、そこに足を踏み入れた。

 直後、俺を逃がすまいと背後に土壁がせり上がって、広い空間は密室と化した。

『ブフゥー……』

 オークキングが大きく息を吐く。

 そして俺に向かって、

『ブフゥゥー』

 まるで予告ホームランでもするかのように大きなヤリを突き出してきた。

 どうやら俺を確実に仕留めたいようだ。

 ならば俺も血祭りに上げてやろうじゃないか!

「はあぁー!」

 気合いとともにオークキングの懐に飛び込む。

 そして渾身の力を込めて右手を振り抜くと、

 バキィッ!!

 と音を立ててオークキングのヤリが砕け散った。

 オークキングの攻撃手段を奪ったことで勝利を確信した俺は、そのまま左手のこぶしを顔面めがけて打ち出す。

 しかしその瞬間――

「うぐぅ!?」

 突然腹部に強烈な痛みを感じたと同時に、俺は後方へと吹き飛ばされた。

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