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第3話

「……な、なんだ……?」

 いきなりどうしたというのだろう。

 すこぶる体調が悪い。

 さっきまでの勢いが嘘のように俺は地面に膝をつく。

『ギッギッギッ』

 顔を上げるとホブゴブリンが立ち上がって今度は俺を見下ろしていた。

 癇に障るいやらしい笑みを浮かべている。

 ……ど、どういうことだ。

 俺の体は一体どうなってしまったのだ。

 ぼんやりとする頭を働かせ懸命に考える。

 俺がホブゴブリンから受けたダメージは今のところ一つもないはずだ。

 あるのは自らホブゴブリンの剣を握り締めた時に出来た傷だけだ。

 そこで俺はハッとなり手のひらに視線を移した。

 も、もしかして――

「け、剣に、毒か何か、塗られていたのか……?」

『ギェッギェッギェッ!』

 正解だとばかりに高笑いをしたホブゴブリンは落ちていた剣をゆっくりと拾い上げる。

 そしてホブゴブリンは剣を上段に構えると、

『ギャギャッ!』

 口角を上げてみせた。

 まるでこれで終わりだとでも言っているかのようだった。

『ギャギャギャッ!』

 ホブゴブリンが剣を振り下ろしてきた。

「くっ……」

 俺は体をねじってなんとかそれを避ける。

 だが体の自由が思うように効かず、とてもじゃないが何度も避ける自信はない。

 とそんな時、

「そ、そうだっ」

 俺は毒消し草を入手していたことを思い出した。

『ギャギャッ!』

「ぐぅっ……」

 地面を転がりながら俺は壁に行きつき逃げ場を失う。

 壁を背にした俺はスマホを取り出し、そこに収納されている毒消し草を具現化させると、口に含みすぐさまそれを飲み込んだ。

 とほぼ同時にホブゴブリンの渾身の一撃が振り下ろされ――

 ゴッ!!

 ――毒消し草の効果で自由に動けるようになった俺は剣撃を紙一重で避けつつ、ホブゴブリンのあごにカウンターアッパーをお見舞いしていたのだった。

『グ、ギャ……』

 ホブゴブリンが膝から崩れ落ちた。

 俺の会心の一発は見事にホブゴブリンの命を刈り取ったようで、ホブゴブリンの体は灰塵となり消えていく。

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 スマホの音が室内にこだましている。

 おそらくレベルがまた上がったのだろう。

 俺がスマホを確認しようとしたところで、ホブゴブリンがいた地面が突然光を放ち始めた。

 見ると地面には光で縁取られた奇妙な紋様が浮かび上がっている。

「ああ、そうか。これが……」

 説明書きに記されていた地上へと戻る出口か。

 書かれていた記述を信じるならば、この光に触れればもといた場所へと帰れるに違いない。

「ここにはもう用はないし……ふぅ、とりあえず帰るか」

 俺は地面に描かれた紋様から溢れ出る光にそっと手を伸ばした。

 すると光に俺の手が重なった瞬間、俺はまばゆいばかりの光に包まれ――

「……こ、ここは、俺の部屋か……」

 目を開けた時には俺は自分の部屋に戻っていた。




 自分の手をみつめて、手を閉じたり開いたりしてみる。傷は完全に塞がっていた。

 さらにスマホを操作し、【ダンジョンサバイバー】のホーム画面から<アイテム>の項目を選ぶ。

 そこには<道連れ石>の文字がたしかに書かれていた。

「夢、じゃなかったんだよな……やっぱり」

 ついでに<ステータス>の項目をタップしてステータス画面を表示させてみた。

 すると俺のレベルはホブゴブリンを倒したからだろう、



 ――――――――――――――――――――――――ー

 NAME:カグラ・シロウ

 LEVEL:13

 STR:30

 DEF:26

 AGI:25

 LUK:11

 ――――――――――――――――――――――――ー



 かなり上がっていた。

「ん?」

 とここで俺はホーム画面の<フレンド>の項目に一件の通知がきていたことに気付く。

「なんだろう……」

 気になってそれを押してみると<フレンド申請がきています>の文字が出た。

 説明書きを読んだ限りではたしかに【ダンジョンサバイバー】にはフレンド申請という機能もあるようだった。

 しかしそもそもこのゲームに俺以外のプレイヤーがいたことに驚きだ。

 いやまあ、よく考えればこのゲームを紹介してくれた人物がいるわけだから俺以外にプレイヤーがいてもなんらおかしくはないのだが、ダンジョン内で誰とも出会わなかったのでそう勝手に思い込んでいたのだ。

「フレンド申請か……とりあえず見るだけ見てみるかな」

 もしも相手が変な奴だったら無視すればいい、そう思い俺は文面を確認する。

 

 <はじめまして、カグラさん。わたしはアキツキと申します。

 群馬県伊勢崎市在住の二十九歳です。

 おそらくカグラさんも群馬県か、もしくは近隣の県にお住まいなのではないでしょうか。

 わたしはつい今しがた、フレンド機能を利用して自分の近くにいるプレイヤーを検索したところ、カグラさんのお名前がヒットしたので連絡させていただきました。

 もしよろしければわたしとお友達になっていただけないでしょうか。

 プレイヤー同士、お話ししたいことも沢山あります。

 是非ご検討ください。お返事お待ちしております。>

 

「うーん……どうするかな」

 文面だけではなんともわからない。

 少なくとも無礼な奴ではなさそうだが。

「とりあえず、オーケーしてみるか」

 俺は【ダンジョンサバイバー】についてはまだ初心者で知らないことだらけだ。

 ならば情報交換を期待して友達になっておいても損はないだろう。

 そう考え、俺はアキツキさんとやらから送られてきたフレンド申請を承諾した。

 

 その後、アキツキさんと電話で何度か連絡を取り合った。

 連絡を取り合う中でアキツキさんは秋月綾という名前で、とある会社の社長秘書をしている女性だということがわかった。

 秋月さんは俺と同じく群馬県の伊勢崎市に住んでいるという。

 同郷ということもあり、また同じゲームのプレイヤーということもあって俺たちは意気投合し話が弾んだ。

 その結果、

「え、会う?」

『うん、明後日の日曜日なんだけど、よかったら会わない?』

 秋月さんは俺と会いたいと言い出した。

「あー、えっと……」

『日曜日だと都合が悪いかな?』

「いや、その……」

 俺は秋月さんに自分がニートだということはすでに話してある。

 だから今さら恰好をつける必要はない。

 ないのだが……おそらく秋月さんは俺に対して好印象を持ってくれていると思われた。

 そのため彼女いない歴イコール年齢で、顔に今一つ自信がない俺を見たら秋月さんはがっかりするのではないか、と俺は不安になり言葉に詰まってしまった。

 しかしその考えもすぐに消え失せる。

 よくよく思えば俺はもう何も失うものはないのだ。

 もし秋月さんに嫌われたとしても別にどうということはない。

 学生時代の俺なら女性と初めて顔を合わせることに怖じ気づいていたかもしれないが、今の俺はそんなことを気にする必要なんてないのである。

 なので――

「わかりました。いいですよ。日曜日に会いましょう」

 俺は秋月さんと直接会うことに決めた。


 それから二日後の正午過ぎ、俺は待ち合わせ場所である伊勢崎市内の喫茶店にやってきていた。

 約束の時間より十分早く俺は到着していた。

 ズズズ……とストローでアイスコーヒーを飲みつつ秋月さんを待つ。

 店内はクーラーが効いているので、夏の暑さから逃れるようにお客がわんさとやってくる。

 そんな中、一人の女性が店内に入ってきた。

 その女性は店員さんに何やら話しかけた後、俺に視線を向けてくる。

 そしてそのまま俺のもとへと近付いてきた。

「はじめまして。でいいのかな? 秋月綾です。きみが神楽士郎くん、でいいんだよね」

「はい、はじめまして。神楽士郎です。よろしくお願いします」

 秋月さんはかなりの美人さんだった。

 社長秘書をしているということだったのでなんとなく予想はしていたが、秋月さんはそれをはるかに上回る綺麗さだった。

「ん? 神楽くん、どうかした?」

 秋月さんは「おーい」と俺の顔の前で手を振る。

 見惚れていましたとは言えず「あ、なんでもないですっ」と俺はごまかした。

「そう? ならいいんだけど」

 と秋月さんは魅力的な笑顔を俺に見せる。

 その姿を目の当たりにして、二十七年間女っ気がなかった俺にももしかしたら遅い春がやってくるのではなかろうか。などと、そんな童貞感丸出しの浅はかな考えが俺の頭の中に浮かんだ。

「二十七歳には見えないわ、もっとずっと若く見えるよ神楽くん」

「そうですか。でもそれを言うなら秋月さんも二十九歳には全然見えませんよ」

「うふふ、ありがとっ」

 他愛もない会話をしつつ、運ばれてきたオムライスに舌鼓を打つ俺と秋月さん。

【ダンジョンサバイバー】の話など一切してはいないが、俺にとってはかなり楽しい時間を過ごしていた。

 

秋月さんは大人の女性で聞き上手なので、俺は気分よくなんでも話してしまう。

 ニート生活のこともこれまでに彼女が一人もいなかったことなども、話す気がなかったのについぺらぺらと喋ってしまった。

 それに対して秋月さんは嫌な顔一つせず、「ふふっ」と微笑んでくれた。

 しばらくゲームとは関係のない話をしていた俺たちだったが、店内がだいぶ混んできた頃、秋月さんが【ダンジョンサバイバー】の話題へと話を変えた。

「ところで神楽くんはまだ一回しかダンジョンに潜ってないんだよね。ってことはさ、レベルもあんまり高くないの?」

「そうですね。ほかのプレイヤーの人たちがどれくらいかはわかりませんけど、俺の今のレベルは13です」

「そうなんだぁ」

 とうなずく秋月さん。

「秋月さんはレベルいくつなんですか?」

 訊いてみると、

「わたしも神楽くんと同じくらいだよ。わたしもダンジョンに潜ってまだ日が浅いからね」

 秋月さんは笑ってそう返した。

「ダンジョンでアイテム拾ったでしょ。どんなもの拾ったの?」

「ポーションとか毒消し草とかですね。でもダンジョン内で使っちゃいましたけど」

「ふ~んそうなんだ。じゃあアイテムは何も持ち帰ってないの? もしよさそうなアイテムを持ち帰ってたらわたしが買い取ってもよかったんだけど」

 俺がニートで経済的にあまり余裕がないことを知っているから秋月さんはそう言ってくれる。

 だが俺が持ち帰ってきたアイテムといえば<道連れ石>だけだ。

 このアイテムは持っている者が死んだ時に周囲の者を道連れにして爆発するという石なので正直使い道はない。

 死んだらそのあとどうなろうが知ったことではないからな。

 そういう意味では秋月さんも<道連れ石>などいらないだろう。

 優しい秋月さんのことだから、俺が<道連れ石>を持っているとわかれば「買い取ってあげる」と言ってくれそうだが、それはさすがに気が引ける。

 なので俺は、

「すいません、ほかには何も拾ってないんです」

 と<道連れ石>を持っているということはあえて話さないでおいた。

 まさかこの時のこの判断が、俺の運命を大きく左右することになろうとは、この時の俺にはまったく知る由もなかった。

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