5.独り立ちのために
予想以上に早く、私とスランの婚約破棄は認められた。
情報通のシレーナ叔母様曰く、ダスネロモ侯爵と侯爵夫人は今回のことでスランとクルツの仲を知り猛反対。が、二人が頑なに別れようとしないため、最後には折れたのだとか。
クルツを側室として迎えるのか。それともクルツの父にてきとうな貴族籍を与え、いずれ生まれる二人の子供を嫡子とするのか。それはわからないけれど、いずれにせよスランが新しい相手を見つけるのは相当難しそうだ。
『ワタシの勘によると、スラン坊は平民なんて遊びだ!って割り切る性格だったんだけどねぇ』
シレーナ叔母様は、そう不思議そうに首を捻っていた。
向こうの事情はともかく、晴れて独り身となったことに変わりはない。
「ケミィ。婦人会から招待状は来てる?来てるわよね?」
「はい。それはもう色々な所から」
侍女がサルヴァから溢れそうなほどの手紙を運んでくる。
一番上の手紙を開くと、案の定婚約破棄への驚きと慰め、そして婦人会へ招待する旨が書かれていた。
他の手紙も同じ内容だろう。どの会合も、『平民に婚約者を奪われた令嬢』を肴にお茶を楽しみたくて仕方がないのだ。
「全て処分いたしますか?」
「まさか。全部出るわよ」
早速返事を書くため、椅子に座る。
「……出る、……え、あの、お嬢様。全ての招待をお受けするということでしょうか?」
「ええ。準備をお願い。服は回し着するから、控えめな物をいくつか出しておいて」
「ま、まわし…」
目を見開き固まる侍女は、そのまま動こうとしない。
公爵家でもあるまいし、貴族としての体面など最低限できていればいいだろうに。
「…ケミィ。私はまだ、皆さんとのお話を楽む気分になれないの」
目を伏せ、囁くように言う。侍女は数回瞬きすると、眉を下げた。
「嘘ですよね?朝のお食事も全て召し上がってましたし」
「嘘だとわかってどうして口にするのよ」
「お嬢様のお考えがわかりかねるので…」
侍女から完全に視線を外し、便箋を取り出す。
細く書ける筆を選び、招待状の主の名前を綴る。
「弱い者に奉仕する。貴族の義務って、素敵よね」