31.ユーシュの変化
「ご満足でしたら、失礼させていただきます」
ダレークが立ち上がる。ヒリンはそれを止めない。
「最後に一つだけお聞かせください。何故渋られたのですか。私や、ユーシュ様の問いに」
侍男が差し出したコートを手荒く奪い、自身で着る。彼はもうダレークに仕えられないだろう。ヒリンが原因の一端だ。働き口に困っていれば、伝手で面倒を見ようと考える。
「このようなことが起こると思っていたからです。何かと女性は、礼節を重んじますので」
「ご自分に非があるとは思ってらっしゃるのね。少し安心しました」
隣室からユーシュが戻ってくる。
泣いた跡がはっきり残った頰、風にでも煽られたのかと思うほど乱れた髪に、ヒリンはケミィを見る。ケミィは目を伏せるだけで、ヒリンの視線に応えない。
「ヒリン様。日の陰りまでお側にいられたこと、大変嬉しかったです」
「ユーシュ様…」
「ヒリン様のお力添えのおかげで、ヤケッナの殻を破くことが叶いました」
ユーシュは、笑顔を浮かべている。
ヒリンに深く礼をすると、ケミィと侍男にも会釈を向ける。しかし、ダレークには一瞥もせず部屋を出た。
その様子に残されたダレークは肩を竦める。
「面倒な…」
機嫌を悪くしている、拗ねている、と思っているのか。それとも、あれほどユーシュへ関心が無いダレークだ。婦人会で騒ぎ立てられたら困る、としか思っていないのかもしれない。
ダレークも部屋を出る。侍男が慌てて後に続いた。
部屋にいる人間はケミィだけ。ヒリンは額に手を当て、ソファに体を沈める。
「……気持ちの悪い、…とも違うわね。何と言えばいいのかしら………別の何かが、人間のふりをしているような……」
「…はい。気味の悪い方でした」
ユーシュの側にいたことで、情が移ったのか。ダレークの座っていた場所を見下ろしながら、ケミィは苦々しげに頷く。
「ユーシュ様は、…どう?」
ケミィを見上げる。そう長く席を外していないが、去り際の様子を思い出すと、胸に燻るものがあった。
ケミィは、ユーシュに用意されたコップを片付け始める。ダレークの分は、当然のように後回しにしていた。
「…婚約は、破棄されないそうです」
「…………ええ」
予想していたことだ。
ダレークは不義理を働いた訳でも、著しく難のある性格でもない。周りから理解は得られにくいだろうし、破棄を望んだとしても、両親に説得されて終わる可能性が高い。
「ですが」
ケミィの手が止まる。
「ダレーク様への関心が、無くなったと。そうおっしゃっていました」




