30.純粋な貴族
ダレークの言い分は、聞けば聞くほど困惑するものだった。
理由も無く姿を消していたのは、時間を潰していたから。
時間を潰していた理由は、それが意味のない時間だったから。
意味のない時間とは、ユーシュと過ごす時間のこと。
何故意味がないかというと、ダレークにとって何の益も無いからだ。
しかし他者との交流全てを無意味に捉えているかといえばそうではなく、集まりに参加することも、頻繁に手紙をやり取りする相手もいる。
つまり、ダレークにとって意味のない時間とは、ユーシュと過ごす時間のみ。
滔々とした口調で読み取りにくかったが、理解したのだろう。ユーシュは青い顔で俯いている。衝撃が大きいのか、何も言葉を発さない。
「……ケミィ」
ユーシュを落ち着かせた方がいい。ケミィを振り返る。ケミィは頷くと、ユーシュの手を握り立つように促した。
ユーシュは覚束無い足で立ち上がり、扉続きにある隣室へと歩いていく。
その間、ダレークは一度もユーシュを見ようとしなかった。席を立ったことに気付いていない。そう勘違いしそうになるほど、眉一つ動かさない。
「…貴方にとって、利益とは何ですか」
「勿論家の発展です」
「では、異なる伯爵家のユーシュ様と縁を深めることを、何故利益と思わないのですか?ユーシュ様はお名前の指す通り、後継としても教育を受けた御方ですよ」
ダレークはヒリンから机へと視線を移す。言及から逃げた、ということではない。単にヒリンの顔を見飽きただけのようだ。机の装飾をつまらなそうに見下ろしている。
「教育を受けたとは言っても、ダブヲリを過ぎれば我が家の人間。ヘリアン家とは十分な縁を結んだと言えましょう。彼女と親しくなったからといって、我が家にどれほど見返りがあるでしょうか?」
式さえ挙げれば、家同士の繋がりは実現する。ユーシュにはそれ以上の価値がない。ダレークは、そう判断した。
だから、ユーシュとの時間を避けるようになった。他の意味のないことに時間を費やした方が、まだ充実するから。
「………貴方は、根っからの貴族ね」
考え方も、行動も。
幼い頃に学んだ貴族像に瓜二つ。
ヒリンはため息を吐く。ダレークの両親は知っているのか。知らなければ、哀れだ。知っているのなら、悲劇と言える。
「絡繰の様な、つまらない貴族」
ヒリンは幼い頃、教諭から学んだ。
貴族たるもの、常に領地の発展となる行動を心掛けなければならない。
しかし、全ての行動に意味はあるのだと。
ダレークは、それを理解できなかった。
もしかすると、学ばなかったのかもしれない。ヒリンの元へ来た教諭は、貴族らしからぬ豪快さがあった。




