28.揺さぶり
ユーシュと自身の手を交互に見る。そのダレークを見返す眼差しは、見知らぬ平民に向けるものより色が無い。
ヒリンはそんなユーシュの手を握り、首を振る。
「いいえ、ユーシュ様。私も友人の想いに押され、葉の枯れる言葉を口にしてしまいましたが…きっとダレーク様にも、御事情がおありなのでしょう」
「、そ」
「そうでなければ、ご病気ですわ」
ヒリンに同調しようとしたらしい。中途半端な口の形で止まり、続いた言葉に目を丸くしている。
家を継ぐ者が病気になった。それは、例え嘘でもあってはならない事態だ。
貴族家は『当主』か『後継』が存在していなければ断絶と見做される。その時点で存在する者は貴族として扱われ特権も与えられるが、それだけだ。たとえ後で後継と成り得る人物が現れたとしても、一度そうなれば覆すことはできない。
平民と異なる時間感覚で生きる貴族にとって、家を継ぐ者がいないということは、祖先から続いていた時間が止まる、つまり未来が無いことに等しい。
未来が無い貴族は、貴族ではない。
政治の中心には加われず、貴族同士の集まりにも呼ばれず、名誉貴族と何ら変わらない立場になってしまう。
そのため、『後継の病気』というのは貴族家にとって恐ろしいものだ。代替となる兄弟姉妹や親戚が多ければそこまでではないかもしれないが、聞いた限りダレークは既に妻子を持つ従兄弟が一人いる程度。後は適切な者がいない。
「ラチアーバン嬢、」
「小指の君に声もかけず、突然何処かへ消えてしまう。その理由も口にできない。余程の事情がおありではないとすれば、ご病気でなければおかしいです」
あくまで笑顔で言う。ダレークの行動は不自然だと訴える。
「ユーシュ様がご不安でしたら、私からダレーク様のご両親にお手紙をお送りいたします。王宮勤務の看護人が、ラチアーバンにも出入りしておりますの」




