24.崩す
「ラチアーバン嬢…どれほど言葉を尽くしても、一度落ちた日は戻らないのでしょう」
そう言ってダレークは頭を下げる。
ユーシュは隣で俯き、ヒリンは2人と向かい合う形で足を組んでいた。ダレークの言葉は続く。
「夜の全てを費やし、アベの蔦を切ってしまいたいほどでした。新たな日をお側で迎えることが叶い、心より嬉しく思います」
侯爵家へ礼の欠ける行動を取った次の昼。一般的な貴族であれば、手拭いを汗で濡らしながら駆け付ける。
しかし、ダレークは随分と落ち着いていた。
汗どころか息も切れておらず、笑顔さえ浮かべている。
何事も冷静に見る気質なのか。下の家格へ責めを続けるのは見苦しいとヒリンを言外に咎めているのか。もしくは、所詮後継でもない娘と軽んじているのか。
いずれにしても、ヒリンは伯爵家の恨みを買うつもりはない。ダレークへ眉を顰めてみせる。
「ダレーク様には、花の香りが過ぎたのかもしれませんわね。…ユーシュ様は、日が傾くまで共にいてほしいと、そうお伝えになった筈です。にも関わらず、何も告げずお側を離れられたとか」
「…これは、ユーシュの言葉が足りず失礼致しました。わたしのアベとは、領内の諸々に関してでございます。伯爵家としての義務を果たしてこそ、ラチアーバン嬢の前へ立てるというもの」
ダレークは大して表情を変えない。
それに対し、ヒリンはいつかのように口を大きく開けた。
「まあ!領内の?」
「はい。なんとも悪戯なアベで」
「ダレーク伯爵家の領地は、王都にございましたのね。私、勉強不足でお恥ずかしいですわ」
上がっていた口角が引き攣る。何を言っているのか、察したのか、理解できないのか。
ようやく崩れかけたその顔に、ヒリンは目を細める。
「一つ前の、日が傾く頃。ダレーク様は都内の保管所で過ごされたと伺っております。アベの蔦は、どのような形だったのでしょう。大切な友人であるユーシュ様の小指の君でございますもの。我が侯爵家がお力になれることであれば、刈り取りをお手伝いしますわ」




