表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/32

2.指輪の返却




そもそも、彼は何のつもりで彼女を連れてきたのだろう。

気に食わない婚約者への当て付けにしては、あまりにも貴族としての、男としての礼に欠ける。

僅かにため息をつくと、彼の隣に座るクルツ、という女は肩を震わせた。大きな声を出したつもりもないが、随分と耳が良いらしい。

そんな彼女の様子を見て、スランは私を睨みつけた。まるで私の方が、二人の逢瀬を邪魔したように。


「…ねえ、スラン様。あたし、ちょっと思ってることがあって」

「ん?何?」


スランの服を引き、クルツは伏し目がちに言う。


「将来、もし、もしもだけど…子供が生まれたら。この国の名前を使ってあげたいなって」

「…えっ」

「あ、勿論、全部じゃないよ!一個とか二個とか、ちょっとだけ。…ね、どう思う?」


楽しそうに、嬉しそうにクルツは笑う。

スランはそれに眉を下げ、私を一度だけ見た。

が、何も言わず、クルツの頭を撫でる。


『マッチ』しない。

理解して、進めた婚約だった。

貴族の娘として生まれた以上、相手の愛なんて求めるつもりもなかったけれど。



私は立ち上がり、指輪を外す。

木製のテーブルに金属が擦れる音が、不思議と心地良かった。


「スラン様…いえ、ダスネロモ様は、『マッチング』されたのですね。おめでとうございます」


婚約者同士で交わす約束の指輪。

小指に嵌めたそれが無くなっただけだというのに、別の何かに変わったように、スランは私の手を凝視する。一方クルツは、日に焼けた頰を紅潮させ、期待の眼差しをスランに向けた。


「私の家で破棄の手続きは進めさせていただきます。どうぞ、ダスネロモ様は何も気にせず、お楽しみくださいませ」


席を立ち、二人に背を向ける。侍女が直ぐ後に続くのがわかる。

けれど、スランは。

確かに未来の夫だった男は、声すらも、私にかけてこなかった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ