7 魔物を呼んだ犯人一味登場
花畑の真ん中に、ぽよんぽよんと形を変えるピンクの生き物がいました。パン生地のように伸び縮みしています。
「あれが今回現れた魔物ですか」
「そうでし!」
ピクニックに来ていた人たちを逃がすため、ソフィアが奮戦中でした。
「この、この! あたれー!」
魔物はドーナツ状に変形して、魔法を避けてしまった。
こんなにうねうねしていては、命中させることが難しいです。
「ソフィア、私が止めるので、その間に!」
「ミラお姉様!」
私はホウキにまたがったまま時計を掴み、唱えます。
「時よ止まれ!」
ドーナツ状のまま固まる魔物。
ソフィアが魔法を放とうとしたその時、何者かがソフィアに体当たりをしました。
あらぬ方に飛ぶ杖。
慌ててソフィアが杖を拾おうとするのを、その人影が杖を踏んで妨害する。
「へへへ、そうはいかねぇ、魔法少女さんよ! 魔物を送還されちゃ困るぜ」
ケラケラと笑う人影は、人ではありませんでした。
全身爬虫類のような鱗に覆われていて、トカゲのような尻尾が生えていたのです。
例えるなら幻想図鑑の亜人、リザードマン。
「送還されちゃ困る? まさか、魔物がはびこっている原因は、あなたなのですか」
「あっしじゃなくてスカルノ様のお力さ。スカルノ様の手にかかりゃ、魔物召喚なんて朝メシ前さ!」
リザードマンの仲間、スカルノという者が大元ということは理解しました。なら、リザードマンを捕まえて元凶の居所を吐かせないと。
「魔物が還されてんのがこの杖のせいってんなら、これを折ればもう送還できねぇよ、なぁ!」
「そんなことさせません! 時よ止まれ!」
リザードマンが杖から足を上げ、斧を振りかぶるのに合わせて魔法をかける。
「お姉様さすがです! 今のうちに、えーい! 異界送還!」
すかさずソフィアが杖を拾い、今度こそ魔物に向かって送還魔法を放つ。
前回同様、魔物は光の中に消えていきました。
「すごいですわ、すごいですわ! かんげきですわぁ!!」
一般人を逃したはずなのに、なぜ人の声が?
わたしたちが動揺していると、木陰から人が飛び出してきました。
「わたくしアリーナと申しますの。今のご活躍、しかとこの目に焼き付けましたわ。わたくしもあなたたちのように魔法を使いたいのです。弟子にしてくださいませ、魔法少女さま!!」
話をするため、わたしはぺぺを抱えて地上におりました。
「魔法少女になりたい、か。あたしは仲間が増えてくれると嬉しいけど」
ソフィアがちらりとぺぺを見ます。
ぺぺでないと才があるかどうかわかりません。
「もし才能がおありなら、年寄りのわたしより、魔法少女になりたがっているアリーナ様のほうが適任なのでは」
「もぅ、ミラお姉様ったら。そんな可愛らしい姿でお年寄りだなんて、ご冗談を」
いえ、本当は70歳ですからね。老体に鞭打ってますよ。
変身前の姿もこれくらいの少女だと思われているのかしら。
アリーナ様はぺぺを見て頬を染めます。
「あらまあ、なんて可愛いうさぎさんかしら。魔法少女さまのペットですの?」
「失礼な子でし! ぺぺはペットでなく精霊でし!」
「あらあら、おミミをパタパタさせちゃって。わたくしに会えたことが嬉しくて喜んでいるんですの?」
アリーナ様には声として認識できないようです。
「ぺぺの声が聞こえてないから、キミは無能でし! おととい来やがれでし!」
「ストップ!」
急いでぺぺの口を手で塞ぎます。
アリーナ様本人に声が聞こえないとはいえ、未来の国母に向かって無能だなんて。ぺぺ、恐ろしい子。
「なりたいだけでは魔法少女になれない」とぺぺの言葉をソフトに翻訳したら、たいそう残念がっておられました。
騎士団に見つかると面倒なので早々に退散します。
その後。アリーナ様の登場で存在を忘れていましたが、エスペイラが解けたリザードマンは、悔しがって叫んでいたそうな。