第三話 欲望に潰されて
リュートが所有するアジトに着いた。 二人は部屋に通されて、入った瞬間、カイエンは口を開く。
「その薬、出元はどこだ」
「連邦ね。 それ以外ないわ。 あんな悪趣味な薬作るところなんて」
「効能は」
「……、強制不妊ね」
ホムラはそれを聞いて絶句した。 頭の中でぐるぐると言葉が回る。 どういう意味なのか知っているはずなのに理解したくない、頭が拒んでいる。
「い、いま……なんて……」
「ホムラ」
カイエンはホムラを抱きかかえたまま、怒りに震えた声を露わにさせる。
「お前は、黙ってろ」
「……だって、こんな、黙ってなんていられません……」
「ホムラ、いい加減にしろ」
それでもホムラは震える声で「むりです」と答えた。 そのままリュートを見つめる。
「リュートさん、フレッドさん、それは絶対に効果がある薬なんですか?」
ホムラの問いに、フレッドが首を振った。
「わかりません。 連邦は薬の実験を何度も繰り返しますが、結果を公に出すことはないので……。 ただこう言った、身体の何かを破壊するような薬は早々作れるものじゃない。 効果は薄いとは思いますが、万が一のことがある。 医学という存在に置いて、絶対に効果がないとかあるとかは言えません」
「わかりました……。 ありがとうございます」
ホムラは静かにそう言って、カイエンの腕をトントンと叩いた。 降ろしてもらいたい時にする動作だったが、カイエンはホムラを降ろす気はない様だった。
「わたし、何かしましたか……? ただ生きているだけなのに……。 お父様とお母様も目の前で……、生きているのかもわからない。 こんな、薬飲まされて……」
リュートもフレッドも、哀れな運命を辿るこの血魔を、ただ見つめることしかできなかった。 今この場でホムラに声をかけてあげられるのは、カイエンしかいないだろう。
「怖いのはきらいなのに……、なのにずっと怖いままです……。 みんな、みんな……! 連邦も、アルカルトも、カイエンさんだって、ずっと怖い! わたし、いやだよぅ……!」
「リュー、空いてる部屋はあるか?」
カイエンは冷静にそう訊ねた。 リュートは頷く。
「ええ、アンタがこっちに来るって言ってたから片付けといたわ。 階段上がって、廊下の突き当たり。 昔のアンタの部屋よ」
「感謝する。 少し貸してくれ」
後で戻る。 と手短に言って、カイエンは階段を登っていった。 張り詰めていた空気はやっと元に戻って、リュートはため息をつく。
「はあ……。 相変わらずの男だわ」
「あれが噂の懐炎、ですか。 なかなかの、迫力ですね……」
「そうよ。 でも、多少は話し易くなったわね。 雰囲気も変わった。 ホムラちゃんのおかげでしょうね」
フレッドはゾッとした。 あれで話し易くなった? 冗談じゃない。 カイエンの纏うオーラは、見るだけで人を殺せそうなものだ。
「さて、お腹すいてるでしょうしご飯作って待ってましょ」
「……僕はあの薬のことをもう少し調べてみます。 あれが完成していて、効果が出ている前提として……、だったらそれを阻害する薬を作らないと」
「できそう?」
「さあ、やってみないとなんとも。 でも必ず作ります」
フレッドは前髪をかき揚げて、コートハンガーにかけてあった白衣を取る。
「ホムラさん、ですっけ。 僕の幼馴染にそっくりだから……」
彼はこの国の出身ではなかった。 別の国から来た者で、その国にも少し特殊な問題がある。 その全てを知っているリュートは、フレッドの後ろ姿を見て小さくため息を吐いた。
「どいつもこいつも、似た者同士だわ……」