第92話 引っ越しは新たなトラブルと共に
中立国家エデルとニコ派獣人国パースの同盟式を終えた翌日の事である。
温泉で疲れがふっ飛んだお陰で体力も気力も回復した私。そのためかいつも以上に朝スッキリ起きる事が出来た。
今日も依頼仕事をこなす予定である。
昨日は色々ドタバタしたので、せっかく体力が回復したけど落ち着いた感じの依頼にしようと思う。
ちなみに今日は私一人である。
ルザーナはまだ睡眠中。
クロマはスアと自宅予定地の畑にて薬草の生育をしているらしい。
まぁたまにはこう言うのもいいだろう。
さぁ、今日も頑張るぞー!
そう思っていたけど、トラブルはいつも向こうからやって来るのでした。
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「着いた、ここが俺達の引っ越し先だぞ。」
「...着いたの?」
「ああ。」
新しく建築された家の前に立つ青年と少女。
どうやらこの町に引っ越して来たらしい。
「さて我々は荷物を運びますので、せっかくですしお二人はこの町を周るといいでしょう。」
「はい、ありがとうございます。行こうか。」
「...うん。」
二人は歩いて行った。
「...不思議な女の子だな。」
「年が離れているが妹さんらしいぞ。髪の色と雰囲気が似ていただろ。」
「それはわかってるんだが、あの目のやつはなんだ?」
「さぁ?俺達が気にしても意味ないだろ。図面通り作業するぞ。」
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今日はいい天気だな。
雲一つ以上ある空。
平和って感じがする。
「キジコ様おはよーございます!」
「おーおはよー!」
「おはよーキジコちゃん!」
「おはようございます!」
依頼こなして町を周ってたためかすっかり町の人に顔を覚えられた。まぁ一番の理由はでかい依頼こなしたりこの前の同盟式の放送だろうけど。と言うかあの同盟式、他の国にも放送されていたらしい。
私自身気楽に過ごしたいので立場考えず知人感覚で話して欲しいと言っていたためか皆明るく接してくれる。
「おおキジコさん、これクロマさんに渡しといてくれねぇかな。腰の薬よく効いたって伝えといてくれ!」
「ああわかった!」
クロマは元から有名だったらしいが私と同様以前より皆と話しやすくなったそうだ。
今のように近頃薬学とかも手を出しているようで、今話したお爺さんみたいによく効く薬を提供しているそうだ。いい子だなぁ。
そうこうしているうちにギルドが見えて来た。
今日はどんな依頼にするかな...あら?
「アイ、ここがこの町のギルドらしい。何かあったらここも頼ってみよう。」
「...うん。」
初めて見る顔だな?
引っ越して来た人かな。
「あ、キジコ様ー!!」
受付のお姉さんが私を呼んでいる。
あーこれ絶対大変な依頼になるわ、新聞で凶暴な魔物の群れが例年より多いだとか集落が襲撃されたとか。
仕方ない、いっちょやりますかー!
ちなみに文字は最近朱斗や蒼鈴達に教えてもらっている。
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「兄、あの人。」
「...放送で見た神獣候補のキジコか。」
「...予定、立て込んでるみたい。」
「そうだな。」
キジコを見る兄妹。
「...でも、あの人、頼っていいかも。」
「...お前が言うならそうしよう。」
そう言って二人はギルドへ入って行った。
「すみません、依頼をしたいと思いやって来たのですが。」
「はい、依頼ですね。ではこちらの依頼書用紙にご記入お願いします。」
二人はカウンター席で依頼を記入する。
どうやら何か事情があって依頼をするようだが...?
「兄。あの人新聞に載ってた魔物討伐するみたい。」
「...流石だな。近頃強い魔物も現れ始めているからああ言った方が必要なのだろう。」
2階から降りて来たキジコの姿。
何枚かの依頼書を持ってる辺り、どうやらギルド長からのお願いでもあるらしい。
「...よし、書き終えた。座って待ってろ。」
「うん。」
「すみません、書き終えましたので依頼金もお願いします。」
「かしこまりました。では....
「ん?エルバス結晶?」
「わ!?」
貼られようとした依頼書を見るキジコ。
「...2枚目と4枚目の依頼書と場所が近いな。これ受注していいかな?」
「は、はい!」
(マジか!?5枚も受注してさらに俺の出した依頼も受けるのか!?)
「あ、あんた!」
「ん?」
つい言葉が出た男。
「あれ、やっぱりさっき見た初めて見る人だ。えーと聖人族かな。」
「俺はロイヴィ。その結晶の依頼者だ。」
「ああ、これはどうも!えーと、私が受けちゃまずかったかな?」
「いいえとんでもございません!そんなに受注して大丈夫なのですか!?」
「大丈夫、全部今日中には終われるよ。」
「な!?」
(嘘だろ!?いくらなんでも早すぎないか!?普通受注すれば早くて3日後に解決だってのに!!)
「...?どうした?」
「へ?あ、いえなんでも...
「兄。やっぱ寂しい。一緒にいていい?」
「あ、アイ..。そりゃすまなかった。」
「...妹さんかな、貴方と似た綺麗な髪色。」
「え...!?」
「...お姉さん。この目、気にしないの?」
「へ?いや。」
そのアイという少女はVRゴーグルのような物を装着している。だが兄...ロイヴィの居場所がはっきりわかっている辺り、目隠しではないようだ。
キ(前世で日菜ちゃんがVRゴーグル持ってたから全然気にしていなかった!!)
ロ(妹の状態を気にしていない...!?)
「...この写真の結晶がエルバス結晶です。詳しい事は依頼書に書いてありますので...お願いします。」
「わかった!」
そうしてキジコは駆けて行った。
「...不思議な方だね、兄。」
「...あの人に頼んで正解だった。お前の事を可笑しく思っていない、それどころか綺麗な髪色と言ってくれた。」
そう、幼い時からずっと皆に馬鹿にされ辛い思いをしていたお前を、なんとも思っていなかった。
その上俺達は隔世遺伝で髪の色が夕日のような色をした金色の髪。
町の皆は火の魔人の使いだと言って俺を迫害していた。
そしてある時生まれた歳の離れたお前も同じ髪色で育った。
だがお前はある時、その[目に異常]を持った。
それからかずっと、暗い部屋にいたと聞いていた。
両手で目を押さえながら。
俺は当時離れた土地で高度な工学を学んでいた。家がそれなり裕福だった故に問題もなく通えたし、友達は俺の髪なんて気にしもしなかった。
でも妹は違った。
同じ髪を持った上にその目で外を見る事が出来ない身となった故に町人は今度は妹を馬鹿にしていた。
その事を知り俺は急いで町へ戻った。
俺が町へ帰ると町の人は魔人が帰って来たと言ってすぐに逃げた。
妹は軽症ながら怪我をしていた、木の下でずっとうずくまっていた。
そのあと家に帰ってきた両親にこの事を伝えると、別町の警兵にこの事を伝えると言っていた。やはりもう、親も許す事は出来ないそうだ。
そう言って夜になった時、事件は起きた。
町人達は口封じなのか、親を殺した。
皆は揃って魔人を駆逐すると言い、俺達家族を狙い始めた。
俺は妹を連れ、覚えた空間収納に詰め込めるだけの財産を詰め込み逃げた。
それから俺は学校に逃げ込み事情を伝え、別の国へ行くことを決めた。
その際友人が妹のためにこの装置を開発してくれた。
俺は試しに装着し覗いた。
めっちゃクラクラした。
友人は妹のためにこんな良いものを作ってくれた。細かい調整は説明書と俺の腕でなんとかしろと言われた。
そして俺達は様々な手続きを踏んでこの町、リーツにやって来た。
...正直どこか、また馬鹿にされるんじゃないかって気持ちがあった。
でもあの人、キジコは何も気にしなかった。
...この町に来たばかりだが、
来て良かった。
ここなら平和に暮らせると信じようと思う。
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ドゴォ!!ドカァッ!!
「ギャオオ!?」
次々とぶっ飛んでゆく魔物達。
その中心で暴れているのはキジコ。
「いっちょ、あがりいい!!」
「ギャウッ!?」
ふう、これで魔物の群れの方はおしまい。えーと次は...ああ、エルバス結晶だ。確か...あった、あの岩場だな。
向かってみると、資料にあった通りライトグリーンの結晶がそこらいっぱいにある。
資料によるとこの鉱石は、フォーセ鉱石同様魔力エネルギーを持った者であるらしいが、フォーセ鉱石と比べるとずーっと低エネルギーで安定はしているが今はほとんど使われてもいないし暴発しても大したことにはならないそうだ。
何に使うか知らないが、とりあえず採取するか。
「すみません、そこの方。」
「ん?」
謎の男がいる。
小太りでどっかの偉いさんのような格好をしている。
「どうしてこの結晶を採取しているのでしょうか?」
(依頼の事は言わない方がいいだろう。)
「ギルド依頼で魔物の群れを討伐していたら、ここを見つけまして。」
「ああそうでございましたか。これは失敬、我はプラドと申します。」
「はぁ。」
「実はここ最近、この国へ炎の魔人が現れましてね。」
「炎の魔人??」
何だそりゃ、そんなの誰も言っていないぞ。
カラミアと同様情報が曖昧なパターンなのか?
「ええ、人の姿に化けておりましてね。夕日のような髪色の少女でございます。」
(...!?)
「...いや、知らないな。それどころか色んな種族に色んな髪色あるからわからない。」
「ああ、それは失礼しました。ではもし何か情報がございましたら、こちらの名刺に書いてある念話通信陣にご連絡くださいな。」
そう言って男はどこかへ去って行った。
...嫌な予感がする。帰ったら朱斗と蒼鈴達に相談してみよう。




