第91話 湯煙と冷たいアイス
「...ふぅ。」
「はぁ〜....。」
室内に広がる蒸気。
気づけばちょっとテカテカしている肌。
染み渡る熱が体中のコリを吹き飛ばす。
数分前...
キジコです。
現在パースの大浴場に来ています。
大統領の護衛と同盟式の警備などの任務を終え、食事よりも真っ先にザブーンです。
いやー、大仕事終わりの風呂って気持ちいいよねぇ。めーっちゃ体に染みるわ...。
前世魂32歳の私には効果抜群だわ。
しばらく入浴しアイスクリームも食べたくなったので風呂から出たのだが、あるものが目に入った。
「師匠、蒸気風呂ありますよ。」
「蒸気風呂?」
「水蒸気で体を温める部屋です。」
クロマが示した方向を見ると、温泉やプールで一度は見る部屋の扉がある。
すぐにわかった、サウナだ。
「んー、冷たいジュース飲んだし...お腹壊すのは嫌だしちょっと入って行こうか。」
そうして私達はサウナへ入り現在に至る。
ホワァ...
「おお、これは!」
扉を開けると程良い蒸気がやってくる。
予想通り前世と同じ、私の知るサウナと同じだ。
「おや、皆さんもこちらに来ましたか。」
「へ?」
よく見ると部屋にいたのは...
「よろしい、こちらにいらっしゃい。」
「桃花様ぁ!?!?」
朱斗蒼鈴の母親でありエデルの大統領、桃花の姿だった。
「い、いつの間にかいらっしゃったので!?」
「少し前よ。ここの大浴場の蒸気室は質がよくて有名やもんね。」
「あ、ありがとうございます...。」
とまぁ、とりあえず皆桃花の近くに座ることにした。
「...ふぅ。」
汗か水蒸気で少し光沢ある肌になってる桃花。水着とはいえとっても綺麗なボディ。
「どうしたん、ジロジロ見てもこんなおばさんからは何にも出んで?」
「グハァッ!」
「クロマああ!!?」
「大丈夫よ、この蒸気は様々な薬草の薬効成分が溶け込んだ治癒薬や。少なくとも2時間は平常保てるよ。」
別の意味でクロマが危ないです。
「そういえば少し植物の香りがしますね。」
「ああ、体に効くだろうな。」
「後で食うアイスが倍美味しくなるな!」
「本当、仲良くて良かったわ2人とも。」
「「?」」
「いつの時代の話かは知らないけどね、かつて神獣候補同士は出会うと、どちらかが神獣に相応しいか争うと言われててな、それで最初二人が出会う事が心配だったけど結果は逆、とーっても仲良しさんになった。
大昔の人がこの光景見たらびっくりするね、お互い友達として生きる神獣候補の姿を。」
「...ちょっと照れるな。」
「私も...。」
「...少し気になったのですがいいでしょうか?」
「どうぞ、うちの子の昔話でもなんでも。」
「過去に神獣となった存在は今どうしているのでしょうか?」
「ああ、神獣様の話か。」
朱斗蒼鈴の話はめっちゃ気になるが置いといて、神獣とは何か今ここで聞いておこうかなと思う。
「まず、全員生きてるのでしょうか?」
「初代様は生きていらっしゃる。でも知ってる限り3代目と5代目、6代目は亡くなってる。ちなみに今世紀は8代目やね。」
「え、神獣って死ぬんだ...。」
「そりゃ生あるもの死はいずれ訪れる。神になろうが永久不滅の命はない。不老不死は存在するけど、あれ本当は死ねる方法いっぱいあるのよね。」
「そうなのか...。」
やっぱり、この世界は不老不死が存在していたのか。でも死ねる方法がいっぱいあるのはそれはそれで良かった。永遠に生きることも生き過ぎれば酷、死にたいと思って身死ねない現実が待ち受けていたら嫌だもんね。
「次に、神獣って何をするのでしょう。」
「案外何にもしないみたいよ。」
「「え!?」」
「神獣というのは世界を見守る役ではあるけど、意外と平和に暮らしたりするもんよ。ある話では大きな戦争を止め多くの国に平和をもたらしたとか、そのまま世界を見守りつつ平和に暮らしたりする方もいる。」
「そうなのか...。」
「でも覚醒すれば凄まじい力を得る。特に今は物騒な輩が現れてるから気をつけた方が良いわ。」
「はい。」
「...なぜ亡くなられたのかな、その3つの神獣様は。」
「5代目以外は知らへんね。」
「5代目以外?」
「...私らは5代目の子孫なの。当の先祖本人は聖獣である嫁さんが逝った後、その跡を追うように突然息を引き取ったみたいや。...夫婦とても仲が良かったそうや。」
「...そうでしたか。」
「まだええ死に方やと思ってる、それだけ愛し合っている仲である証拠なのやからね。」
「ロマンチックだなぁ。」
桃花様の顔はずっと笑顔で上機嫌だった。
それだけその5代目の神獣様は幸せな方だったのだろう。
それにしても桃花様や朱斗と蒼鈴が神獣の血をひいていたとは驚きだ。
その気になれば神獣に迫るパワーを発揮したりして...。
「さて昔話はおしまいにしよか。ニコちゃん、キジコちゃん、おいで。」
「「?」」
桃花の前に立つ二人。
「えーい!」
ムギュゥーーー!!
「「!?!?」」
なんと突然二人を抱きしめる桃花。
「いやーんもう可愛いー!!」
「「!?!?」」
「あの子達が二人のような歳の頃には反抗期で全然可愛がれなかったのよー!!母だって二人を可愛がりたいのよーー!!」
「ふぁ..ふぁ...!!」
「ふぁなし...て...!!」
顔が真っ赤な二人。
ナイスバディで抱きしめる桃花。
「もっと可愛がらせてー!!」
「「ぎゃーーー!!」」
ーーーーーーーーーー
賑わう人々。
術式で冷えた部屋。
テーブルに座る私達。
「お待たせ致しました!サンクリームアイス3つ、エバルティクリームアイス3つでございます!」
あの後しばらくサウナでゆっくりした後浴場から出た私達。
現在冷房術式の効いた部屋にいる。エアコンの変わりとしてはなかなか良い涼しさである。
「おお...これが!!」
目の前にあるのはオレンジ味のアイスクリーム。
「私もこれが大好きなんだ。売り切れてなくて良かった〜!」
「他の味もあるみたいだね。エバルティってなんだ?」
私とニコの食べるサンクリームアイスはオレンジ色。
桃花様とルザーナ達のアイスは紫色。もしや...?
「空間収納庫っと...。」
桃花が何やら本を取り出す。
「あった、これよ。」
そこに書いてあったのはビー玉大の粒がいくつもついたフルーツ。
そう、葡萄だ。紫芋だったらビックリしてた。
(師匠、師匠のいた世界にもエバルティはありました?)
(ああ、向こうではブドウやグレープって呼ばれていた。)
「さて、いただきますか!」
「いただきまーす!」
あむっ
「んん〜〜!!」
ひんやりあま〜〜〜い!
「この酸味ある甘さ...本っ当最高!!」
「熱い風呂と蒸気室を入った後に食べるアイスはすごく美味しいね!」
満喫しているキジコとニコ。
正直、側から見れば仲良くアイスクリーム食べるただの女子友である。(実際そうだが)
「こっちも美味しいねぇ、あむ。」
「とろける甘さです...。」
「おお、ルザーナもわかりますかこの味わい!」
「はい、とっても美味しいですね!」
『はむ、あむ、ん〜美味しいの!』
「はは、スアも嬉しそうで良かった良かった。」
パースに来て本当に良かった。
だって皆んな、とっても笑顔なんだもん。
明日からまた依頼仕事。
でもきっといつもより頑張れそうだ。
休暇で温泉旅行に行った時もそんな感じだったし、張り切っちゃうぞー!
「さて、同盟式にあたり食事会もあるからまた準備しないと。」
「まだあるの!?」
ーーーーーーーーーー
夜9時ごろ
「今回の報酬金だ。」
40G(40万円)手に入れた!
「またすごい稼いでしまった...。」
「正直今回は君の希望もあっての額だ。前にも言ったけどもっと貰っていいくらいの仕事をしたのにどうしてもっと貰わないの?」
「今は色々わけがあるんだけどね、やっぱりそんなあっという間に稼ぐより時間をかけて皆んなと過ごして達成するのが楽しみなんだ。」
「そうか。」
「ご主人様、そろそろ帰りますよー!」
「...あっという間だったね。ジン、キジコ達ともっといれないのかな?」
「お嬢、気持ちもわかるけど皆んなも色んな都合があるんだ。いつも通りどーんとして見送りゃいいさ。」
「ニコ、また会えるから寂しそうにしなくても大丈夫さ。」
ニコの尻尾と耳がシュンとしている。
犬が寂しい時になるあれ。
やっぱり狼って集団行動で生きる生態だから本能的にそういうのがあるのかもしれない。
「...改めて見ると...やっぱニコの方が背が高いね。」
「?...それがどうした?」
「ごめんね、ちょっと腕を開いて。」
「?、こうか。」
ギュッ
「!?!?」
「ニコは強いし仲間がいっぱいいるんだ、寂しいのはわかるけど、別れの時もちゃんと笑顔でいなきゃね!今日はありがとう、ニコ!」
涙目になるニコ。
「...ありがとう、キジコ。今日は色んな話をしてくれて。色んな話を聞かせてくれて。...また会おうね。」
ちょっとオーバーかもしれないけどニコにとって私は初めての歳が近い信頼できる友達。だから別れが寂しいのだろう。
でも大丈夫、また会えるよ。
「じゃあ、またね。」
「うん。また会おうね。」
「キジコ様と皆さんもお元気で。」
そうしてキジコ達は転移で帰って行った。
「...。」
「いつまでもしょぼくれてんじゃないぞお嬢。別に死んだわけじゃないんだ、次会う時のために涙は取っておけよ。いざというとき泣けねぇぞ?」
「...わかった。ごめんねジン。」
「別に謝らなくてもいいさ。さ、俺達も帰るか。」
「...うん!」
キジコ、また会おうね!




