第90話 同盟式
パース中央広場。
そこには演説台と賑わう多くの人々。
時は青とオレンジが混じり合う空。
私達は無事パースへ辿り着いた。
獣人国というだけあって、数多のケモナーファンが行きたいであろう楽園とも言える光景が広がっていた。
国内を歩くなり私とルザーナはかなり注目をされた。
なにせ私とルザーナは他の獣人とは肉体の形状が若干異なる、何か普通とは異なる気配とか匂いなんだろうか?
タッタッタッタ...
ちょっと退屈ながら立っていると2人の猫人族の少女が現れた。
「あ..あの!」
「ん?どうしたのかな。」
「ご...ごめんなしゃい...いないの...ママが..。」
ありゃー...迷子だなこれは。
これだけ人がいっぱいいるとこうなってしまうのも仕方ないな。
「ルザーナ、焦ってそうな人がいないか探してくれ。体温が上がっていると思う。」
「はい、ご主人様。」
ルザーナは辺りを見回す。
「4名ほど体温が高めな方がいます。ご主人様、場所を教えますのでこのお嬢さんたちと近い気配を持った人の特定をお願いします。」
「ああ。」
ルザーナが言った方角に集中を向ける。
「いた、この気配だ。」
私とルザーナは2人の少女を連れ親御さんの元へ案内する。
「あ、ママ!!」
「ママー!!」
その声を聴くと少女の母親であろう猫人族の女性は驚き、2人を抱く。良かった、ちゃんと見つかって。
「ありがとうございます!!この子達を見つけてくれて!!」
「いえいえ、この子達が無事で良かったです。」
「お姉ちゃんありがとー!」
「お姉さんありがとー!」
喉をゴロゴロと鳴らす少女達。
思えば私の体は喉をゴロゴロ鳴らせない。
「ほんのお礼ですが、どうぞ受け取ってください。」
[サンの実を2個手に入れた!]
ゲームのサブイベントかな!?
ベタな展開を終えると念話通信が入る。
「(キジコ、ルザーナ、そろそろ警備を頼む。)」
「「了解。」」
さて、お仕事再開致しますかぁ。
※サンの実:前世でいうオレンジやみかんの仲間
ーーーーーーーーーー
カッカッカッカッ...
現れたのはエデル大統領、桃花と...
身だしなみ整え(られ)たニコの姿。
2人演説台に立つ。
周囲には私を含む警備部隊。
彼女らの胸元には異世界版小型マイクが取り付けられている。ああ、爆弾でも危ない術式仕込みでもないようなのでご安心を。
「あーあー、」
マイクテストをするニコ。
「皆、集まってくれた事を感謝する。皆の知っての通り、この日我々パースは中立国家エデルと同盟を結ぶ事を誓うため式典を行う。それに辺り紹介する、エデル大統領の桃花殿だ。」
桃花は少し前に歩む。
「本日、この国パースにお招きさせていただきありがとうございます。私は中立国家エデルの大統領を務めます、桃花と申します。私は...」
...さて、演説が始まって皆の視線は2人にある。
ん?演説は聞かないのかって?
皆は校長先生や教頭先生、来賓の方の話を連続に意識飛ばさず聞けたかい?私はダメでした。
それに加えまともに聞き入っていると資格の襲撃に気付くのが遅れてしまう。
そう、聞きたくても聞けないのだ!!そうだ!!
レーダーはフル稼働、まだ体力はある。
もしかすればさっきと同様、マギアシリーズが襲ってくるかもしれない。
今回の襲撃に関して、
例の教授とインヴァシオン派の王バノスがつながっている証拠は何もない故に、襲撃されてもバノスが関係ないと言えばそれまでだ。
仮に繋がっていても、その繋がっている証拠が見つからない限り向こうはおそらくこの方法でやりたい放題する可能性が高い。
これは考えるほど厄介だ。
研究所ぶっ壊した身だし向こうから何かしら襲撃はしてくるだろうな。
「では紹介しよう、もう1人の神獣候補であり、友であるキジコだ。」
「...え?」
大きな歓声と拍手の音。
「え?何用?」
「するとマイクであろう水晶玉を渡された。」
(自己紹介頼む。)
(えー!?)
「...紹介預かりました、私はニコ様と同じく神獣候補であるキジコと申します。ほ、本日はど、どうぞよろしくお願いします..。」
また起こる拍手。
「先程言った通り、彼女は私と同じく神獣候補、神獣の資格を持っている。私と同じく、その称号に運命を振り回された。
...キジコ、私がこの資格を得たのはパースに来た後からだ。でも生まれつき類見ない才を持った私に目をつけ、次代の神獣だと言いバノスはその権力を駆使し私に思い出したくもないような厳しい教育をさせられた。
まだ称号を持っていなかった私はいつも言われていた。
[資格者が現れたら絶対に殺せ。]
[お前が神獣となって我らの国の威となれ。]
[お前こそが全てを支配させるための最強兵器となる。]
当時政治がさっぱりわからなかった私にこの言葉はただの怖い雑音だった。
...こんな事が続いた毎日で唯一の救いだったのは、両親と会える事でした。
両親はやつれた私を強く抱きしめ、いつも涙を流していました。
...今でも思い出します、その温かさを。
いつしか両親は他国と友好を深めた事でバノスは下手に私に接触が出来なくなり、私は解放されようやく両親と平和に暮らせました。
でも、長くは続きませんでした。
6年前のあの日、痺れを切らしたバノスは部下を使い平穏派を皆、虐殺し始めた。
私は両親に庇われその魔の手から生き延びるも両親が死んだ事ははっきり分かった。
そして気がつけば私は両親達が残したこの国、パースにいた。
...資格とは関係ないだろうけど、才がある理由で狙われたのは君も一緒だ。
だからこそ改めて聞かせてくれないか。
魔物ではあるが君の人生は辛くないのか?」
「辛くないさ。前にも言ったけど仲間がいたからだ。君と同じ、家族のように大切な仲間がいたから私は生きている。
称号を持って運命が変わってしまうなら答えは簡単、ちょっとずつでも変えればいいだけだ。
抗ったからこそ今ここで私とニコが一緒にいる。これが何よりの証拠だと思うな。
私には私の生きる道があるからパースで暮らしは出来ないけど、何かあったら私は駆けつける、友達だからね。」
「...うん!」
私とニコは握手をする。
「さて、本題へ戻ろう...
ーーーーー
それから特に襲撃はなく、空が少し暗くなった時間、同盟式は無事終えた。
これによりインヴァシオン派はさらにパースに手出しがしづらい状況になったと思う。
なにせエデルも大国と繋がりが大きく、その大統領が認め友好を持った国であると証明ができたのだから。
さーーーーーて、
こんな難しい話はおしまい!!
「さて、いざ突入!!!」ガラッ
目の前に広がるはいくつもある大きな風呂。
「すっごーい!!」
「広いですね!!」
『いい所じゃない!!』
「はは、そうだろ?おすすめは奥の露天檜風呂だ。」
「よし、行くぞ!!」
※ちなみに私達は水着を貸して貰っている。
ざわ..ざわ...
(あれ、ニコ様とキジコ様...!)
(綺麗...!)
(二人揃うともう...ガフッ。)
キ(...何か視線を感じる...。)
ニ(キジコも綺麗だなぁ...。)
ざぶーん..
空を見るとうっすら見え始める星。
沸き立つ湯煙。
身体中に染み渡る湯の熱さ。
「はぁ〜〜〜...!!」
ようやく入れた、温泉!!
あーーーやっとだよーーー!!
ハードな仕事終えてのこの温泉は反則級に気持ちいいって!!
「ふぅ、私もくたびれたわ。」
「でっかい仕事お疲れ様。今日はもうゆっくりしよう。」
「そうしよう!!」
「ニコ様、どうぞこちらを。」
「ん?なんだそれ。」
「冷えたサンの実ジュースだ!飲むといい。」
「おおお!熱い風呂で飲む冷えたジュース...!!いただきます!!」
グビグビッ
「ぷっはー!!」
「はは、いい飲みっぷりだ!!」
すっげえ爽やか!身体中に広がる爽快感!!
んんんうまーーーい!!
『美味しいじゃないの、これ!』
「お、スアも気にいった?」
『おかわりなの。』
「はは、いいぞいいぞ、今日はお疲れ様!」
「本当に美味しいですね、...あら?」
「?どうしたルザーナ。」
「ご主人様、あの星はなんでしょうか?他の星と比べると少し明るく感じます。」
うぐっ、私この世界の天体知らないんだが...。
「なんだろうね、綺麗だけど。」
「おお、あれは希望星だな。」
「「希望星??」」
「聞いたことあります。一定の周期でこの星を大きく周回する星でしたっけ?」
「そうだクロマ。あの星はかなり不思議でな。あの星自体はかなり小さくてな、その上稀にああやって輝く時がある。その稀に見れる輝きを見た者はいい事があると言われている、だから希望星って言うんだ。」
え!?それって恒星か何かの一種か!?
「太陽とは違うのか?」
「ああ、何年か前から空の星を見ることができる望遠鏡が開発されたのだけど、あの星を見るための専用レンズで確認したところ、どうやら岩石の中から光っているらしいんだ。」
「???」
「つまる所、謎だ。未知なる何かが眠っているのは確かだ。」
「逆に気になりますね...。」
はは、この世界でも天文学面白そうだな。
皆ジュースを飲み終えコップを片付けて貰った。
バシャッ
「うわあ!?」
『ニシシッ、成功なの!』
「やったな!?」バシャッ
『にょわあー!?』
「あっははは!!本当に君達は面白いよ!えーい!!」
今日は本当に疲れたけど、そんなのもう吹っ飛んじゃった。
仕事で来たけど、どうせならまた皆んなと旅行で巡りたいもんだ。
みんな、お疲れ様。
それにしても風呂上がりのアイスクリームが待ち遠しいな。
「さて、そろそろ上ろう。アイス食べたくなってきたしな。」
「大賛成ッ!!!」




