第88話 お待たせ
ざわ...ざわ...
ここは帝国貿易路である大通り。
日本でいう所の国道のような物。
この道を南側に進んで行くと帝国に辿り着くのだ。
道を歩む者達は皆、この行列を見ている。
そりゃ目立ちますよね、はい。
ちなみに私達は引き続きそれぞれのポジションで監視している。ここは人が多いため刺客が紛れ込んで襲い掛かるかもしれないので、一層警戒を強める。
パースの守護下にある小国や町村があるだけあってか、獣人族を見かけるのが多くなってきた。
ちなみに獣人族は皆、アニメ漫画でよく見る耳が頭の上部にあるタイプだ。
私とルザーナは人へと覚醒した魔物故なのか、尻尾はそのままでも耳は人間と同じ。
クロマも上部に耳があって人間の耳のある位置は...怖くて見ていない。
まぁ変な事考えるのは後にしよう。
現在地はパースまでの道のりの4分の3に入ったばかりの位置。
もう少し...と言えるかわからないがちゃんと近づいているのでご安心を。
ク(通達、カーブの先にさっきのと同様の黒い服装の集団がいます。)
キ(ここは一般人も通っている。雷はやめておこう、私が行く。)
朱(了解。)
私は駆ける。
ーーーーー
「いいか、お前たちが警備を相手している間に俺が大統領を狙う。」
「了解。」
「それは諦めといて。」ビシビシッ
キ(対処完了。問題なく通れるぞ。)
朱(了解。)
このように問題が発生すれば速やかに対処。
これなら夕方前には到着出来るだろう。
ーーーーーーーーーー
「お嬢、やはりインヴァシオン派が動いてるみたいだ。」
パース、役所にて。
隠密部隊や蒼鈴を通じて情報を出しているニコとジン。
今更だが蒼鈴はニコ達にリアルタイム情報を伝える役割をしている。
「そうか、だが増援はダメだ。」
「ああわかってる。増援を装って襲撃する奴らがいるだろうから、いっそこちらからの増援は無しにしようって決めたからな。」
「新しい情報では、やはりパース兵を装って近づいてきたらしい。」
「思ったより陰湿な事してくれるねぇ...。」
思いの外堂々と動き出すインヴァシオン派に困る2人。
キジコ達が警備についてるからまだ安心出来るが、向こうもどんな手を使ってくるかわからない。
今は祈るばかりである。
「...考えていても仕方ない。一旦休憩しよう。」
「ああ、情報整理は俺がするからちょっと休んでろ。」
はぁ、公務疲れるなぁ。
国の代表に立つって大変だよな、母上と父上は本当にすごいよ。こんなの毎日かつ隠し通してたんだから。
ゆらゆら歩くニコ。
すると下の階から良い匂いがする。
あれ、甘い匂い〜。
「あらニコちゃん。クッキー焼き上がったよ!」
「本当!?」
「ほら、ジャジャーン!!」
「わああ!!」
厨房にハルさんがいた。
どうやら私のためにクッキーを焼いてくれたそうだ。
「食べていい!?」
「待ってね、冷やさないと美味しくないよ。」
「えー。」
ちょっと時間経って...
「食べていい!?」
「ええ、召し上がれ♪紅茶も入れておいたわ!」
「いただきまーす!!」
はしゃぐ狼娘。
母親のように見守るハル。
(本当、嬉しそうね。ご両親様を早くに亡くしたからこういう、家族愛にどこか飢えてるのでしょうね...。あの頃はまだ10歳だったからしょうがないよね。でも...もう6年かぁ。)
「...?ハル姉、どうしたの?」
「...へ?ああ、なんでもないわ。」
(ついこの前、同年代の友達が出来たみたいでまたさらに楽しそうにしている。この町の皆んなニコにはどこか距離を置くっていうか、上の立場の人故にそういうのを感じちゃうのよね。だからキジコさんはニコにとって心から信頼できる友達...なんでしょうね。)
「ハル姉も食べないの?」
「うん、じゃあいただきます。」
クッキーを食べ終わり紅茶で一息つくニコ。
「それじゃ、私はまた公務に戻るよ。」
そう言ってニコは立ち上がる。
「...!少し待って。」
「...?」
ハルはニコを見るなり、近づく。
「は..ハル姉?」
(...こうやってみると身長も伸びたね。まだ私より小さいけど、ここにやってきた頃よりもずっと立派になったね。)
ハルはニコを優しく抱く。
「う..ふぁ...ふぁうへえ...!?」
(...きっとこれからも大変な事はいっぱいあるでしょう。大丈夫、私達は貴方を寂しくさせないわ。)
「...身長伸びたね。」
「ふぇ...!?ほ..本当...かな?」
「後片付けはしておくわ、いってらっしゃい!」
ちょっと顔が赤いニコ。
そのまま駆けるように公務室へ戻った。
ガチャッ
「お、ちょうど良かった!蒼鈴殿から念話が入った。」
「何かあったのか?」
公務室に入るなりジンが私を呼ぶ。
「町の防衛レベルを引き上げてくれ。向こうで...6年前のドラゴンと似た奴らが現れたみたいだ。」
「な!?」
ーーーーーーーーーー
カーンッ ガキィンッ!!
「クッ...なんっでコイツらが!?」
「(ピピッ...。)」
賑わう貿易路を進む中、現れたのは10羽の金属の体を持つ鳥の魔物。そう、マギアシリーズだ。
「キャー!!」
「助けてくれー!!」
「周りの一般人を避難させろ!!」
マギア鳥は現れるなり周囲の人々を見境いなく襲い始める。
「...まだどっかで製造されていたのか!?」
「おそらくな。間違いなく逃げた教授ってやつが関わってるな!」
私は手に魔力を込める。
「魔砲貫通光線!!」
だが、私のペネトレーザは避けられた。
「マジか!?」
コイツら連携をとっているようで、全員では襲い掛からず2〜3羽はより高い高度で私達を監視して、動きがあれば信号を送り即座に対応している。
私のペネトレーザが避けられたのはこういう事か!!
マギア鳥は腹部にある結晶から魔法弾を放ち空爆の如く空から攻める。
さらに隙があればその鋼鉄の爪で襲い掛かってくる。
「一般人の避難は!?」
「流石に人の多い貿易路だ、まだ時間がかかる!」
「ぐぅ...!」
私は何割か魔力を解放する。
「な!?キジコ!!」
「ここで魔力ケチってる場合じゃないって判断させてもらうよ!」
私は空に向けて手を広げる。
「うまくいけ...空間衝撃波!!」
マギア鳥の飛ぶ空間に大きな衝撃が響く。
これによりマギア鳥達の通信による連携網が乱れそれぞれエラーを起こしたかのようにバラつき始める。
「全員構えろ!!」
だがマギア鳥は一個体自体戦闘能力が高く、空からの攻撃がダメになった以上、私達に直接襲いかかり始める。
「今がチャンスだ!!」
潰すにはこの近距離で皆が攻める他ない、連携が戻る前に..!
「や...やめて!!」
「!?」
振り向くと、兵が避難させていた一般人の女性がマギア鳥に襲われている。
「まずい!!」
急いで駆けるもマギア鳥は女性の腕を掴み空へと攫う。
「クロマ!!」
「待ちやがれえええ!!」
「(ピピッ)」
「な!?ぎゃあっ!!?」
クロマが追いかけるもマギア鳥は一瞬信号を送りしたのマギア鳥にクロマを魔法弾で攻撃するよう指示信号を送った。
クロマはそのまま被弾してしまった。
「師...匠、早く...!!」
私は全力で追いかける。
だが鳥は猛スピードで高度を上げてゆく。
「(ピピッ)」
「へ?」
かなりの高度になった所でマギア鳥はなんと女性を地面に向けて落とす。
「キャーーーーッ!!!」
「やりやがる...!!だりゃあっ!!」
私はなんとかキャッチするも...
「(ピピッ)」
「しまった!?」
マギア鳥はこれを狙っていた。
私が女性を助けた隙を狙い魔法弾を撃つ。
しかもかなりチャージしていやがった。
このままじゃ私が助かっても女性は黒焦げになってしまう。
レーザーネットバリアじゃこれは防げない...!!
どうすればいい...!?
バシュッ
「...え?」
マギア鳥に大剣が突き刺さっていた。
そしてそのまま地面へ落下し、私と女性は無事だった。
タッタッタッタ...
「はぁ..はぁ...大丈夫か!?」
「その声は...!!」
...どうやら全力で走ってここまで来たようだ。
「ごめん、増援しないって約束..破っちゃった。」
「...あんたなら大丈夫だよ。偽物がいてもその魔力は真似出来ないだろうさ。」
現れたのはニコだった。
「皆んな無事か!?」
「なんとかね。」
ニコは大剣、真成無双剣を引っこ抜く。
「あれ、真成無双剣にヒビがない?」
「自動修復機能あるんだ。すごいよね、魔法具って。」
「確かに、でも今来てくれたのは嬉しいよ。コイツら賢い上に強い。」
「ああ、いっぱい手を貸してあげる!!」
さて、反撃と行きますか!!




