第81話 ニコ派設立までのお話(前編)
これはキジコが異世界に来る前のお話。
私はニコ、[ニコ・ランド・ウルフェン]。
[神獣へと望む者]という称号を持つ、今世の神獣候補だ。
私は狼の獣人族で、生まれは獣人族の国エルト。
現在16歳。
叔父が国王を務めており、事実上王族というか王家の血筋である。
好きな事は動く事、退屈が嫌い。
好きな食べ物は肉。
好きな人は母上と父上。
そして叔父が嫌いだ。
叔父は中立の国を侵略し続ける派閥、インヴァシオン派を作り、今も民の命など考えず他国の領土を狙い続けている。
これはその対抗派閥、ニコ派設立に関するお話だ。
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ことの始まりは6年前。
私が10歳の頃だ。
王の立場を叔父上が引き継いだ時からだ。
元々..昔我が国は他の国を侵略する事で戦力を築き上げていた。
だが何世代か前からその傾向が消え始め、徐々にではあるがかつて侵略された国や国民が中立の国として立ち上げたり、傘下に入っていき、また少しずつではあるが国とは和解し始めていた。
酷き歴史はすでに終止符を打たれた。
なのに...あの男、叔父上、バノスは!!!
王になるや長い時をかけ関係を取り戻していた中立国家クスにいきなり侵略宣言をし兵の負担両国の民の命を一切気にせず政治を進めさらにそれだけに飽き足らずかつて侵略されていた領土を片端から再び進行し始め悲鳴の止まない夜が何度も続きそれに終わらず侵略に反対していた母上や父上それに今まで国家間の仲を取り戻そうとした国家重鎮達を皆殺しにしやがった絶対...絶対に絶対絶対に絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!!!!!!!!!!!
...両親に必死に守られ生き残った私。
その日は雨、もはや体から流れ出るのは汗なのか涙なのか、血であるかもわからないような、凄惨な日だった。事実上平穏派が滅びた日だ。
私も幼く体力が少なかった。
暗く、雨で体力が奪われ、
もはや前も見えなくなりつつあった。
いや、それからすぐに意識が朦朧とした。
もうここで死ぬんだって思った。
両親に申し訳なくて流れた涙も雨に流され温もりも無かった。
そんなとき、彼らが現れたのだ。
「...!?嬢ちゃん、しっかりしろ!?嬢ちゃん!!」
「おい、この事を急いで町に伝えろ!!衰弱しきっている!!」
「待ってろ嬢ちゃん、今助けてやる!!!」
そこから、意識がなくなった。
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目が覚めると、
綺麗に現れた汚れのない私の体、綺麗な服、ボサボサ地毛だがフワフワ。
暖かい布団、明るい部屋。
外を見ると賑わう人々。
どこだここ?叔父上の侵略を受けていないのか?
ガチャ..
「...!」
「起きたか嬢ちゃん。そう警戒するなって。」
現れたのは細目の犬獣人の男だった。
「俺はジン。雨の中仲間と周辺調査していた時にあんたを見つけ助けた。体、どこも痛くないか?寒くないか?」
「...はい。」
「ここなら安心だ。俺達は平穏派の生き残りでな、クラル様とラミ様の尽力で生かされた者達だ。」
その二人の名は誰よりも知っていた。
「父上と...母上が!?」
「な!?嬢ちゃん...まさかニコ様か!?」
「は..はい!ニコ...ニコ・ランド・ウルフェンです...。」
ジンは驚きつつも、突如私に跪く。
「助けが遅れた事大変申し訳ありませんでした!!!貴方様ご両親を救えなかった事を我々一同を代表しここに謝罪します!!!!」
ジンは大粒の涙を流して私にそう言った。
...この姿を見る限りきっとこの人...いや、ここの人達は母上と父上を慕い平和な獣人の国を目指していたんだろう。
細目でちょっと怖いけど、優しい人なんだってすぐわかる。
「頭を上げてください。母上と父上は貴方がたが生き残った事を喜んでいるでしょう。私を助けていただきありがとうございます。...そしてできればタメ口だと助かります。今私は親しい人が誰もいないの、お願い。」
「...!!ありがとう...ございま..いえ、ありがとう。」
それから私はジンに色々聞いた。
まずここは先程言っていた母上と父上、そして平和を望んだ者達が総力を上げ築き上げた真なる獣人の国、パースだ。
獣人族は客観的には闘争を好むと言われている。しかしそれは間違いだ、闘争はどの種族も行う。
獣人族もれっきとした人間だ。私は人の心を持って生きている事に誇りを持っている。そして彼らは人という道を進み、人という存在で生きる道を選んだ者達、いわば同胞だ。
一方バノスは獣である事を選んだ。
弱肉強食、強欲、自分が強者であるために蹂躙し、支配し、己の思うがままに生きる。
つまり...敵だ。
パースはインヴァシオン派に対抗すべく皆が平和に生きると同時に戦う覚悟を持っている。
そして...死ぬ覚悟も持っていると。
私はそれを聞いて胸が痛くなった。
平和のために戦闘員ですらない者達に無理をさせてしまっているから。
...私は決めた。
「私、ここに住んでいい?」
「そりゃ勿論だ!じゃなきゃニコ様..いや、お嬢の両親に顔見せ出来ない。」
「ありがとう、そして私は強くなりたい。」
「え?」
「皆を守れる強さが欲しいの。母上と父上が残した君達を守れる強さが。」
「...!!」
「だから、助けられた身だけど...協力してくれないかな?」
「....はい!!」
私はベッドから起き上がり立つ。
「そうと決まれば、まずは色々整えたい。」
「では、町に行こうかお嬢。」
こうして私はジン達と出会った。




