第52話 趣味vs悪趣味 前編
キジコ視点
下手にみんなに危害が及ばないようある程度離れた所へ来た。
面白いことにこのディストルという怪物、ロティアートの洗脳は効いていなかったようだ。
私が向こうで戦おうと合図してみればなんとその意志を理解し着いてきたのである。...素体もあってか知能が高いようだ。
「さて...ここらで始めようか。」
「ア゛...ア゛....。」
すると4つの目が私を睨む。
バトルスタート!
「オ゛オ゛オ゛ーーー!!」
髪の毛が槍状になり私に襲い掛かる。
スダダダダダッ!!
うおぅ危ねぇ!!?序の口技なんだろうけどヤバすぎる。ロティアートめなんて悪趣味作りやがった。
けど私だって無力じゃない。再度レーダー機能スキルフル稼働、同時にペネトレーザ発動待機....
「ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!!!」
「...!、今だ!!」
攻撃を避けると同時に私は走り出した。そしてディストルに向けてペネトレーザが発射される。
私が思いついたのは動きながらペネトレーザを発射し、遠距離でもなるべく安全に戦えるようにしたのだ。当然こんな切羽詰まった状況でペネトレーザなんか撃てば照準がずれるので空間把握能力を発動し、ちょっとの意識だけでヒットする。
バシュバシュッ
「ア゛ア゛ーー!!」
よっしゃ効いてる効いてる!!このまま頑張れ....ば?
ゾゾゾ....
「オ゛オ゛オ゛.....。」
なんということでしょう、ペネトレーザで傷ついた皮膚や体が元通りになりました。
あー....うん。もしかすれば持ってるかもって意識はあったんだけどさー、いやまさか本当に持ってるなんてね、びっくりー、あははは....
自動回復かよおおおおおおおおおお!!!!
「ええいいきなり必殺、3連:魔砲弾!!」
魔砲弾は顔、肩、腹部に命中、ディストルはかなりダメージを負った。見る限り顔が特にダメージが大きかった様で、弱点ってやつかもしれない。
しかし傷は元通りになった。これは長期戦になりそうだ。
よし、この前入手した魔身強化と身体強化、鋭敏強化の稼働レベルを上げよう。この常時発動スキルは魔力を消費すれば一時的にさらに機能が上がる。
ピカッ
「..!!」
ディストルがレーザーを放つ。向こうも使い始めるか。ならば私は再びペネトレーザだ!食いやがれえええ!!
ーーーーーーーーーー
それから時間が経ち一方ミーシャと邪精霊
「あの空に向かって撃たれているレーザーは間違いなくキジコ様の...!なんとかご無事な様です..!」
『そりゃ良かったな、あの化け物相当暴れてるみてぇだし無事かどうか怪しかったぞ。』
『ちょっと邪精霊!!変な事言わないでよねっ!!』
『いや、別に変な事言ってねぇだろ...。ミーシャよ、このやかましい精霊なんとか出来ないのかぁー?』
『キーッ!!聞きなさい!アッチは火と光の力を持った陽炎の妖精フラム様よ!!』
『あっそ。』
『なああああああ!!?』
「フラム落ち着いて....。」
2人は急いでキジコの元へ向かっていた。
「...気になっていたのですが...。」
『ん?』
「あなたはどうして、邪精霊になったのですか?」
邪精霊は少し黙る...
『...知らね、俺はこの体になってから明確な意識が生まれた。だからどうしてそうなったかはわからねぇ。』
「...そうですか。」
『でもこの体に書き込まれた戦闘意識自体は実際に所、拒絶は出来た。だが俺は受け入れた...もしかすればもっと自由な世界を見たかったんだと思う。祝福する者ではなく広い世界を生きる者として。』
「...。」
その時だった。
ズドォッ!!
『おお!?』
『危ないミーシャ!!』
ディストルの流れレーザーが来る。その跡は地面を悲惨な姿にし、もし当たっていたら肉片すら残るか怪しいほどの恐怖を見せる。
『あっぶねぇな....!なんだこの化け物威力!?飛んできた角度と化け物の発射口からして近いな...。』
「..はい。もうすぐ着きます、急ぎましょう!」
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しばらく戦ってはいるんだがこれと言った決め手も展開も起きていない。アニメや漫画で絵面的に困るやつである。
いやゲームだと強いボス相手ならよくある展開なんだけども...いざ直接試してみるとなかなかきつい。色々と。
けどわかったことはある。
どうやらディストルは自動回復機能こそ持っているが、ダメージ自体は蓄積しているようで時間はかかるが勝ち目がある。
ちょくちょく大技撃てばなんとかなるんだが...私がもたない。どうしたもんか...。
キジコとディストルは狙いを定め冷静保ち戦っているつもりだが、実際のところ客観的に見たこの光景、かなりハイスピードなのである。
特にキジコはスキルを用いた情報処理と作戦の集中によってだんだん感覚がズレているのである。
同時に...
ズダダダダダッ!!!
「...?だんだん弾足が遅くなっている。だが今なら...!魔砲撃!!
ゴオオッ
「ア゛ア゛ア゛ーーー!!」
「まだまだ、貫通光景之雨!!!」
肉体レベルと魔力が上昇し始めていた。キジコは極地点スキルを習得できない故、抑えきれないほどの圧力や恐怖に対抗しようと体が成長しようとしているのだ。
MAXレベル100のゲームでいうところの、キジコは今の戦いだけでもう3レベル上がっている。
「はぁ...はぁ...どうよ、かなりダメージ溜まったんじゃないの?」
「ア゛...ア゛ア゛...!!オ゛オ゛オオオオ!!」
ディストルの目が光始め、高魔力を感じる...ん?やばくねこれ。
ビカッ
「ア゛ア゛ア゛ーーーーー!!!!」
4つの目から今までで一番やばい火力のレーザーが飛ぶ。レーザーは若干扇型に広がり辺りの建物を焼き切る。
しかしこれで終わりではなかった。
ディストルはさらに高濃度の魔力を纏い始め、魔力が卵状になりディストルを包み込む。
「ペネトレーザ!!」
しかし高濃度魔力に触れた途端かき消された。一体何が起きるっての!?
『アーダ・ブラスト!!!』
『ソレイユ・バースト!!』
「!!?」
テンパってる時にさらに情報が詰め込む。え?え?なんで邪精霊と精霊が手を組んでるの?あれ、あの精霊ミーシャの気の強い精霊さんじゃね?
「キジコ様!!ご無事でしたか!?」
うおぅミーシャ!?なんかタイミングどこか盛り上がり的に悪い気がするけど無事ですぅ!!
「...あれは...!?」
「...化け物が突然あんな卵状の高濃度魔力を纏い始めた。中身も見えないし攻撃も効かない。」
『何よこれ!?全然傷がついてないのよ!!』
『...こりゃあ本気の本気でまずいぞミーシャ。』
「...なんで邪精霊が?」
『色々あってあんな奴裏切った。こっちの方が楽しいんだよ。気にすんな!』
「いやいやいやいやいや!?」
ビキッ
「「『『!?』』」」
茶化してる場合じゃないのだが、ヒビが入った瞬間だ。今までにない魔力が噴き上がる。
そして、
ガシャッ.....
「....。」
その肌は先ほどと違い白く美しく、
その金の髪はサラサラたなびき、
目は2つ、その上に2対の赤い目の模様があり、
その瞳は黒と白寄りの水色。...ミーシャと同じ、
身長は175cm前後まで縮み、
そして純白の衣、
先程と違い物静か、
一定ダメージ与えた結果の...第二形態だ。
「オ...オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!!!」
「な、しまっ...!?」
ディストルが大声で叫ぶ。その衝撃は爆弾でも爆発させたかのような威力で、私達は大きく吹っ飛ばされてしまった。
しまった...でかい隙が...!!
ディストルはこちらへ歩き始めた...まずい、狙いはミーシャだ!!
「逃げろミーシャァアアア!!!」
ディストルは手に魔力を込めミーシャを貫こうとした....
時だった。
その手はなんと、寸前で止まっていた。
「...私がわかる?お母さん。」
「...!?...?...!?....ミー....シャ....?」
...!!
「...精霊さんは加護がまだ残っているって言ってた。だから..まだ希望があるって信じてた。ごめんね...お母さん、遅くなっちゃって。」
「ミー......シャ。ミ..ーシャ?..ミーシャ...!?ア...ア゛ア゛ア゛ア゛...!!?」
ディストルはミーシャを見た途端急に頭を抱え、抑え苦しむ姿を見せる。その目からは涙が溢れているのが見える。
「アアア...!?ソン..ナ...!?アノコヲ...ケガサセタ...!?ミーシャ...!?ミーシャ!?イヤ...イヤアアアアア!!!!」
ディストルは泣き叫ぶ。
『...素に近い姿、効率の良い形態になった結果なのかはしらねぇけど、今奴の思考は素の状態に近い。..助かる希望が見えたな。』
すると熊のぬいぐるみ精霊が、
『化け物の本能がもっとも効率の良い形態...つまり知識や意識がミルカーナのものになったのかもしれない。危険だが助けるなら今だ。』
「...本当に...本当に遅くなってごめんなさい、お母さん。今...助けるから。」




