第40話 ぬか喜びの天才
「お待ちしておりました...あら、他の方々は?」
受付に行くと領主のラーシャがいた。どうやら私達を待っていたようだ。どうやらゼオ達にも用があったご様子。
「ゼオ達は武器の修繕に行きました。ここのところ戦いが多かったものですから。」
ロブスターの戦いでゼオとアリアの剣はかなりダメージを負っており、スー君の予備大剣もそろそろ買い替えにもなっていた。
幸いこの町はそれなりに大きい鍛冶屋があり、そこでなら武器の修理や購入が出来そうだ。
「...ケイさんの短剣は特に傷ついた箇所は見えなかった気がしましたが..ああ、私の勝手な考えで...。」
「ケイは基本的に格闘で戦いますから、持っている短剣は使っていません。」
そういやケイが短剣使ってる所見た事無い、基本的にドカッとかバキッって敵を殴って蹴ってるからなぁ。
おそらく予備武器か何かなのだろう。まぁ知るのは本人のみ...かな。
「それで、どう言った御用件なのでしょうか?」
「はい、キジコ様...資格を持つ貴方様に用があって参りました。」
...!
「...近頃、北の方面に神獣の資格を持つ存在が現れたという情報が一部で上がっております。」
「私以外の...資格保持。」
「それに関する情報を伝えたく参りました。詳しい情報は機密となっております故、ご足労願いますが再び私の館に来ていただけるとありがたいのですが...。」
「...行きます、私もその辺りの情報は欲しかったので。」
「..では、」
「私も着いて参ります。キジコ様の護衛も兼ねての旅ですので。」
「...!、わかりました。」
私は再び、ラーシャさんの館へ行くことにした。神獣への資格...正式な称号のもう一人、どんな奴なのか気になるな。北の方面...か、どんな所なのだろう。
でも今はする事があるのでそちらに集中していよう。
そして私達は館の中へ入り、会議室行きとは別の道を歩んでいる。どうやら公に出来ない重要な話をするつもりなのだろう。
そう、誰にも明かしてはならないだろう情報を。
私達が入ったのは大きな机と椅子、ボードのあるいかにもな会議部屋。
「お待たせしました、すみませんがこの部屋でお待ちください。お茶を淹れてきます。」
「従者に任せないのですか?」
「...!、とても重要な話をする都合上、従者の耳にも下手な情報を流したくありませんので。」
確かに、情報ってどこから漏れるかわからないからね。油断できないもんだ。
「そうでしたか、ありがとうございます。」
ラーシャさんは笑みを浮かべながら、そして...
「はい、では....
さようならっ!」
バタンッ!! カチッ
扉が強く閉められ外から鍵が掛けられる。
ーーーーー
部屋の外
「クク..アハ...ハハハ...!!」
「アッハハハハハ、まんまと引っ掛かったね猫の魔物!ハーフエルフの娘もかかったが他の仲間ごと殺せないのは残念だ。だが同じ仕組みの部屋はまだある。」
邪悪な笑みを浮かべる女。
「部屋は高位の防御術式結界で包まれていると同時に結界内に高威力の爆破術式が仕込んである!」
「仮に爆破しても防音衝撃緩和術式も仕込んであるから問題もない!」
「本物の領主、ラーシャに化けては見たけど誰にもバレていないとはね。奴らも住民も馬鹿で助かるってやつよ!」
「私は反神獣派内で爆破に長けたエリート、スクルゴ!」
「ターゲットはまんまと罠にかかり作戦は成功!」
「ついでに住民達も私の正体に気づいていないようだし今後は私がこの領を統治するってのも悪くないわね!同胞を増やすチャンスにもなる!」
「アハハハハ!私は天才、天才なのよ!」
カチッ
「アハハハハハハハ!!」
スクルゴは高笑いをし、喜びに満ちた表情を浮かべながら自身の作戦に酔っていた。
ガチャッ「で、どうするの?」
「どうする?決まってるじゃない、ボスに...へ?」
ーーーーー
施錠直後、室内
「よし、だいたい予想通りになったね。」
「はい。」
私達はこの町に来た際に接触してきたラーシャ、しかしミーシャ達はその際そいつが偽物であると認識したらしい。
(「ラーシャは住む町は違いますが幼馴染で、小さい頃からたまにでありますが会っていました。」)
(「そうなの!?」)
(「本人であれば久しぶりという言葉や何かしらの仕草があるはずでしたが、一切ありませんでした。それにラーシャの目は緑色、ですが偽物は少し青みがありました。」)
それからミーシャは私に違和感の少ない低速度生体感知をお願いされ発動、そして...
「いたいた、ご無事ですか?」
「...ん...あ....!ミー...シャ..?」
「...!ラーシャ!!」
部屋に隠し扉がある事に気づき、その中にあった生体反応...本物のラーシャさんを見つけたのだ。
「よかった...良かった!」
「...心配かけちゃったね...ごめん。」
「いいのよ、とりあえず...キジコ様、ラーシャを見守りをお願いできます?」
「そっちは任せた。」
「はい!行きますよ、精霊さん!!」
ミーシャの周囲に沢山の光玉が現れる。
『やっと出番か。』
『アッチのお出ましー!!』
『ボク頑張るよー!』
『ほらみんなも行くよー!』
「ミーシャ...!精霊が..見えるようになったの...!?」
「ふふ、さぁ精霊式・術式解体!」
すると、部屋中の術式があっという間に消えた。術式自体、精霊魔法を基に作られたというだけあってあっさり解除である。
「さて、スキル:施錠解除」
カチッ
「アハハハハハハハ!!」
ガチャッ「で、どうするの?」(なんとなく言った)
「どうする?決まってるじゃない、ボスに...へ?」
「へええええええええええええ!?」
「やほ。」
「あら、てっきりどこかに隠れたと思ったのですが...まぁここにいたなら、返って色々やる事減ったのでいいでしょう。」
「...見つけましたよ、スクルゴめ。」
ビックリ仰天で混乱している偽物。いや、反神獣派構成員。
「う..うそ、術式全部...解いたの...!?」
「解きました。私に掛かれば楽勝でした。」
「いや、そもそも何で気づいた!?怪しい素振りなど...!」
「私とラーシャは友達です。久しぶりに会ったのに友人としての挨拶がない時点で疑っていました。それにキジコ様が神獣の資格保持である事をなぜ知っていたのでしょう?」
「今更何を言っている!?貴様が言ったからだろうが!」
「いいえ、私は[神獣の資格を持つ方]としか言っておりません。それどころか逃げもせず策に溺れているとは..なんと間抜けなのでしょう。」
ミーシャに煽られ、スクルゴという奴は青筋を立て怒りを見せる。
「貴様ら...貴様らよくも..私の完璧な作戦に泥を塗りやがって...!!」
「いや初っ端から失敗してる時点で完璧じゃないでしょ。」
「黙れクソ猫があああああ!!」
「だりゃあああっ!!!」
「ガブッ!?」
遅かったのでスクルゴの顔を引っ掻こうと思ったがラーシャさんのパンチが先にスクルゴの顔にクリティカルヒットする。
「不意打ちして爆弾付きの部屋に閉じ込めてくれたお礼だ、まだプレゼントし足りないからありがたく受け取れや。」
「ぐ..だれが...貴様なんかに..!」
「ここは公に出来ない重要な情報関係の会議をする、[重要会議室]って書いてあるでしょ?
[このパンチは町と国をより良くします]って案を通す部屋だよ。」
そのままラーシャさんはスクルゴを顔とか腹とかとにかく容赦なく殴りまくる、女って怖。私も女だけど。
「ガアァッ!?...ま..だだ...貴様..ら..!」
「なに?まだ礼が足りない?」
「念のため...仲間を...呼んでいる...!この館はすでに包囲内..!!勝ち目はないぞ...仲間の奴らは天才魔道士の...軍団なんだからなぁ...!!」
「それが何か?」
「バカめ!!大人しく降参しろ!命だけは...ギャアッ!?」
....こいつ馬鹿なのかな。仲間が外にいるからって殺せない理由にはならないっしょ。醜い事に変わり無いけど。
とりあえず足を数カ所斬った。
「おーい、こっちはもう終わったぞー!」
「お、デジャブある光景。」
「中ボス捕まえたっすかー?」
「見ての通りだよー。」
「..!ゼオ、ロッタ、アリー、ケイ!!!」
「助けに来たぜ、ラーシャ!...と言っても、もう終わったけどね。」
スクルゴ縛って外に行くと気絶している反神獣派の戦闘員達。次々と町の警備兵に捕らえられており、スクルゴも引き渡した。これにて一件落着である。
...なんか段々世直し旅染みてきたぞ、どこぞの水◯様のように。
ーーーーー
「皆、助けてくれて本当にありがとう。」
「ラーシャが助かって良かったよ、アタシ偽物を見た時かなり焦ったのよ?」
「公務の際に不意打ちをくらってしまったのでな...。」
「でもそいつは殴ったんだろ?」
「ああ!後でまた殴りにいく!」ニコッ
「「「「「それはやめとけ。」」」」」
思ったより暴力的な一面あるな、この竜人族のお姉さん。さっきもそうだったが怒らせるのはまずい人ランキングかなり上位だろうな。
さて、次はとうとう帝国だ。今のうちにできる準備や支度はしておこう。出発は明日、気を引き締めておこう。
[個体:キジコの覚醒ポイントが1上昇しました。]
[現在のポイントは99。100へ至った際のアサシンターロンキャットの進化準備を行います。]
[種族進化が不可です。個体の魂が種族と一致しません。個体進化を優先します。]
[個体進化ポイントが足りません、準備を保留致します。]




