第36話 ロブスターパニック
「はあああ...魔砲貫通光線・全弾発射!!!」
30発の光がロブスターを貫く。
「す..すげぇ、キジコ様鍛えられてまたレベルアップしてるな..。」
「でもエビ野郎まだまだいるっすよ。私達も気を引き締めるっすよ!」
キジコです。
現在町の外の平野にて、海からやってきた水陸両用魔物テラー・オーシャンの群体の討伐中です。1mくらいあるしギチギチしててキショい。
なんでこうなってるかは不明。
しかしなんでもこの魔物、群体で暮らしてこそいるが群れ行動、統率行動とかはしない種類らしく今こうやってこの町ピンポイントにこの数が現れた事自体謎であるという。
「考えても出てくる答えはほぼほぼアイツら、反神獣派の仕業っぽいけど..どう思う?」
「...間違いないだろう。こいつらテラーオーシャンがこんなまとまって同じ行動をするはずがない。第一こいつら、キジコ様を積極的に狙っている。」
「そもそもの気配が妙っす。アリアもそう感じないっす?」
「ええ、魔力の流れがおかしいわ。まるでターゲットを殺すようプログラムされたというか..。」
ゼオ達もこの事態の黒幕に気づき始める。しかしロブスター達はまだまだ迫り来る。キリがない。
「ミーシャ、アリアとケイに支援魔法の集中お願いできるか!?」
「わかったわ!活発強化!!」
「リミッター少し解除っす...!行くよアリア!!」
「アタシも体力出し渋る場合じゃないね。アイテム大量消費覚悟、行くぞ!!」
二人がロブスターの群体に突っ込む。
その瞬間大量のロブスターがぶっ飛び、砕かれ引き裂かれ、無残に切られていた。
そこそこ強いとはいえHAディアーよりは弱い。だが物量がやばい。
今いる平野はゼスィーに繋がる広い平野であり、ここを下っていくと海側に出て、その先に帝国領の町ゼスィーがある。広い分戦いやすいがロブスターも押し込んでくるのでこのままじゃジリ貧である。
「町の防衛はどうなってるの!?」
「町に滞在している冒険者達がなんとかしているみたいです。」
「けど全員が戦闘員ってわけじゃないからここでなんとかしなきゃ全滅よ!なんとしても食い止めるわよ!」
「ヴル!アリア右!!」
「!!、風切りの舞!」
ギチギチッ!!
「ふぅ..ありがとう、ルザーナ!」
「気をつけて、だんだん攻撃が複雑になってるわよ!」
ルザーナはスカーフを贈った後からさらに念話が流暢になっている。そして早速こんなに協力できている。超嬉しい。
「たあっ!!青之押撃!!」
「よし..ぜやぁ!!血羽之舞!!」
ルザーナが地面に強い衝撃を与えロブスター達を浮き上がらせる。そして空中でアリアが切り刻む。連携すご!!
そして彼らも負けていない。
「スー、前に魔法整形使ってたけど、キジコ様の魔力の向きを変えられるのなら俺の剣の形も一時的に変えられるか!」
「!?、できなくはないが...。」
「なら頼む、はあああ...。」
「!、剣にかなりの量の魔力を..!魔法整形!!」
するとゼオの剣がカッコいい感じの刃を具現させる。
「おっしゃあ!!一気に行くぞ!」
「「斬撃弾!!」」
いつもより威力の増したソードキャノンはロブスター達を粉々に撃ち砕いた。彼らも短期間で何気に成長しているようで驚いた。
ギチギチ...ギチギチギチッ...!!
でも、まだまだロブスターはいる。
うーむ、いまいち決め手が欠けているなこれは。大ボスがいるならまだしも、今回指揮官キャラとかで動いてるわけじゃないから殲滅する以外でどうにかする方法がない。
ルザーナのメテオ技も何度も撃てるような技じゃないから温存しないとなぁ...。
「!!がはっ!」
「!、大丈夫ケイ!?」
「大丈夫...っす。」
「こいつら思った実力以上に殻が硬い!キジコ様、スキルは貫通力の強いペネトレーザの優先をお願いします!!」
「了解!食いやがれええ!!!」
ゼオとスーロッタの攻撃は硬い殻を切り裂きケイとアリアの連携はその肉を断つ。
私のペネトレーザはロブスター達を何度も貫きミーシャの援護は私達を支える。
ロブスターの数は減っているのはわかる。しかし...
「ぐああ!?」
「!、ゼオ..があ!?」
ゼオとスーロッタの体力はもう残り少ない。ダメだ、ジリ貧の終いに到達寸前だ。
「ヴルァ!!..ハァ...ハァ..。」
「ルザーナ、無理しないで。」
「...はぁ..はぁ..もう..支援魔力..が..!」
まずい、ゼオ達が限界だ!
避難しないと...!しかしどうやって..
ダッダッダッ...!
「オラァッ!!!」
「..!」
ロブスターが突然ぶっ飛んでゆく。
「兄ちゃんら大丈夫か!?一旦俺らと交代だ!」
現れたかのは大きな斧を持った鎧揚げのおっちゃん。そして続々とその仲間が現れる。ゲームでいう所の応援、第二第三パーティといった所か。
「...皆んな!一旦下がるぞ!」
「おう!」
ゼオがそう叫び私達は一度下がった。
「大丈夫かいあんた達!治療!」
「ほら、魔力回復薬だ!」
安全地帯に逃げ込んだ私達は町や冒険者の人達に手当てを受けていた。実際結構消耗していたから応援には助かった。
「はぁ..はぁ..。」
ミーシャは支援魔法..いわばバフ維持に集中していたためか、かなり消耗している。彼女は本格的に休ませる必要があるな..。
「ご主人様、」
「?」
トットットッ....
「大丈夫か、キジコ。」
そこに現れたのは暗闇、エレムスだった。
「...!エレムスさん!」
「ちゃんと生きていたようだな。...まさかこんな夜に攻めてくるとはな...。町の存亡にも関わる、我とイグニールも手を貸す。」
どうやらエレムスが町の守護に間に合ったようで、その分の戦力が平野側に送り込めたらしい。間一髪だった。
「..!協力してくれるの...?」
「当たり前だ、民を守るのも[我ら守護獣]の役目だ。なんとかして見せよう。」
「..ありがと...う?エレムスさんも守護獣なの?」
「言ってなかったか?」
言ってませーん。初耳です。いやまぁあの強さなら守護獣ってのも頷けますわー。
「む?動き出したか。」
ドゴオオオン!!!
「おお!?なんだぁこの炎!?」
空中に銀髪の魔法使いがいる。
「皆さん大丈夫ですか?我ら守護獣も手伝いますわ!火炎砲撃!!」
ズドオオオン!!
ひええぇぇ...。私の魔砲撃の比じゃねぇ...。けどこれならロブスターの殲滅も時間の問題、いけるぞ...!!
ギチギチギチギチッ!!
「ええい!なんでこんな沸いてるのよ!!エレムス、手を貸してぇ!!」
「一人でなんとかできるだろ!俺は町の守護役だ!」
「ケチんぼ!!」
守護獣の助力でなんとか徐々に減っているロブスター。あと少しで殲滅ができる。
「よーしお前ら、あと少しだ!!気合い入れるぞおお!!」
「うおおおお!!」
勇ましい戦士達の雄叫びはロブスターを圧倒し、己の体を鼓舞する。その一撃一撃は硬い殻を難無く砕き、切り刻み、打ち断つ。
「これで終わりだああ!」
そして、最後の1匹が叩き斬られた。
「ぜえ...ぜえ...ど、どうだあ!」
「...生体感知発動...魔物の気配...なし!、皆んな...殲滅完了です...!」
「うおっしゃああああああああああああ!!!!!!」
疲労吹き飛ばすほどの歓喜が一帯に響く。私達の勝利だ。
「ふむ、我ら守護獣が少し手を貸しただけでここまでなんとかするとは..やはり人間はすごい奴らだ。」
「あらぁ〜?今日はちょっと素直ねぇ〜。」
「うるさいウザ鳥!!」ポコッ
「アイタッ!!」
つ..疲れたあああぁぁぁぁぁ。
もーなんだよ、ほんとこの世界来てからやる事多すぎ。お陰で暇せず強くなってるけど。
ゼオ達もその歓声を聞き安心している。
ただ...
「...だった。無力だった..私が..弱かったから...。」
ミーシャから泣き混じりの小声が漏れていた。支援魔法を使ってもみんながやられていく姿が罪悪感となったのだろう。
「...ミーシャさんは弱くないよ。支援魔法なかったらもっと早く潰れていた。ありがとう。」
「でも...でも..、皆んなが..皆んなが..。」
『いいや、本当に君は頑張った。ミーシャ。』
「え...?」
その声がした方向には綺麗に修復されたぬいぐるみ(精霊)とヴァリール。どうやらそっちも終わったみたいだ。
『君はいつもワタシを心配させるね。自分を責めちゃいけないと何度も言っていたろう?』
「...!!..レ..レリィ..なの...?どうして..声が..!」
『君はいつまでも精霊の声が聞こえないわけがない。仲間と共に歩んできた君の心は少しずつ開こうとしている。だからワタシの声が聞こえるようになった。
でも今の君はまた閉じようとしている。それではいつまで経っても君はあの頃と同じ、子供のままだ。』
「...!!!私は..」
『君はもう弱くない、気づいてほしい。』
すると精霊はミーシャに触れる。
「..!!」
ーーーーーーーーーー
「どうして...どうして...精霊さんの声が聞こえないの!?精霊はどこにいるの!?」
『そ..そんな..ミーシャ..僕達はここだよ!?』
『...お母さんを失ったショックで心が閉じてしまったの...!?》
...これは私の記憶...?




