第32話 森を抜けて
「ギャアアアアアアアアアッ!!」
森を出た瞬間叫ぶ私達。
「馬鹿かお前ら...。ずっと暗闇にいたのだから、いきなり日当たりに出れば目が痛くなるのは当然だろう...。」
ス「お...俺としたことが...!」
ケ「世界が...ピカピカ..っす。」
ゼ「ぐあああああ!」
ミ「あら...あら...。」
ア「しくじっ...たわ..。」
キ「目が...目が...。」
ル「ヴル...ヴハッ。」
「シャキッっとせぇ!!!」
バシバシバシッ
数分後....
「全く...いい加減治ったか?」
「あ...ああ、もう大丈夫..。」
「...ふ..不覚..。」
暗い世界から外に出て、長時間見ていなかった明るい世界を見て、暗闇慣れした目が悲鳴をあげ、エレムスにシバかれた私達。
前を見るとその先にあるのはドゥークの森近辺の町:ドゥーカルン。
ようやくここまできた。
「さて、教えた事の最低限は身につけたみたいだしこの先もまぁ大丈夫だろう。とりあえず町でゆっくりするといい。」
「ふーむ..でも反神獣派がまだ毒殺とか狙ってくるんじゃないっすか?」
「それなら心配無用。そろそろくるはずだ...。」
「?」
「あら?その子がヴァルケオの言ってたキジコって子?」
いつ間にか後ろに謎の女性がいた。
「調査ご苦労だったなイグニール。結果はどうだった?」
「3人潜んでいたわ。始末してきたけど。」
「...兵に引き渡さなかったのか。」
「証拠がないからねぇ。第一、事件起きた後じゃ遅いわ。」
「...相変わらずの行動力だな。」
そのイグニールという女性は音も無く私達の後にいた。シルバー色のミディアムショート髪でローブを着た姿。
しかしその魔力量はびっくりするほど高く、エレムスより少し上っぽくもある。何者なんだ?
「あのーエレムスさん、その方は?」
「彼女の名はイグニール。この森の守護獣だよ。」
「守護獣!?」
するとイグニールさんの姿が光り始め姿が変わる。その姿は黒とシルバーの混じったような煌めく羽根、硬い金属をも難無く砕きそうな硬く鋭い爪、たなびく尾羽、体長は大体5mくらいの美しい鳥が現れた。
「シルバー・アルジェン・フォーグルのイグニール。初めまして、キジコちゃん。」
すげぇ、久しぶりに見るこの神々しさ..。
「さて、今言った通り潜伏していた奴らはもういない。安心して向かうといい。」
「後から追加で来たりしないの?」
「大丈夫ですよ、監視の術式をいくつも仕掛けていますから。何かあったら駆けつけます。」
何という行動力!
これなら私達も安心してドゥーカルンで休めそうだ。やーっとゆっくり眠れる..。
「さて、みんな。そろそろドゥーカルンに行こうか!」
「ああ、俺も流石に疲れたぞ...。」
「...確かドゥーカルンは果物が有名だ。特に今年は実りが良いらしい。」
果物か!道中の食事は保存食中心だったから舌に負担かかってたから助かる!!一体どんな美味しいフルーツが待っているのやら..ジュルリ。
「エレムスさん、案内ありがとうございました。修行きつかったけどお陰で少しは強くなれました。」
「ふん、まだまだ弱いがな。」
(素直じゃないねぇエレムスゥ〜。)
「ん?どうしたイグニール?」
「なぁんにも?」
「..?」
「それじゃあまたどこかで!ヴァルケオには元気って言っておいてくださーい!」
「気をつけてね〜!」
「気をつけろよー。」
私達はドゥーカルンに向け、その足を進めるのだった。
ーーーーーーーーーー
道中
「ねぇ、気になることがあるんだけど。」
「?、どうしましたか?」
「さっき、サーグってやつが言ってた[イーク・ストルヤーナ]っていうの、知ってる人っている?」
「..イーク・ストルヤーナ、闘神と呼ばれた伝説の武闘王。その正体を知る者はいないが、なんでも獣人の女性だそうだ。」
それがヤツの言っていたイークって人か..。闘神って呼ばれるくらいだから桁違いに強いんだろうなぁ。
んでサーグってヤツはおそらくイークよりずっと弱いだろう。
「きっとその内会うんじゃないっすかな?」
「?、どうしてそう思うの?」
「いや、同じ獣人ゆえの勘ってヤツっす。」
「なんじゃそりゃ...。」
まぁ同じ獣人というなら案外その勘は当たってそうだな。こういう異世界ならテレパシーとかありそうだし。
「しっかし...なにもねぇな、この道。」
「町の周辺領域として舗装されたからな。」
「何かねぇかな..。」
「そういう事言ってると本当に何かくるぞ。」
フラグが発生した!
しかし、なにも起こらなかった!
「...結局平和でのどかな散歩で町に着いたな。」
「それでいいじゃないのよ。ただでさえくたびれてるんだから。」
ーーーーーーーーーー
という感じでやっとドゥーカルンに到着しました。いえーいぱちぱち。
スー君が言ってた通り町の付近には大きな果樹園があり、その果物を使ったであろう畜産農業も見える。そして町中は行き交う人々の目が明るく、豊かで平和であると物語っている。
すごい町だな、活気も溢れてるし経済に困ってる様子もない。ちょっと贅沢かな...?
「とりあえず私とアリアは宿を予約してきますね。皆さんは次の準備の買い付けをお願いします。」
「..ああ、わかった。」
「ついでにどっか食事出来る場所探そうぜ、俺腹減ったぞ。」
「そうだね、せっかく町に着いたんだから楽しまなきゃ!」
「賛成っす!」
「ヴルル!」
とりあえず私達は一旦ミーシャ達と分かれ町を探索することにした。
「よぉ兄ちゃん姉ちゃんら!これ食ってくか?試食でも構わんぜ!」
「お!鎧揚げじゃん!」
ゼオが鎧揚げと言っていた料理は鶏肉を調味した小麦粉卵液の衣を付けて油で揚げた物。つまり、この世界の唐揚げだ。
「うっめぇ!!さすがドゥーカルンの地鶏鎧揚げ!」
「そうだろう?良い実りの餌で鶏もよく育つってわけよ!ガハハハ!」
「おっちゃん!15個頂戴っす!!ほいお金!」
「あいよ!30ブロンズ丁度、毎度あり!」
おっさんの反応見る限り本当にいい町だと感じる。この町ならゆっくり休めそうだ。
「そうだおっさん、[ゼスィー]への道は今の所大丈夫か?」
「おお?兄ちゃんらゼスィーに行くのか?なら安心しな、今の所荒れた様子はねぇから安全な内に準備整えておきな!向かいの左側の店なら良いもん売ってるぜ!」
「ゼスィー、荒れてる..?どういう事?」
「ゼスィーは予定だった3番目に寄る魔人族領の都市で、海近くの丘の上にあるのです。魔人族領と言ってもかなり中立寄りではありますが。」
「ただ、たまに海から来る魔物が徘徊していてこれが面倒なんっすよね。」
「...奴等はそれなりに強く、徘徊されると交易が詰まったりするんだ。」
「数ヶ月前にも現れな、ウチの町も交易品の到着遅れて困ったもんよ。」
ふーむこれは巻き込まれると面倒なイベントだな...できれば遭遇しない事を願おう。
「じゃ、ありがとなおっさん!」
そんな感じで私達は再び町を巡ることにした。しかし、さっきの鎧揚げもそうだったけど..美味しい匂いがぁ....。
「ヴル?」
「ん?ああごめんルザーナ、なんでもないよ。」
しまったつい。
「そういやキジコ様、」
「ん?どうしたんだい。」
「キジコ様って得意な事ってあるの?」
「得意な事?」
急にありふれてそうな質問がゼオ君から来る。
「いやキジコ様の活躍、戦闘がほとんどだから他に何かあるかな〜って。」
「ふーむ得意な事...。」
趣味であれば...
漫画にアニメにゲーム、お絵描き、お料理お菓子作り、裁縫、ガーデニング、散歩にランニング、水泳ダイビング、山登り、釣り、ドライブ、映画や絵画の鑑賞、プラモデルやフィギュア集め、ファッション、旅行、食べ歩き、etc....
と前世はあったけど今の体じゃ限られるな...。ふーむ...そうだ!
「そうだね、とりあえず手芸用品店に寄れるかな?」
「?、良いですけど。」
「資金はまだあるから大丈夫だ。寄ってみるか。」
浮遊魔法と精密度パワーアップした私の趣味パワー、見せてやる!!




