第31話 ドゥークの森(4/4)
「ご主人様...私、頑張ります!」
「ああ行くよ、ルザーナ!」
「なんだぁ?たったの2体で俺を倒せれるってか?舐められたもんだぜ。」
ドゥークの森の出口付近、待ち構えていたのは反神獣派の戦闘員40人。
森に入る前に見たフード姿の奴らと同じ格好をしており、杖を持ってる奴もいれば弓や剣を持った奴がいる。しかし一人一人はゼオ達よりも弱く感じる。
それで奴らは戦力の埋め合わせとして用心棒を雇ったようで、そいつの名はサーグ・サグ。
自称だが流浪の格闘王とのこと。
「俺に挑んだ奴はいつもグシャグシャになりやがる。
高い金を約束されたから、なにが来るかと思えば...猫とトカゲとは...ふざけやがる。」
「挑まず弱者扱いとは...青いな。」
「ああん?」
「だーかーらー、見ただけで結論決めつけるお前が青いんだって言ってるんだよ。反神獣派も気の毒だな、雇った奴がまぁまぁバカなんだから。」
煽る私。
「...青いだと...青いだと..?俺が青いだとお!?ふざけた事抜かしやがって、よほど殺されたいらしいな...!」
あっさり挑発に乗る流浪格闘王。
「お、落ち着いてくださいサーグ様!挑発に乗ってはいけません!」
「だまれぇ!!雑魚の分際で口答えするんじゃねぇ!!」
おーおー、これは予想以上に効いてる。
「見せてやるよ、俺の我流殺人格闘術を!」
(それ言うと雑魚感が増すぞおっさん...。)
サーグ・サグが現れた!!
「くらえ剛力拳!」
「ほいっと!」
私とルザーナは避ける。
「ヴル!!」
「ごはぁ!?」
ルザーナは回避すると同時に回転し尻尾をサーグに強く打ち付ける。
そのまま吹っ飛び地面に叩きつけられたところで、
「ハアッ!」
私は通常魔力弾で追いうち、同時に煙幕をかける。
「ぐぅ、やってくれる...!?くそっ、前が見えねぇ!剛力拳!破岩脚!!」
「どこ見てるんだい!」
「な!?グアッ、ガアッ!?」
エレムス教官の特訓成果、下手にスキルに頼らず身体能力で攻撃を与える。
その攻撃はどこから来るかわからない恐怖を与え、隙を見せるたびに爪痕が増えてゆく。
「そこだあっ!!」
サーグが上に腕を上げた。
(今だルザーナ!!)
「青之脚撃!!」
「!!..強化魔法、鋼之肉体!..ガハッ!?」
ダメージ軽減されてしまったがサーグはまた吹っ飛んだ。
初めてのまともな連携としては結構良かったのじゃないかな。
「ガハァ...舐めやがって..!もういい!
リミッター解除、怒之魔人!!」
「!!」
サーグの魔力がドンと上がる。
こっちに方がマシな戦いになりそうだな。
「お返しだ!だああっ!!」
サーグは地面を強く踏む。
すると地面に亀裂が入り魔力エネルギーが噴き出す。
「みんな避けろ!!」
「おおっと!?」
「!?、ぐあああ!?」
その攻撃は敵味方関係なく襲う。
「力任せな攻撃にしてはやってくれる奴じゃないか。キジコ、ルザーナ、気をつけろ!」
「もちろん!」
「ヴルル!」
「はああ...!闘牛突進!!」
「おっと!」
ドガシャアアッ!!
後のアヴィードの太い幹が抉れている。
「ひぇ..木がグチャグチャ..。」
「テメェらもすぐにこうしてやる...。身体強化最大!!死ねや猫があああ!!」
「!?ルザーナ、一旦退避して!」
そこからはすごかった。サーグという男は最大まで上げた身体強化で力や速度が大幅上昇し、一撃でも当たれば骨が折れるどころじゃ済まない一撃が私に何度も襲う。
「おおっと!?わあ!?」
「おらおらどうしたあ!!」
化け物か!?身体強化最大に加えリミッター解除とかナントカで長くもたないはずのをわざわざするなんて、負担とか知らねぇのかよ..。
「おらあっ!!剛力拳!!」
ドゴォッ!!
どぅええ!?
どうする...奴は今筋肉がかなり硬化して、動きも素早く間接の可動域まで広がっている。
不味いな...下手に攻撃するわけにはいかな..
可動域が広がっている?
待てよ、考えれば下手に筋肉が硬くなり過ぎれば柔軟性は弱まってしまうはず。
だが奴の腕を見る限り下手な刃物じゃ砕けそうだ。
だとしたら今ある弱点は...!
「余所見してる場合じゃねぇぜ!」
サーグの拳がくる。
「...今だ!」
攻撃を避ける...そして。
「もらった!!」
ザシュッ
「!!!あがああっ!?」
大当たり!間接は硬いと動かないから、柔軟性に関する部位は硬化してない!
その上、部位によっちゃ重要な血管が詰まっている。今の一撃は奴には大きいダメージのはず。
「!?、ば..ばかな!今の俺が..傷を負うだと!?」
「弱点のない奴なんていないよ(多分)。アンタは自分の強さに過信し闇雲に襲うからこうなるんだよ。」
「だ、だまれ!俺は..俺の力はあの[イーク・ストルヤーナ]を上回る!!テメェに負けるはずがねぇ!!」
イーク..スト..誰だろ?
「そのイークってのが誰かは知らないけど、もう弱点はわかったから下手に挑んでも負けるよ。」
「うるせえ!!」
「ほら。」
ザシュザシュッ
「ギャアアア!?」
サーグの腕や脚の間接から血が出ている。
「退散するなら今のうちだよ。」
「...誰が..誰がするかあ!!」
諦め悪いなぁ。
「お仲間さんもうやられてるしこれ以上の戦いは推奨しないよ。」
「ああ?...!?」
「こっちはもう大丈夫だぞーキジコ様ー。」
「大した事なかったから心配無用よー。」
「..!?」
「そうは言っても一番倒してたのエレムスさんですよね。」
「..少し張り切り過ぎたな。」
「いいっすよ、体力温存出来たっすから。」
「ご助力感謝します。」
「...あ..ああ..!」
「さっきまで雑魚とか言ってた仲間がいなくなったらこれですか。キジコ様、放っておいたらドゥーカルンの住民が危険っすからやっちゃっていいっすよ。」
「りょーかい。」
「う、うわああああ!!」
サーグが出口に向かって走り始める。
あいつの反応から見るに、どうやら最悪の場合戦闘員を囮にして逃げるつもりだったのだろう。
しかし傷で思うように動けない。
だからトドメを指そうと....した瞬間だった。
ピカッ...!
「!?、な..なんだこの光、俺の内側から..!?」
サーグの体が光り始める。
「...!!!!」
(「逃げるのは契約術式の違反だ、サーグ。私を見た以上貴様は...消す。」)
「!?お、お待ち下さい!!どうか...どうか命だけは!!!」
(「結果はどうあれ貴様は使い切る予定だった。予定が早まった程度気にするな。じゃあな。」)
「い、いやだ!死にたくない、嫌だ、嫌だああああああああああああああ!!!」
(「神獣の資格を持つ者よ、彼を倒したせめてものプレゼントだ。組織の命令を破った者の末路を見るがいいさ!」)
するとサーグの肉体に亀裂が入り始め光が溢れ出す。
そして..爆発した。
「!?」
「なんだ!?突然爆発したぞあいつ!?」
「...どうやら何かしらの術式が刻まれていたらしい。」
「術式って確か..、魔法陣を用いた特殊な術のことでしょ?複雑なのが仕込めるってマウリ姉から聞いた。」
「ああ、そして奴は契約違反か何かで消された...と言ったところだろう。」
え...えげつない。反神獣派...マジでやばい奴らじゃねぇか。
「ともかく、これで敵は全員倒せた。早くドゥーカルンに向かおう。」
「ヴルル!」
「了解っす!」
「ならそろそろ我の案内依頼も終わりだな。この森内での護衛が約束だったからな。」
「ああ、そうだったね。ありがとう、エレムスさん。」
「礼を言うのは出てからにしろ。」
「ふふ、はーい!」
長いドゥークの森に入り約十数時間。
こうして私達はようやく日の下にたどり着くのだった。
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(エレムスかい?)
ヴァルケオから念話通信がきた。
(ああ、ヴァルケオ。もうすぐ出口だ。)
(そうか、キジコの様子はどうだい?)
(ヘトヘトだが無事だよ。中々鍛えがいのあるヤツじゃないか。)
((´ω`)やっぱり予想以上に鍛えてたんだね...。)
やっぱりと言うならきっと想定内だったのだろうな。セーフ。
(反神獣派の動きはどう?)
(ああ、先程傭兵雇って襲撃してきたよ。退けたが。)
(...よほどキジコを殺したいんだな、あいつら。)
(神獣はその100年に一度でたった1体しか現れない。
おそらくだが...神獣の資格を持った別の魔物がいて、黒幕はそいつを神獣にするために反神獣派組織を立ち上げたんじゃないかな?)
(おそらくそうだろうね。本来世界の調律、バランスを守る神獣を無意味私的な理由で殺すはずがない。間違いなく黒幕は別の神獣派の人間だ。)
だとすれば...
(問題はその魔物が何者なのかだな。)
(そこについてはまだ何もわかっていない。もし何か分かったら連絡するよ。)
(わかった。)
奴らの黒幕が神獣に格上げさせたい魔物とは一体なんだ?
世界平和が目的ならこんな争いするわけがない。
...今は情報不足だ。
今回の依頼を終えたら一度周辺各地で情報を探るか..。




