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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
帝国道中編
32/302

第30話 ドゥークの森(ルザーナ)


 キジコです。

 

 「そりゃああ!!」

 「急所からずれてるぞ!」

 「ヘイ!」


 現在ドゥークの森の出口を目指し歩む中、エレムス教官にしごかれてます。


 「...キジコ様大丈夫か..?」

 「めっちゃ必死こいてるわね。」

 「でも大丈夫どころかまだ魔力上がってるっすね。」

 「え...?」

 「...寝ている間により肉体の情報の受け入れ体制が良くなったというか、作りかえられたか...?」


 戦闘関連ではヴァルケオ以上に厳しく鬼のエレムス。

 だがその効果は非常に高く...


 「そりゃっ!!」

 シュンッ!


 「そうだ今の感覚だ!」

 「おお、なんというか..力もそんなに込めてないのに魔物をズバッと行けるというか...ビックリです!」

 「素晴らしい!あと10回!」

 「( ゜д゜)」


 教育訓練スパルタトックンで新たなスキルを得たり、ステータスがとにかく上昇した。

 レベルアップって自分より強い誰かがいた方が格段に上がるんだな。


 それから私達はエレムス教官の引率で長い道のりを歩き、ようやく...

 「お、向こうが明るくなってるっす。」

 「出口が近いからな。ここを出ればしばらくは強い魔物はいない。」

 「やっとなのね...。」

 「だがまだ距離がある、油断しないで行こう。」



 するとルザーナが、

 「ヴル、ヴルル、」

 「...?確かルザーナという名前だったか..?」

 「..ヴルル。」

 「...?」

 (...もしや..?)


ーーーーーーーーーー




 (これでいいか?ルザーナよ。)

 (はい、ありがとうございます。)


 (...まさかLKライトキッカーサラマンダーが念話を使うとは...初めてで驚いたぞ。)

 (私自身もこれには驚いてるんですよ?)

 (念話使える事言わないのか?)

 (...怖がられる可能性があって..その、自分でも少し怖くて..。)


 (それで...要件は?)

 (...嫌な気配がするんです、私は周囲認識の能力を持っています。それで先程からなのですが...この地面、何者かが歩いた跡があります。それもかなり新しいものです。)


 ...!

 (...気づいたか。スキルでかなり巧妙に隠されているが...まさかお前が真っ先に気づくとはな。)


 ...この小娘、流石は大地駆ける種族だけあって地に関する情報に気付くのが早い。先程のメテオもそうだが、あの類のスキルは並の魔物、冒険者でもあれほどの技はそう使う事はできない。

 いや、使えても反動が強くて使い物にもならない。

 だがそれを躊躇なく出せる最大威力で発動して、今も普通に歩いている。

 

 ..もしや、キジコに対する忠義だけでその境地に至ったというのか?


 クク..クハハハ!

 面白い!

 (あの...エレムスさん?)

 (ああ、失礼。ルザーナよ、お前はキジコに対しどう考えている?)


ーーーーー


 ...ご主人様と初めて会った時でした。

 その時私は弱く、群れから追い出され、ただ彷徨うだけになっていました。


 安心できる所もない、食べ物も碌にない、仲間もいない、ただ荒れても死を待つのみでした。

 仲間もいないから食料を見つけ食べても、満足感も満たされる事もない。

 得るものなく失うだけの真っ暗な道。

 

 ...そんな時、ご主人...キジコ様が現れました。

 お腹が空いて、居場所の無かった私にとってただ敵であるとしか認識できなかった私は、そのまま本能のままに襲いました。


 そして、敵わず負けました。

 傷も痛い、力も出ない、寂しい、怖い、死にたくない


 私はもう終わりかと思いました。

 しかし...


 「いや、助けてみるか。」

 「試してみるか、小治療ミニヒール!」

 「精霊水が無い環境で回復系の魔法は重要だからできれば早くレベル上げたいんだ。」

 「わ、わかりました、治療ヒール!」


 私は助けられました。消える筈の命が助けられました。

 当時キジコ様は私を回復スキルの実験台という理由で仲間にすると言っていた。

 けどキジコ様から感じたのは、傷ついた私を放って置けないという気持ちだった。

 その時はまだ念話は持っていなかった。

 けどその気持ちは頭の中に流れ込むように理解ができた。


  「リンゴ食うの!!?」

 「念力で浮かして..これ食うか?」

 「こっちも食べていいぞ。」

 

 キジコ様は私にリンゴを2つくれた。

 きっと道中ヴェアートさんと食べる分だったのだろう。

 なのにくれた。

 くれたのはたまに実っていた、ただのリンゴ。

 なんの変哲もないただのリンゴ。

 私は食べた。ただのリンゴを食べた。

 私にとっては満腹にも満たない量なのに。

 でも、満たされた。

 心が、安らぎが、とにかく満たされた。

 ポッカリ空いた穴が埋められるように。

 もう味わえないと思っていたこの気持ち。

 私は生きていいんだ。

 怖かった、寂しかった、そして..今は嬉しい。


 [補助スキル:念話を習得しました。]


 「お前、ついて来ないか?」

 「ヴル?」

 「ええ!?」


 ヴェアートさんには驚かれた。

 でも決まっている。

 この方について行きたい、この方と生きたい、この方にお慕えしたい。


 私はキジコ様のために、この救われた命で精一杯生きます。

 もし貴方のためになるならば..この命は惜しくない。


 私はとても....幸せです。

 

ーーーーーーーーーー


 (...なるほど、クク..本当にすごい忠誠心だ。ならあの技を思い切り撃てたのもある意味納得だ。)

 (今の私はご主人様のためにあります。ならあのような技を使って命を落としても惜しくありません。)

 (やめておけ、そんなことで命落とせば奴は悲しむ。ご主人を困らせるな。)

 (...!)


 この娘は...LKサラマンダーは上下関係のある魔物。

 忠誠あるボスのためなら命散らしても後悔なく感じる奴らだ。

 

 でも今は違う。


 (今のお前はお前だ。キジコのために生きるのだろう?)

 (は、はい。)


 (なら命を犠牲にしようとは考えるな。キジコはお前を大切な仲間と思っている。、これからもずっとな。)

 (...!)


 (だから、主人を悲しませるような真似はもうするな。生きてキジコを慕え。)

 (...はい!)

 (よし、[せっかくの機会]だ。メテオばかりだと負担が大きい。代わりとなる戦い方を教えてやるよ。)


ーーーーーーーーーー


 「...!キジちゃん!」

 「..何かいるね。」

 「今気づいたのか?我とルザーナはとっくに気づいてたぞ?」

 「「え!?」」


  マジか!?ルザーナもう勘づいてたと!?

  すごいじゃないか!

 「ルザーナ、私と一緒に前の方向頼めるかな?」


 (....!)


 「...はい!」

 「ふふ、いい返事だ。」


 

 「現れたぞ、神獣の資格を持つ魔物だあ!!」

 

 森の出口付近、薄暗い程度の場所の広場には40人くらいの人の姿。

 ...いや、反神獣派の戦闘員。

 一人だけ一際魔力が大きいのがいるな...隊長的な奴か。


 「俺はサーグ・サグ。かつて流浪の格闘王と呼ばれ反神獣派の用心棒をしてるものだ。」


 湿気ったビスケット食った感想みたいだな。

 

 「雇い主にお前を殺せと言われているんだ。悪いが死んでもらうぞ。」

 「そんな義理私にはないよ。用があるなら手続きが欲しいね。」

 「キジコ...いや、キジコとルザーナはあの男に集中しろ。我達は雑魚を相手しておこうから修行の成果を存分に見せてやれ。」

 

「ご主人様...私、頑張ります!」

「ああ行くよ、ルザーナ!」




「いい仲間じゃないか、キジコよ。」

「ああ、とてもいい仲間だよ。ありがとう、まさかあの子も念話が使えるなんて。」

「きっと助けてくれたお前と話したかった気持ちでもあったんじゃないか?」

「そうかもね。これからより一層楽しくなるぞ!」

「だな。ならまずは目の前の奴、ぶっ飛ばしてこい!」

「りょーかい!」

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