第290話 決戦:邪獣②
邪獣と対峙した私、ハルカ、教授。
邪獣はルザーナの体を乗っ取り侵食した事で感情というのを知る。
これに私はただただ怒りが湧き上がった。
私の大切な家族から奪い取ったソレをまるで自分の物かのように見せるその姿にただ怒りが燃えた。
無邪気、無垢、だが邪悪。
それが邪獣。
ただ絶望をもたらす。
「燈朧。」
「朧月。」
その言葉はキジコとハルカに力を解放させる。
「ご主人様達も髪が伸びましたね。ロングヘアは流行りなのですかね。」
「...その体でご主人様って言うなあっ!!!」
キジコは刀を抜き攻めかかる。
「地竜・2・竜鎧形態。」
邪獣の黒い竜鱗がキジコの刃を防ぐ。
それも左腕で。
「破邪之光力・大鎌。」
「そこから来るぐらいわかります。」
邪獣の尻尾が伸びてハルカを叩き飛ばす。
ルザーナにはない力、異形となったあの子の体。
それはキジコに怒りを湧き出させる。
「...教授!!!」
「はああっ!!!」
「っ!」
教授の攻撃は邪獣の肩に狙う。
邪獣は避けようとするが、
「余所見をしたな!どりゃあ!!」
「あぐぁっ!?」
「破邪之聖剣!」
「っ!」
邪獣は教授の勇者としての力を今も恐れている。おそらく私達が分断させられた理由の一つも自身から勇者を遠ざけるための措置だったのかもしれない。
だが失敗したようだ、わざわざ天敵を呼ぶなんて有り得ない。
キジコは体を捻り邪獣に蹴りを入れる、それを狙い教授は邪獣の体を斬った。
「...漆黒之脚撃。」
「ぐぉっ!?」
「教授..うぁっ!!」
邪獣は教授に蹴りを入れると同時に尻尾でキジコを薙ぎ払う。二人が弾かれるとハルカが炎を纏う。
「妖炎玉!!」
妖炎が邪獣に向かって飛んでゆく、
だがそこに邪獣の姿は無い。
「瞬速撃。」
「っ!?」
「ハルカ!!」
邪獣は正面からハルカを蹴る、まともに食らうも...。
「...押し返すっ!!!」
「!」
「仮にも私はアンタを倒すために造られた存在だ!!全快じゃないアンタと真正面で戦うぐらい余裕だッ!!!」
「す...すごい。」
瞬速撃で勢いのついた蹴りをまともに受けたにも関わらずハルカはなんとも無かった。
霊獣の力を覚醒させた事も大きいのだろう、母として誇らしい。
「...この気配、私と同じ?まさか私の血が流れているのですか?」
「その通りだ。お前の能力に耐性を持ち破邪と呪力の魔法も両方使えるいわば、俺以上にお前の天敵だ。」
「っ....完全に分断に失敗しましたね。」
「まだ能力までは完全に復活していないお前だ、俺に対しては直接殺したかったのだろうがとっておきは俺じゃなくてコイツだ。世界にウィルスばら撒かれる前に終わらせる。」
「そうはさせません、私は邪獣として世界に絶望を与えるただそれだけだ!」
邪獣は魔力を纏う、
「漆黒之衝撃波!!!」
自身を中心に黒いオーラが爆発、水面が弾け激しく荒れ狂う。私達は吹っ飛び邪獣はハルカを狙う。
「バルカンレーザー!!」
「どこを狙っているのですか?」
「え...ぐぁっ!?」
いつの間にか邪獣はハルカの後ろにいた。
「ハルカ!」
「ほらご主人様も背中見せちゃってますよ?」
「邪獣てめ...あがぁ!?」
「うふふ!」
「この!って、いない!?」
「親子揃って射的が下手ですね、可愛い。」
いきなりの事で私も邪獣の動きに着いて行けなかった。今の動きはなんだ!?
私の目には確かにハルカを背後から攻撃した邪獣の姿が映っていた。だが私の後ろにも邪獣が現れていた。
見間違いなんかじゃ無い、レーダーも正常、これは一体...。
「がぁっ!?」
「!?」
そう考えていた時だ、邪獣の声が聞こえた。
そして目には邪獣を斬った教授の姿。
「騙されるな!コイツは最初からここを動いていない!」
「なっ!?」
「お母さん!!」
ハルカが私の横に現れると同時に水が弾け飛ぶ。
「水!?」
「私もようやくわかってきた、さっきの爆発だよ!今いる空間は邪獣の魔力に満ちている、そこにさらに濃い魔力を放出する事で呪力で感覚麻痺を起こしていたんだ!」
「麻痺!?じゃあ私達が見た邪獣は!」
「それも呪力による幻覚、お母さんは高い呪力耐性持ってないから!」
そうか、ハルカは呪力耐性があるからすぐに対応出来たのか!教授も同様かそれ以上。
そして私は呪力耐性自体は持っていない!
「お母さん、私に合わせて。」
「!」
「連結スキル、破邪の癒光。」
「...!感覚が戻ってきた、ありがと。」
「うん、お母さん行くよ!」
デバフ解除、教授に加勢だ。
ーーーーー
「...ふぅ、なかなか倒されてくれませんね。やっぱり200年前に貴方だけでも殺すのに集中しておくべきでした。」
「過去の行いを悔いるほど感情があるとはな、そんなに新しい体を気に入っているのか?」
「勿論です、返すつもりはありません。」
バシュッ
「...乙女の顔に傷を付けるなんてひどいです、ご主人様。」
「いつになったらその口を閉じるんだ?何回斬って殴っても無事だなんて、本当に化け物だよ。」
私達は邪獣と戦い続ける、しかし進展が無い。
それどころか私達が押され始めているかもしれない。
「化け物は貴方ですよ、家族の体を平然と傷つける奴を私は家族と思えないのですが?」
「そうか。」
魔砲貫通光線・全方位。
「っ、話を聞いていました!?お前は!」
「黙れ。」
「私はルザーナが好きだし大切だよ。例え重い病気に罹ろうが四肢を失おうが異形になろうが死のうが、私は愛する、治してやる、家族でいる、ずっとな。だから奪い取ったお前を殺してルザーナを助ける、死んでしまったのならこの世の摂理に抗ってもルザーナを助ける生き返らせる幸せにしてみせる、何を言われようがルザーナが幸せに生きられるなら私はおかしくなっても良い。どんな事があっても家族だから。」
「...おかしい人。」
「おかしくて結構。だってお前のおかげでおかしくなったから。」
「そうですか。」
邪獣から魔力が溢れる。
「本当におかしい人です!どれだけ私に怒りを込めているのですか!?ルザーナを奪っただけでこうなるなんて!私とお前は大して接点は無いのに、なんて素晴らしいのでしょう!」
「...。」
魔砲、起動。
「...え?」
邪獣の腹に穴が開いていた。
私の魔砲貫通光線に貫かれたから。
「どうだ邪獣、人間を舐めたらそうなるんだぜ。」
「人間を乗っ取った癖に感情を語るな。」
「さぁ来いよ、その体気に入ってるんだろ?だったら私達を倒せるよな?私の怒りを取り込んでパワーアップしたんだよなあ?さっきから余裕ぶってるんだから負けないよなあっ!!?」
「っ....黙れッッ!!!!!」
邪獣から邪悪な魔力が一気に解放される。
「新たな力を得た私を殺す?それこそおかしい、人間風情がいい気なるな!!!」
邪獣の口調からルザーナの雰囲気が消えた。
ようやくやる気になったか?
だったらさっさとかかって来い、ぶっ潰すから。




