第288話 地上戦③
竜人国....、
「はぁ...はぁ....!」
「エリア様!一度退がってください!」
「ずっと戦うのは無茶です!ここは我々に任せてください!!」
「っ....!」
竜人国の端にあるエルタン平原。
そこは緑が広がり、魔物が嫌いな匂いを発する植物が生えてることから近隣からは旅やピクニックで訪れる人々が結構いた。
しかしそれは少し前までの話。
その平原は今...。
「....だめだ、竜騎士である私がそう簡単に引き下がる訳にはいかない。あの美しき景色が見る影も無いのだぞ!!」
木々は枯れ、
草は朽ち果て、
生命を感じさせない死んだ地の土。
そして高さが推定100mもあろう巨大な結晶。
「どうして気づけなかった...くそっ!!!」
「この結晶には高度な隠蔽の魔法で一定範囲内でなければ視認はおろか気配すら感じ取れません。我々が今発見した事自体が幸いです。」
邪獣結晶だ。
過去の記録を上回るその巨大な結晶は大きく禍々しい呪力を放っており、黒いオーラからは前兆個体と同様の複製魔物が現れる。
竜人国への数暴力侵攻はここが発生源。
ヴィオレット達からの言葉を元に調査をしていた所これを発見。
途端、エリアは魔力を解放しほぼノープランでとにかく壊そうと襲い掛かる。
現れる魔物を消し去り結晶へ攻撃する、
部下達はエリアに続き攻める。
しかし結晶は傷一つ付かなかった。
エリアは得意ではないとはいえ破邪の魔力を槍に纏わせ攻撃していた。なのに歯が立たなかった。
後続の部隊が到着してもなおエリアは自分の体力を考えず攻撃を続けている。
「グオオーーーーーッ!!!」
「っ!!」
「グオオァッ!!?」
「エリア様!」
余程必死なのか集中しているのか巨大な魔物が現れても動じず、ゴミを片付けるようにあっさり倒している。
誰かを何かを守りたい気持ちが彼女を突き動かしている、しかしこのままでは保たない。
『(よせエリア!このままだと君は!!!)』
「黙ってドラーシ、例え愚かな行動だとしても私は竜騎士として戦う!」
加えて聞く耳もない。
だが実際にこれを破壊しない限り竜人国は破滅一直線。
退けば皆の死。
進めば己の死。
例え破壊出来なくとも、自身の命をかけた事の意味は残ると考えているようだ。
...悲しむ者がいるとわかりながら。
「グルルルル....!!」
「だあああああ!!!」
「グルァ!!?」
「どうした...こんなものか!私はまだまだ戦えるぞ!!!」
「エリア様!!」
その目は今にも輝きを失いそうだった。
命を顧みぬ行動に皆からの心配の声は上がってゆくばかり。
国はすでに大規模な襲撃を受け死人が出ている。
あの場にいる怪物達もこれを壊さない限り人々を襲い続ける。
壊せるのは自分だけ。
今どうにか出来るかもしれないのは自分だけ。
壊せばこの状況を打開出来る。
この命に変えてでも、もう誰も.....
「...ぁ。」
だが、気がつけばエリアは背中から血を流していた。
途端に意識が薄れてゆく。
「隠密行動型!?エリア様ぁ!!!」
背後から気配を消して襲いかかってきた怪物にエリアは対処が出来なかった。
力が抜け地に落ちる最中、
(...本当に馬鹿だな、私って。)
ただ、その言葉だけが自身の中にあった。
ーーーーー
地上、現在のリーツ.....
「こちら翠柳、化け物は問題なく倒せてるよ。そっちはどうだいタビ?」
「(こちらも現在のところは問題ありません、旦那様。)」
住民がミッドエデルに避難し、ほぼ誰もいなくなったリーツ。そこに従者と残り町を守る男がいた。
彼は翠柳。
エデル大統領の桃花の夫であり朱斗と蒼鈴の父親だ。
キジコ達が邪獣討伐に向かい、彼はその間町の守護を担当する事になった。彼は大事な大事な嫁と息子達の宝を守ってやる、と張り切り迫り来る魔物達が現れては即座に撃墜している。
朱斗達の従者のタビも残っており、翠柳のサポートをする。
「他の町や国の状況は?」
「(獣人国と竜人国の被害が圧倒的に酷い状況です。術式札で状況を見ていますが、これははっきり言って不味いです。竜人国は最悪の場合滅ぶ危険性があります。)」
「それは本当に不味いね、[あの子達]はまだ到着していないのかい?」
「(はい、竜人国側の転移術師に移動を任せたのですが道中に大型の邪獣結晶があったらしく、座標がズレ別の場所に転移した模様です。)」
「なんだって?それは困ったね。」
「(申し訳ありません、救援対策をされているとは....。)」
「いいんだタビ、あの子達なら大丈夫さ。...おや。」
空から黒いオーラを纏った鳥の魔物がやってくる、翠柳はその手に持つ弓を構える。
「しつこいね君達、落ちてもらうよ。」
魔力を纏う矢を放つ、矢を中心に魔力が広がり爆発。魔物達は爆発と衝撃波に巻き込まれ次々と落ちては消える。その姿はどこか美しくも兵器のように恐ろしく感じる。
ザ・父親パワー。
タビは離れた位置で見ていたが...、
「流石は旦那様だ、まーた群れを一撃で仕留めた...負けてられないな。しかし心配だな、あの二人は無事に竜人国に着くだろうか?滅亡も時間の問題だ、間に合ってくれよ?」
「(タビ、そっちからも魔物の気配がするからお願いだよー。)」
「承知しました、旦那様。」
タビは術式札を構え駆ける、
「我々に今出来るのはこの町を全力で守る事くらい。ならその任務、この命に変えても遂行してみせる。」
魔物は一瞬で切り刻まれ、焼かれ、貫かれる。タビの術式札は手作り。自身の能力を惜しみなく発揮する。
ピクッ
「...お、間に合ったようだ。」
ある術式札を見つめ呟いた。
ーーーーー
それは突然の出来事。
エリアが落ちるその時、風が巻き起こる。
風はエリアを優しく浮かせ部下の元に届ける。
「エリア様!」
「なんだ一体...いやそんな事考えてる場合じゃない、早く治療を!」
瞬間、後方から何かが向かってくる。
それもとんでもない速度で。
『『魔身強化!!!』』
さらに速度を上げ彼らを通り過ぎる、
現れたのは二人。
お互い結晶に蹴りをいれ、なんと大きなヒビを入れたのだ!
「...!?」
『...ふぅ、転移で送られたのはいいけど全然違う所に飛んだから向こうの術師がおかしいと言って何か探してみれば。』
『随分おかしな物を見つけてしまったな、これを壊せばいいんだな?』
白と黒。
丸が描かれた顔隠し、和服。
気配は精霊。
そして鹿の角。
『絶対そうだ、すっごい怪しいもん。』
『ならさっさと壊すぞ、時間をかけていられない。』
「...なんだあの二人は?」
「わからない...でも、きっと味方だ。」
「味方です!エデルからの救援です!」
アマナ、ヤグルマ到着。




