第287話 地上戦② 後半
邪獣が作り出した怪物による侵攻・襲撃に遭っている竜人国。その国で暮らす元日本人の転生者ヴィオレットは現在、城に襲撃してきた怪物を拳で制し仲間を守るために動く。
「みんないるわね?」
「うん、問題ないよ。」
「早く行きますわ!」
「お嬢様、先走りは危険ですよ。」
現在私達がいるのは城の3階です。
正直いえば床に穴を開ければ早いんだけどそれはそれで色々アウトなので階段を使って降りる事にした。
しかしコレはひどい、こういうのってさーあれじゃん?瓦礫の向こうから誰かの声が聞こえて助けたり助けられたりとかする展開。または回り道を探して合流とかさ。
世の中は甘くない、誰の声もない。
聞こえるのは怯えるこの子達の声だけっすよ?
同じ部屋にいた貴族連中は瓦礫が降ってくる前に一目散に逃げましたよもう。
「ねぇセア、エイレン。私達今どの辺にいるの?」
「階段から少し離れた位置です、本来なら。」
「どうやら侵入してきた怪物はあれだけではなかったようです。あちこち瓦礫だらけで道が塞がってたり壁に穴が空いてますね。」
「兵士達は何をやってるの!?」
「お嬢様、この国を襲撃する怪物は他国の比じゃありません。しかし比じゃないにも関わらずここまで丁寧に我々を襲撃するのであれば何か理由があると思いませんか?」
「理由?」
「...中継地点があるって事?」
以前...あー転生する前です、やってたゲームの中にロボットを遠隔操作するための中継用電波発生装置を使った奴がいたんだよね。
それがあればわざわざオート操作せず手動遠隔操作で的確に相手を狙えるっていう技術だ。
「結晶がどこかにあるかもしれません。」
「結晶って...なんでしたっけフレーク。」
「はい。結晶、通称[邪獣結晶]は邪獣が復活するためにかつて暴れた地で発生させる呪力の魔力エネルギーの塊です。この結晶の呪力で発生させた怪物で他の生命から負のエネルギーを集めていました。また、その結晶が大きく呪力エネルギーが濃いほど当然その場にいる怪物も操りやすくなりますので中継地点として十分使えます。」
「でも国内にそんなもの見当たりませんでしたわよ?」
「国外でしょう、レギスの森とこの国の間にとびきり大きな結晶を発生させればこの国だけでなく周辺の国々や地域も襲えます。」
(聞いたドラーシ?エリアに伝えて!)
(オーケイ、ヴィオレット!)
ドラーシ...この世界で唯一の[竜精霊]という、竜の力を持つ精霊。ヴィオレットが今よりも小さい頃からの付き合いで親友と呼べる存在だ。
「ならこの襲撃はその結晶が破壊されれば!」
「どうでしょう、怪物が消えるか操る力が不安定になり統制なくただ暴れるか...そのどちらかでしょう。」
「だが怪物の維持という点を考えれば前者であるかもしれませんわ。」
「モミジと同じ意見ですわ!」
「ですね...さて、そろそろ先に進みますよ。今に我々に出来るのは身の安全の確保です。」
ーーーーー
「シャアーーーーーッ!!!!」
「ハイドラ・キック!!!」
「ジャアアーーーッ!!??」
私のキックが怪物を壁に叩きつける、
◯イダーキックのように蹴りたい気持ちもあったが、お嬢様服なのでそんな事したら見えてはいけないものが見えてしまうのでゼロ距離で見えないよう思い切り蹴った。
ちなみに靴はハイヒールじゃありません。
ちょっとヒール高さあるお高いブランド靴です。誕生日にセア君からもらいました。
足が痛くならない術式が刻まれてるので値段は恐ろしく高いらしいが王家の予算や懐事情からすればこの程度ハナクソみたいな値段だろうね。
まぁお陰でみんなを守れてるんだ。
本当にいい子だよセア君はぁ...。
ダメだダメだ、この世界ではセア君は私の2歳下とはいえ前世20の私にゃ.........この先を超えてはまずいな。
「今どの辺!」
「階段からの直線距離は約30m!」
「人の気配は!?」
「無いわ!真っ先に逃げた連中はもう下にいると思うわ!」
「なら!」
私は全身に魔力を収束させる。
「グオオーーーーーーーッ!!!」
「ウゲッ!?」
しかし横から怪物が襲ってくる、
「ファイアランス!!!」
「ウォータースピア!!!」
サンドラとセアが魔法で怪物を攻撃、
倒しは出来なかったが炎と水による水蒸気爆発もあって吹っ飛ばした。
「ヴィオレット今よ!」
「私の拳を前に...鋼鉄は...豆腐ッ!!!!!」
私も必殺技[ 破壊砲剛拳 ]。
その威力を前に鍛えられた鋼鉄は砕け、
空気はその圧力で見えない砲弾となりあらゆる物を破壊する。
名前の通り正に破壊砲。私の最大最強の技。
破壊砲は城の壁を貫き外まで貫通。
私の見る先には階段がある。
「降りるよ!」
「グォアーーー!!!」
「邪魔だ!!!」
「グォヴォァッ!!??」
ーーーーーーーーーー
階段を駆け降りる。
目指すは大広間、だが....。
「嘘...。」
「...遅かったか!」
大広間には怪物と戦う兵達の数々。
他の貴族達は逃げ惑う、全員助けれそうな雰囲気が無い!
「数が多すぎる...ダメなのか。」
「嫌...死にたく無い...!」
「気をしっかり、お嬢様!」
(お嬢様、ドラーシ!)
(エリア!)
(結晶を発見しました...しかし!)
(?)
(...大きすぎるのです、推定半径....60m!高さに至っては100mは確実...!!)
(なっ!?)
(なんてこった、本気で周辺を潰しに来てるよ!)
「お前ら!!」
「父上!!」
「良かった、全員生きてるな!」
エイレンとセアの父親にして国王のエノガード。
この様子から察するに助けに行こうにも行けなかったのだろう。
「まだ地下が無事だ、倉庫の隠し階段を使って逃げろ!」
「でも父上は!」
「へっ、他の国のトップは自ら出張って戦ってるんだぜ?俺もやらなきゃ恥ずかしいってやつだ!行け!」
「「父上!!」」
「フレーク、ヴィオレット!コイツらを頼んだ!」
「「はい!!」」
私とフレークは二人を引っ張って逃げる。
残念だが今私達に出来るのはそれだけだ。
死んでたまるか、ただそれだけ。




