第285話 地上戦①
キジコ達が邪獣の戦いに向かった後の、地上のお話。
「...見つけたぞ、ヴェレン。」
エルフ国のどこか、彼らは出会う。
「来たか...エルフナイトの強き者よ。退屈な俺は待っていた。」
「退屈?その割にはお前もずっと私を探していたようだが?」
その男の足元には足跡の数々、じっとしていた訳ではないようだ。
そいつの名はヴェレン。邪獣前兆の人型個体であり、エルフナイトのフィースィの死んだ弟を再現された存在である。一度は破れるも、邪獣にとって有用性があったのか復活しどこかへ去っていた。
あれからフィースィは彼を探していた。
人々を守るエルフナイトとして、
ヴェレンの兄として、この手で終わらせる為に。
「...そうだと思う。退屈な俺はお前を探していた。」
お互い戦闘体勢に入る、だが。
「聞きたい事がある。邪獣はなぜお前を復活させた?」
「わからない、我が主の事を俺はわかっていない。感覚で言うなら...従わされていると言うやつだ。」
「へぇ、どんな感じ?」
「誰かを怖がらせたい、恐ろしい目に遭わせろ...単純な意思に俺は従っているようだ。」
「はぁ?それは随分幼稚な意思だな。」
「全くだ、呆れる俺はやりたい事がわからなくなってきた。」
「戦うんだろ、忘れるなよ。」
「....それでいいんだな?」
フィースィとヴェレンは剣を抜く、
「では..........行くぞ!!!」
森の中に凄まじい金属音が響き、お互い睨み合う。
ヴェレンはフィースィを弾き魔法を発動、
「水魔法爆弾。」
「シャイニングシールド!!」
「!」
フィースィは眩しく輝く光の盾を出現させる、ヴェレンの技を防ぐと同時に目を眩ませた!
「だああああ!!!」
「ぐぁっ!?」
フィースィはそのまま駆け出しパンチで初撃をくらわせる!顔面にもろ拳を受けたヴェレンは少しよろめく。
「...初撃を取られたか。」
「[俺の身内]が使ってた戦法だ、そして俺が教えた護身技でもある。単純だがかなり効くんだ。」
「...なぜ剣を使わなかったのか謎だ、悔しい俺は反撃をさせてもらう。」
お互い剣を強く握り、風の如く森の中を走る。
「真空流風斬...!」
「!」
ヴェレンが剣を振ると突風が襲いかかる、
「なんだ...切り傷が!?」
フィースィの体にはいくつもの切り傷が風が通ると同時に発生した。
「...真空斬の上位スキルか!...風の中に木の葉よりも小さく見えない刃が混じっている、これは防ぐのも避けるのも難しいな。」
「今の俺はお前を倒せる自信がある。容赦はしない。」
ヴェレンは木を駆け上る、
そのまま姿を消した。
同時に風が吹く、それも強弱バラバラに。
どこにいるのかを掴みづらい、フィースィは耳と感覚を研ぎ澄ませるように集中する。
ザザッ
「...リーツェルソード!!!」
フィースィが剣を突き出すと、その先にはヴェレンがいたのだ。フィースィの剣に纏う魔力エネルギーが光り輝き剣先に収束、爆発したのだ!
「うぐっ!?...真空両断斬!!」
「リーツェルシールド!!!」
「!!」
フィースィの前に魔力で構成された光の剣が何本も現れる、そしてそれらはヴェレンの技を防ぐように重なる!
見えない刃は弾け消えると同時に光の刃はヴェレンに向かって飛んでいく!
「何っ、ぐあああ!?」
「...。」
ヴェレンはフィースィの技をまともにくらう。
その勢いで吹っ飛び木に叩きつけられた。
「...何が!はああああ!!!」
地面から水が噴き上がる、瞬く間に湿地帯のような景色が広がる。
「水刃界....!!!」
「!」
水の刃が地面から、霧から、色んな方向から襲いかかる。さっきの真空流風斬とは違う、勢いも威力も上がっている。
「うおおお!?」
「どうだ、これなら貴様も防げまい!!!」
「...凄いな、どれもこれもお前がいつか使いたいと練習していた技じゃないか。ダメだな、別人とわかっているのに....はああああ!!!」
「っ.....!?」
ヴェレンは動きを止めた、なぜなら...
「馬鹿な...左腕が...!?」
「お前が俺を斬るよりも、俺がお前を斬る方が早い。...その体は才能こそあったが直感と瞬発力は俺の方が上なんだ。その体の動きの癖を知っている俺にはどう来られても読めてしまう。」
一瞬にしてヴェレンの左腕を斬り飛ばしたフィースィ、その速さにヴェレンは目で捉えられなかった。
さっきもそうだ、技をすぐに見抜かれほとんどの攻撃が通じない。それどころかあっという間に追い込まれた。
わからない、何故自分の動きがわかるのか。
何故わかる、自分の行動をどうして知っている。
そうして地面に膝を付いたその時だった...、
「....!?」
地面には水溜まりの数々、映るのは....己の顔。
ヴェレンは驚いた、フィースィの顔も見た。
似ている。
その男と似ている顔。
ヴェレンはなんとなく気がついた。
「お前、この体の者と身内だったのか?」
「...そうだ、俺の死んだ弟のヴェレン。それがその体だ。」
「...お前から感じる複雑な気配はそういう事か。強さのある肉体を持つ俺の動きが読まれるのも無理はない...。」
「出来ればさっさとお前を倒したい、その体で暴れられるのはな...。」
「...ならば早くかかってくればいいだけだ!!」
ヴェレンは剣を持つと同時に魔力を刃へ収束させる。
「そうだな!!!」
フィースィも同様に、
「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」
二人は全ての力を注ぎ込むように全力で斬り合う。輝く刀身がぶつかり火花ならぬ魔力粒子を散らす。
何度血が飛んだか何度傷ついたか何度斬ったか何度防いで避けたかわからない、ただ二人は先程までの域を遥かに超える集中と力で戦っている。
白い剣士は皆の平和と己として目の前の存在を倒そうとしている。
黒い剣士は白い剣士の覚悟と意思に答え戦う。でも....
そこに彼自身の意思は、どうしてそこまで戦おうとする意思があるのかがわからなかった。
「はあああああああ!!!!!」
「!!」
白い剣士の刃が黒い剣士を斬った。
黒い剣士は斬られると同時に、迷いが生まれた。
「...この体はお前の弟の体、なのにどうして俺はお前とこんなにも戦いたかったんだ?」
「!」
「わからないんだ、俺はこの顔を見るまでこの体が『ヴェレン』という者のだとわからなかった。だがあくまで肉体の話だ、『俺』は違うだろう?俺はヴェレンじゃないのにどうしてお前と戦いたかったんだ....?」
戦いの末にヴェレンが思ったのは疑問だった。
「....お前、俺と会う前にその場をぐるぐる歩いていただろ。何かを待つのが退屈なように、暇つぶしで。」
「?...それがどうした。」
「あれはな、俺が仕事の休憩でヴェレンと会う時にヴェレン自身がよくしていた癖だ。」
「...!馬鹿な、動きの癖は肉体の...。」
「意思の癖だよ、多重人格とかそういう知識はあるか?それぞれの人格にも癖や喋り方は大きく異なるらしいぞ。」
「!」
「お前の戦闘中に見せていた細かい動きの癖もそうだ。あれら全て...ヴェレン自身の癖だ、俺が良く知るヴェレンの動きだよ。記憶...までは複製されずとも...その意思は間違いなく...、」
「もういい、そこから先は言わなくてもわかるさ...。」
フィースィの顔は赤く、涙を流していた。
「消える前に話す事がある。我が主人...いや、邪獣が人型前兆個体を作る真の理由を。」




