第282話 暗き魔女の森①
日を隠す雲、
空を走る稲妻は轟音を響かせる、
前も後ろも暗い森、
不気味な風が木々を通り抜ける、
貴方は迷いこんだ、
黒い魔女さんのお庭に。
「無事かい、ヴェア。」
「うん、大丈夫。」
気がつくとそこにはシルト、ヴェアート、そして...、
「...分断されたか。まだ想定内だ。」
フィアだ。
「分断?」
「入り口の穴、つまり別次元への入り口を使い邪獣は俺達9人をどこかへワープさせた。今誰が誰といるのかはわからない、加えてアイツらとも連絡が取れん。」
「...本当だ。シルト、念話通信がみんなに届かない!」
「...なんでわかった?」
「我も空間魔法を使えるのでな、この程度は理解出来る。」
「そうか...。」
「どうした、流石に我には警戒するか?」
「...聞かせてくれ、教授という男は勇者なのか?」
「?、そうだが..ああ、お前達は聞いていなかったな。奴は何代か前の聖勇者だ、それも前の邪獣討伐に参加をしていた...な。」
「!...聖勇者マース...!?」
「お前らにとっては実在人物であると同時におとぎ話やら昔話の題材となってた男、実際はあんな奴だ。ガッカリしたか?」
「いや...そうではないんだ。まさかグラザムが...。」
「なら、なんで今マースはこんな事を?アンタは何者なんだ?」
「...その話は後だ。」
「「!!」」
風と共に気配が通り抜ける。
視線というのか、敵意というのか。
「どうやらすでに我らは籠の中の鳥であるらしい。飛ぼうが走ろうが逃げられまい。」
「ヴェア!」
「近いわ、どこに...!」
バチッ
「ふんっ!!!」
フィアは勇者二人の前に転移し、飛んできた雷を弾いた。
ーーーーー
ヴェアート視点
それは突然の事だ、気配が離れた位置に現れた雷が飛んできた。咄嗟に動こうとしたけど間に合わなかった、
何故ならその瞬間フィアが私達を守ったからだ。
「...今のは。」
「ぼさっとするな。どうやらお出ましのようだぞ。」
森の奥からその人は現れた、
毛先の青い黒髪が揺らめき、赤い目がこちらを見つめている。
間違いない、クロマさんだ。
「クロマさん!」
「...誘導電流。」
「ヴェア!!」
「!」
間一髪アタイは後ろから来た雷を防いだ。
速い、そしてもう油断は出来ない。
「...。」
「ほう、洗脳されているのか。邪獣が何を考えてそうしたのかは知らないが、助かる見込みは十分あるようだな。」
「!、本当ですか!」
「ただし、魔力共有を使えたらな。俺は使えない。」
魔力共有...文字通り魔力を相手と共有化する方法。スキルではなくバリアと同じ純粋な魔力で行う。なんでも互いの意思が重なるかなんとかで相手の心の世界に行けると聞いた。
だが...アタイ達でもそこまでは使えない。
互いの思考の違いや恥ずかしいからとかではなく、単純に[人間]だからだ。
この情報はかなり古いのだが、魔力共有でそんな事が出来るのは相手の動作を敏感に反応出来る[獣人族]だけなのだ。
現にそれを成功させたと聞いたのは、
キジコ様、ハルカ様、そしてニコ様。
皆獣人だ。
つまり...、
「アタイ達じゃそれは出来ないね。」
「ああ...。」
「なら、真正面から戦うのみだ。」
「それは厳しいですね、クロマさんは雷と空間魔法の使い手です。楽には勝てませんよ。」
「勝つ気があるだけ良い方だろう。何より...我なら勝てる。貴様らは貴様らの出来る事をしろ、合わせてやる。」
フィアはクロマさんの後ろに転移、
尻尾で薙ぎ払いの攻撃、
しかしクロマさんも転移、
雷の槍を死角から撃つ、
それに合わせフィアも転移、
炎のブレスを使う、
しかしクロマさんも転移、
だがフィアはすでに黒さんの頭上に転移、
と、また両者転移し向かい合わせ、
クロマさんは雷の砲撃、
フィアは炎のブレスで相殺させる....。
「なんですかこのハイレベルな戦い!?」
「転移が使える者同士が戦うとこうなるのか...。」
シャッシャッと姿を現しては消えて攻撃、はっきり言って今下手に突っ込めば巻き添いくらう。
「...合わせてやる...か。はぁぁ....!」
「シルト?」
「!」
周囲の空気の流れが一瞬変わったように感じた。
すると...、
「!?」
「メガパワー・スラッシュ!!!」
なんとシルトの目の前にクロマさんが現れたのだ。
シルトの攻撃はクロマさんに命中するもギリギリでバリアを張られていた。だがあまりにも急であったためかそれ程強度は無かったらしく切り傷は無かったもののダメージが入った。
「っ、波雷撃。」
「!」
シュンッ
「なるほど、そういう戦い方があったか...。」
「良い剣筋だ、流石は勇者だ。」
魔法を受けそうになった瞬間にフィアが転移で避けさせた。なんだ今の動きは?
「なんでクロマさんはここに?」
「簡単だ、空間魔法で周囲の空間を少し歪ませた。その瞬間、周囲に転移すれば何が起こるかわからない、転移に於いて座標軸のズレはトラブルになりかねない。ならお前達の近くにそれを発生させなければそこに転移する。つまり....ただの追い込みだ。」
サラっと言ってくるがそんなのどこも簡単じゃないです。空間魔法自体難しいのに...あーもう考えるのやめ!
「ならアタイもいくよ!!」
クロマさんはまた姿を消した、多分木々を陰に何度も転移を繰り返しアタイ達を狙っているのだろう。
ならアタイは斧に魔力を込めて木々を薙ぎ払う!
「薙ぎ払え、アトラス・アックス!!!」
「っ!?」
「当たった!!」
「...!」
転移が不利になったと判断したのか、クロマさんは転移をせず雷の槍を大量に生成。アタイ達に向けて一斉に撃つ。
「こんなもの!」
「どうということはない!!」
アタイは雷の槍をかき消した、かなりの威力だったがアタイ達でもこれくらいは出来る。
「っ!」
「でやああああ!!!」
クロマさんが魔法を放った隙を狙い私は真っ直ぐ突撃、もう一度技を放つ体勢に入る。
「ギガント・アックス!!!」
「っ!」
クロマさんはバリアを張ってこそいるが、私の攻撃にバリアが持たず壊れた。その勢いで後方へ吹っ飛んだ。
「っ、落雷之柱。」
クロマさんは自身の周囲に雷の柱をいくつも形成、でも。
「グリーム・アロー!!!」
シルトが放つ光の矢がそれら全てを破壊する。
「...!」
「ヴェア、行くよ!」
シルトと共に魔力を込める、
「...邪波。」
「ぬぅああ!!!」
強大な風圧をフィアが空間魔法でかき消した。
アタイ達はその隙に駆ける!
「如何なる魔法使いでも隙を突けばこんな大きな斧でも戦う事だって出来る!」
「俺達は貴方を救ってみせる!!!」
「...。」
私達だって弱くはない、弱いままは嫌だ。
フィアのサポートもあっての今の状況とはいえ、私達だって戦える。
貴方の実力の凄まじさは知っていま........、
「...おかしい、考えてみれば全く本気じゃない!?」
気づいた時には遅かった。
すでにクロマさんは空へ飛んでいた。
「.....!!!!」
クロマさんの蒼星夜の衣が輝く。
ああそうだ、闘王闘技でもそうだった。
「今まで我らを試していたに過ぎなかったか、舐められたもんだ。」
アタイの手は震えた。
クロマさんはずっと私達の行動を分析していたのだ。
そして今こうなったという事の意味...それはアタイ達を倒せると判断したからだ。
「...引かない、アタイは引き下がらない。」
でもアタイはそう言った。
怖いのにそう言った。
だって助けたいから。
「...ヴェア。」
シルトがアタイの震える手に触れる。
「俺も同じだ、いこう。」
「...うん!」
「(ほう?これなら今再び[あれ]を見られるのかもな...。)」
アタイは勇者、クロマさんを助ける...勇ましき者だ。




