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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
邪獣動乱編
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第277話 教授-過去編⑤

 話は戻って再びその日の夜のこと


 「...静かだね。」

 「そうだね...。」


 いるはずの3人がいない夜は思ってた以上に静かで寂しいものだった。私が寂しくないようなのか、ハルカは同じ布団に入り私の手を握る。

 

 「...前世じゃこの時間帯、面白いアニメやってたな。」

 「そうだね、大抵は録画だったからリアルタイムの視聴はなかなか出来なかった。」

 「木曜深夜にやってた有名漫画のアニメ、意外にも部長も見てたっけな。あれ、課長だっけ?」

 「二人ともだよ。」

 「そうだったか、あはは。」


 寒い冬、虫の音色一つ聞こえないうちには私と娘の小さな笑い声。なんだ、十分うるさいじゃないか。


 「...次この家で寝る時はもっとうるさくなるね。」

 「うん、寝不足になりそうだ。」


 こんな部屋は今夜限りだ。

 絶対に助けてやるさ。


 

 しかし二人は知らない、ルザーナ達の自立心がさらに成長している事に.......。


ーーーーーーーーーー


 邪獣と戦い1ヶ月経った頃だろうか、

 俺達は邪獣に勝った。


 だが...倒しきる事が出来なかった。


 邪獣は絶命寸前、自身を停止させた。

 生存本能の言うものなのか、その身に数えきれない程の封印を施し生命どころか存在そのものを止めたのだ。


 俺達はこれを壊そうとした、何度も。

 だが失敗に終わった、その時の俺達ではどうにも出来なかった。

 

 これは勝ちでも負けでもない。


 逃げられた。


 しばらくした頃、精霊神と言う存在が現れた。

 精霊神はレギスの森の奥深くに別の次元を作りその中に邪獣を封印したのだ。


 持って何百年か、それはわからないがこの世界はほんの少しだけ安息を得たと信じた。


 だがそれで終わらなかった。

 邪獣ウィルスそのものはそれから50年程残り続け人々を苦しめたのだ。


 各国はウィルス対策のため町に結界を張ったり、破邪の魔力エネルギーを定期的に広めたりとしていたが、それが効果あったのか、邪獣が封じられたからか、ウィルス感染者は次第にいなくなった。



 邪獣を倒すため組んでいた仲間と別れた後、俺はとある山奥で静かに暮らしてた。しばらく騒がしい旅をしていたからか、静かな暮らしを求めていたのかも知れない。


 一応町と町の間にある山に住所登録したためか、ちゃんと郵便が来る。

 世間の事は新聞で大体知った。


 数年経ったある時、近所の地域でドラゴンの群れの大移動が確認された。邪獣が封じられた後も邪獣の影響で変わった生態系が少なくはなかった。


 そのドラゴンもそうだ、元はある地域で暮らしていたそうだが邪獣の出現で数年に一回大移動するようになった。


 新聞によると3群ほどいるらしく、今日辺りにはもう2群も大移動をするだろうと書いてあった。


 ...たまにはこういうのも見に行ってみるかなと、

 俺は森から出てそのスポットに行った。

 

 3時間経った時、予報通り大移動が見えた。

 思った以上に壮大なものだった、なぜかは知らないがそれなりに低空で飛んでいたせいか風圧が凄かった。

 4Dアトラクションで衝撃受けた記憶が霞む程に。


 そんな風に残りの人生は気ままに暮らそうと思ってた。この時までは。


ーーーーー


 その後の帰り道、

 山に向かうと妙な気配が2つ。


 そこにいたのは盗賊らしき男達。


 「上手くいったな!」

 「ああ、グランドドラゴンの子供は高く売れるぜ。」


 この時俺に嫌な予感が走る。

 さっきのドラゴンの群れは大移動ではなく攫われた子を探していたのではと。


 群れの引っ越しにしては低空過ぎると思った、だとしたらドラゴンの群れは...!


 俺は焦りその場にいた盗賊を潰した。

 

 そこにいたドラゴンの子は怪我をしていたのでひとまず治療を施す。


 「大丈夫か!?立てるか?」

 「グァ...?」

 「広いところに行こう、お前の母ちゃん達が探しているはずだ。」

 「グァ...!」


 怪我を治したためか馬鹿なのか、ドラゴンの子は俺をすぐに信用し付いてきた。幸いさっきの町とはそう遠く離れていないのですぐに町に出る事が出来た。


 だが...遅かった。


 「逃げろー!!」

 「キャー!!」


 ドラゴンの群れは町に降り立ち暴れ始めていた。


 「なんてこった....まずい!」

 「グァ、グェー!!」


 子ドラゴンは飛び立ち群れに向かって鳴くが群れは怒り状態で聞こえていない。これは一度大人しくさせる必要があるな。


 だがまだ町には人が残っている、下手に暴れる事は出来ない。


 グランドドラゴンは決して油断出来ない程度には強い、手加減を間違えればこっちがやられるのがオチだ。


 幸い警兵達が無理にドラゴンに挑まず住民の避難に回っている、鎮めるなら今だ。


 「グオオオオオッ!!!」

 「っ!?」


 その時だった、一際強い咆哮と他の大人の個体よりも一回り大きく黒みがかった青い鱗。


 あれは群れの長だ、


 長は俺を睨んでいる、俺についた子ドラゴンの匂いに反応しているのか!


 さらにまずくなった、長の個体は倍近く強い。

 もう隠居した身なのにいきなりこれはきつい。


 一応邪獣倒せる程には鍛えた肉体だが隠居してしばらく経つので多少は弱くなってしまっただろう。だが仮にもそれだけ鍛えたんだ、剣を持たずとも戦えは出来る。


 

 それから数分経った辺りだ、長ドラゴンを気絶させた。町の被害を考えなかったらもっと早く倒せただろう。


 流石に群れだ、長がやられれば....な!?


 ドラゴン達は再び暴れ始めた、

 よく見ると空には長と似た個体がいた。


 それは群れのナンバー2、副長的な存在。

 長に何かあった時や万が一に備えての代理指示役、もしくはそういった時のために次世代に長の席を渡す体制がすでに整っていたのか。


 なんにせよこれだけの数をいっぺんに相手するのは難しい、何か手は...。


 「私が力を貸すよ。」

 

 それはうるさいほどに聞いた声。

 師匠ほどうるさくはない声。

 

 アイシャ、魔勇者アイシャだ。


 「なんでお前...!?」

 「話はあと!さっさとドラゴン抑えるよ!」


ーーーーーーーーーー


 1時間経った頃、俺とアイシャはドラゴンを群れごと鎮圧する事に成功した。


 子ドラゴンは長の元へは飛び立ち何かを言っているようだった。きっと自分は無事で俺達は敵じゃないと言っているのだろう。


 ひとまず瓦礫に腰をかけた。


 「アイシャ、お前どうしてここにいる?」

 「どうしてって....。」


 「...故郷が燃やされてさ。」

 「....!!?」

 「村にいたんだ、邪獣ウィルスの感染者が。だから国の役人達が次々火を放ってみんな...。」

 「...。」

 「ああでも、この子達は無事だったんだよ。」

 「ん?」


 アイシャは魔人族の女の子二人を連れてきた。


 「私の妹達。私は大型魔物の討伐仕事からの帰りだったから...これが精一杯だった。」

 「...辛いならそれ以上言わなくてもいいさ。知り合いが無事で良かったよ。」

 「...ありがと。だから...。」

 「俺の家に住んでいいぞ。無駄に空き部屋作って正解だった。」

 

 「グァ!」

 「んお!?」


 後ろから突然さっきの子ドラゴン。

 

 「お前...最後に挨拶か?」

 「...違う。」

 「え?」

 「カラ、どうしたの?」

 「言ってる、そのドラゴン。“その人についていく”って、長に話はつけたって。」

 「...何かのスキルか?」


 ドラゴン達は俺を見て頭を下げた後どこかへ飛んで行った。


 「どうして...。」

 「“なんとなく”...だって。」

 「おいおい、そんな理由でいいのか?」

 「おいおい、なんの連絡も無くここらに隠居した勇者様が何を言うか?」

 「アイシャ...。」


 この日、俺の周りはまた騒がしくなった。

 

ーーーーー


 「写真?」

 「うん、教授の部屋にあった。写ってた女の子は二人の子供じゃないと思う。」

 「どうしてだ?」

 「親子にしては顔が違った、多分その魔人族の女性の妹さんだと思う。」

 「教授...なんだかんだ楽しそうな時はあったんだな。」


 寝る前に少し話をするキジコとハルカ。


 「でも...教授はそれからなぜ今のようになったんだろ。そこがまだわからない。」

 「...その辺は今考えても無駄かもね。考えるだけ眠たく...。」

 「そうだね。」


 彼に一体何があって今に至るのかは知らない。

 私達が今できる事...それはゆっくり眠る事だ。

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