第275話 霊獣ハルカ
邪獣に対抗するため現れた教授。その手段の一つとしてハルカに眠る霊獣の力を解放する、シンプルに言えば仲間の強化だ。
「やり方は簡単だ。ハルカとキジコ、魔力共有の状態で戦え。強引だが霊獣の血を目覚めさせるには手っ取り早い。」
「そんなのでいいのか?」
「ああ、共有する魔力が高出力になればどういうわけか精神世界を見ることが出来るらしいじゃないか。だが仮にもお前らはほぼ同一人物だ、[下手を打てば強い方の精神に飲み込まれ統合されてしまうかもな]。」
「「はぁ!?ふざけんじゃねぇ!!」」
「お?もう息を揃え始めたか、熱心でいいねぇ。」
「「やかましい!!」」
魔力共有は互いの意思が合うと精神世界?...と言うか心の中と言うかそんな所に突入する事が出来る。
おそらく受け取る魔力に乗って見える相手の心の中なんだと思う。
つまりそこに突入する必要があるのだが...なぜ戦う?
「なんで戦うんだ?」
「なるべく互いの意思を同調させる必要があるんだ。ただ互いを見つめあって進化しましたなんて美味しい話はねぇ。」
「同調...おい待てそれって。」
「ああ、加減を間違えれば...下手を打てば。」
「それがそこに繋がるんかい!結局危ないじゃん!」
「当たり前だ、今からする事はある意味鏡を殴るような行為だ。必死になれば当然効果を期待出来るが危険も大きい。ハイリスクハイリターンは博打の基本だろ。」
「結局博打かよ!!
「教授、他に方法はないのか?」
「さぁな、俺が言ったのはあくまで手取り早い方法だからな。」
ぐぬぬぬぬぬ....しかしもう悠長にしている訳にもいかない、本当はもっと安全な方法があったりかもしれないが思いつかん。ニコとなら特に問題は無かったが相手はハルカ。教授の言ったような事態が他の案にも存在するかもしれない。
「あーもう、わかったよ。その話に乗ってやるよ。」
「決まりだな。」
「念のため私がもしもの時に補助に入る。だから心配はしなくても良いぞ!」
「...お母さん。」
「うん、さっさと準備するか。」
ーーーーー
邪獣との争いで荒れた街道、
そこに立つのは二人の猫。
「燈朧...。」
「魔身強化最大、破邪之光力、滅光之影力...。」
より効果を高められるのかはわからないが互いにおでこ当てて魔力共有を始める。
それは共有というよりもまるで補給。
想像していた以上に私にそっくりなその魔力、なんと言うか...具が違うだけの同じスープを混ぜた様に細部は違うが基本は同じ。
気を抜けば絶対何かやらかす...それは確実だ。
「っ!!」
ハルカはその小さな身を活かし一気に私の懐に入る。霊獣モードによる身長差が裏目に出てしまった。
その上にすばしっこくて的が小さい、魔砲は不向きだ。
「ならば膝蹴り!!」
「ぐっ!」
肉弾戦が有効だ。
どこまで通じるか...!
「ふんっ!」
「うおっ!?見た目に合わない威力だな!」
「仮にも邪獣対抗兵器でありお母さんの娘だよ私。」
ハルカは距離を取ろうとしない、小回りの効くその体で猛攻に徹している。一度蹴ればすでに真後ろへ回り込み間接を攻める、体がふらつけば思い切り引っ張り倒す。
追撃をくらう寸前に転がりハルカの腕を掴みそのまま投げ飛ばした、この隙に体勢を整える。
レーダー起動...砂埃に紛れすでに身を隠している、次は...ここだっ!!
「やっほ。」
「!?」
腕にぶら下がるハルカ。
そのまま体を捻り私に蹴りを与えた。
「がぁっ!?」
「お母さん、手を抜かないで。」
「...!」
幻影回避、瞬速撃、
「疾風脚!!」
「ぐっ!!疾風脚!!」
ハルカは疾風脚で受け身を取る、
「その程度じゃダメだお母さん!!」
「っ、レーダー...フル稼働!!」
「凄いなあの二人。キジコはハルカに叱られながら出力上げてるとはいえお互いの魔力は既に予想を超えている。やはり遺伝子レベルでほぼ同じ者同士の魔力を混ぜるのは危険だな。」
「例で言うなら親子同士でそう言うのはあるの?」
「大昔の記録には、母親に魔力の勉強を教わっていた娘がそれを試した結果、魔力才能のある娘が母親の魔力を侵食し母親の精神が破壊されたとかなんとか....。」
「お前本当に碌でもない事提案したな。」
「リターンが大きいだけ良い方だ。ハイリスクローリターンな仕事したいか?」
「嫌だね。」
「そう言う事だ、危険だがやる価値があるんだよこれは。」
「「猫...パンチッ!!!」」
グラッ
「...!?」
「っ...今...何...!?」
「どうした!」
「今...私が目の前にいた様な...?」
「視覚共有か?」
「いや、私もお母さんと同じような...。」
「...まずいな、意識の一体化が始まっている。このままだと危険だ、今回は中止だ。」
教授が言うからにはこれは相当危険な状態なのだろう。
...だが。
「...でやあああああ!!!」
「待て、お前ら!!!」
「ストップ、ストップ!!」
教授とニコの静止を無視し続行、
ハルカと拳をぶつけるたびに意識が揺らぎ互いの行動が読める様になってきた。速度を上げ始めると全く同時にハルカが速度を上げる、
「「っ!?」」
左脚に蹴りを入れると自分の左脚も痛くなった、呼吸も心拍も揃ってきた。
「「頼んだ、ニコ。」」
「なんだなんだこの魔力は、どこまで膨らませる気だ?」
「なんで今言うんだ馬鹿!」
ニコが神獣モード、神獣輝力を解放。
「戻ってこい!!!!」
ニコは二人の頭を鷲掴みにしてはっ倒す。
そのまま自分の魔力を送り込んだ。
ーーーーー
「...!!」
「起きた?」
「あ、ああ。」
目が覚めるとそこは魔力共有により見える心の世界。ニコの魔力で純度が薄まった事で突入出来たのだろうか?
「...ハルカの世界か?」
「そうだよ、ったく心配かけないでよね。」
「ごめんごめん...あれ、ハルカは?」
「あそこ。」
ニコが見る方向にはハルカの姿、
そこには青白い...私?
「...。」
「なんだあれは?」
「ハルカの中に眠る霊獣の力。ハルカが向き合わなければならない力...だと思う。」
「だと思うって...。」
[私はなぜ力を求める?]
「私はみんなを守りたいから。」
[私は誰を助けたい?]
「誰でもいい、私が決める。」
[私はどうなる?]
「知らない、その時はその時だ。」
[そんな理由でこの力を経た未来が怖くないのか?]
「未来は誰だって怖いものだ。だから平気。」
[人は大きな力を恐れるぞ。]
「桃花様の年齢聞くよりずっと楽でマシだ。」
「「うんうん。」」
[私は...これで良いのだな?]
「当然だ、それが私だ。」
ハルカが光に包まれる。
「...どうやら上手く言ったみたいだな。早く帰ろう。」
「そうだな。」
ーーーーーーーーーー
「ん?んんーーー....よく寝た。」
「おはよー...ふぁああ。」
「お前ら精神世界から帰ったついでに寝るなんて図太いな。ほら見ろ、成功したみたいだぜ。」
「「!!」」
「...おはよお母さん、ニコ。」
長く伸びたサラサラの雉柄の髪、
ゆらめく二本の尻尾、
110cmちょっとの身長は145cm程に、
まだちょっと無機質でにこやかなその顔は、
その姿は、
「...こりゃ私以上の美人に成長していくな。」
「だろうね、羨ましいよ。」
霊獣ハルカ、爆誕...てね!
服は全部人工魔法具なので、魔力変形でいくらでもサイズ変えられます。




