第274話 襲撃後
「...現在の状況をまとめよう。」
・禁足地にあったのは邪獣のエネルギータンク
・発見に合わせ邪獣が復活
・邪獣はいつからかルザーナに乗り移っていた
・邪獣は近くにいたクロマとスアを呪力で手駒に
・その後三人はどこかへ消えた。
「...ごめんなさい。」
「桃花様が悪いんじゃないよ、...向こうが上手だっただけさ。」
「邪獣は想像以上に賢かった、それは元からなのか長く生きる内に身につけたのかはわからない、一つ言えるのは...アイツらは人質になったとも言える。情けを掛け難い強さだが下手に殺す事も出来ない。今度の奴は死人でもなんでも無い、生きているからな。」
「...。」
あれから翌日...
私は家族を3人持って行かれた。
それは私達にとって最悪の状況であり、私にとって何よりも恐れていた事だ。愛する家族を奪われたという抑えても湧き上がる怒りが。
私とハルカは重い溜め息を吐く。
顔を下げず、瞳孔を開けたまま。
皆悔しい気持ちでいっぱいだ、サンドバッグ100万回壊しても抑えきれない怒りと悔しさが内側に渦巻いている。
「...ちょっと外に行ってくるよ。」
「私も。」
ーーーーーーーーーー
「...。」
誰もいない町。
住民は皆ミッドエデルに避難した、葬式以上に静かな町。
「...邪獣はどこに行ったのかな。」
「意外と冷静な声だねお母さん。聞いても即突撃する訳でもなさそうだ。」
「当たり前だ、あの子達は死んだ訳じゃない。そんな状況で下手な行動取るほど馬鹿じゃないのはハルカが一番知っているだろ?」
「自分って言いなよ、私はほぼ同一人物であって細部は違うよ。...でもどこに行ったのかは本当にわからないね。レギスの森にも禁足地にもいない、どこに身を潜めているのかわかんないや。」
「だな。」
邪獣が復活したっていうのに風は生暖かく空は晴れている。悔しい雨が降る気配が一切ない。
これほど晴れが嫌な日は無いな...いや、どの天気でも一緒だっただろう。
あームカムカする、なんとかしたい状況で何も出来ないって。胃に穴空きそうだ。
「...ねぇお母さん、私がいない時のあの子達ってさ、どんな感じだったの?」
「そうだな、ルザーナはとにかく努力家!純粋な一面が可愛くて仕方がなかった!嫉妬しやすい一面も好き。ちょっと目を話せば鱗を纏って迫り来る敵を蹴ってぶっ飛ばし青い炎で焼き尽くす、スタイルが良いだけあってその姿は美しいよ。私生活ではより可愛い一面があるんだよ?寝癖直し忘れたり、変な所でつまづいたり、たまに夜が怖いからって私を抱き枕にしたりと...なんだかんだ一番歳下だけにそんな子だよ。」
(年齢 ルザーナ<クロマ<私(前世)<スア)
クロマは真面目な優等生、私の横で色々支えてくれるとっても良い子!私のことをいつも師匠って呼ぶ弟子っ子で、頭が良いから難しい仕事でもきっちりこなす頼れる子だ。私はこの世界の言語や知識はまだまだ知らない事が多いからクロマにその辺頼ったりする事があるんだ。私は念話翻訳のために最低限エルフ語と竜人語は学んでいるけど、あの子はどちらもペラペラに話せる。最近は転移の出来る場所を増やそうと旅を考えてたりするけど、ルザーナが自分で走りたい、ご主人様を乗せたいからと計画は難航しているらしい。たまに変な事になるけど気にしてはいけない、うん。
(例 風呂の時とか)
スアはたまにツンツンしてるけど本当に優しい子!自然に関する知識はクロマよりも上、それを活かし薬草の育成・研究をしている精霊さん。森の中のアリ1匹見つける事も容易く出来ちゃう子でさ、森に行く時に一緒にいれば絶対迷わないし家に帰れる。時々夕飯の材料に薬草のお試し・治験的な事をして来るけど今まで不味いものは一度も無かった、実験と言い張るけど私達の健康を気遣っての行動だ。抱きつくとすっごい嫌がるような言葉を出す癖に満更でもなさそうなのがすっごく可愛い。
私があの子達の元から何度か長く離れた事があったけど、その度に成長して私を驚かしてくれる。そんな素晴らしい子達さ。」
「そっか...本当に凄いね、3人とも。聞くたびに安心するよ、私の知ってるあの子達は今とは全然違う。クロマとスアは出会ったばかりの頃だったから最初家に行く時は怖かった、私なんかがあの子達にあって良いのか、私がお母さんの娘と言える存在である事を言って良いのか。結局素直に明かしたけど...あの子達は迎えてくれた、それどころか[おかえり]と言ってくれた。...頭が上がらないよ、もう。」
ハルカは顔を隠すように髪をクシャクシャとする。
その時見えた眼は涙を浮かべていた。
私達はただ悔しくて仕方がない。
弱音は吐きたくない、
それでも抑えきれない気持ちが湧き上がって来る。
本当に忙しい世界だ、
何回嫌な気持ちになれば良いのやら。
いい加減こんな展開飽きて来た。
私はただ家族とこの世界でゆっくり過ごし生きていたいだけなんだ、なのに今度は私の大切な家族を掻っ攫って行きやがった。
何回頭抱えさせる気だ、この前...親友を取り戻したばかりだって言うのに。
(家の改修完了は12月23日...今は13月4日)
(ハルカと出会い今はまだ12日目なのだ)
「なぁハルカ、ハルカがウチに来てから12日経ったけど...正直どう?」
「楽しいさ。と言うかまだ12日しか経ってないんだね。」
「ハリウッド映画だって濃密な内容なのに3日も経ってませんなんて事もあるんだ、通りで毎日ぐっすり寝れるわけだ。」
「あっはは!」
「邪獣の事について色々調べて行こう。確実にあの子達を取り戻すために。」
「うん!もう失敗は出来ない。」
「ならばこのキジコ一番の親友にして今世の神獣、今は獣人国の主でありながら親友が本当に困っている時に駆けつける!今こそ私の協力が必要な時だな!」
いつの間にか私達の後ろに現れたニコ。
「ああそうだ、来てくれてありがとう。」
「おっと、私だけじゃないさ。」
「お?」
突然気配が一つ増えた...完全に気配を消していたようだ。
「...よぉ。」
「お前は!?」
「...そっちから出向くなんて余程の事態なんだね、教授。」
現れたのは初老の男...教授と呼ばれる男。
「...久しぶりだな、キジコ。」
「お久しぶりです。...あれ、前見た時よりもなんか落ち着いてるような。」
「お母さんそれはただ魔法具で性格変えてただけだよ。」
「....。」
教授目を逸らしてる、ちょっと恥ずかしいんだ!?
「邪獣が今どこにいるかわからない、いや...どこにもいないと言った方が正しいか。」
「!」
「おそらくどこかに別次元空間に逃げてる可能性がある、心当たりがあるんじゃないのか?」
「...禁足地か!」
「正確にゃそのさらに奥、お前らがあの不安定なエネルギーを認識した事で新しく作られたと言ったところか。」
「!...なぜ知っている。」
「それは後にしろ。ひとまず今やるべき事を言う。ハルカ、お前は霊獣の力を覚醒させろ。」




