第272話 甘い白黒
青く美しい姿が恐ろしい黒い体に染まった。
綺麗な金色の目が血のように赤くなる。
その体には黒く鱗、赤い血筋が浮き上がる。
蒼く黒い炎がその身に纏い熱波が広がる。
桃花は睨む。
朱斗は構える。
蒼鈴は覚悟を決める。
ソレはルザーナだった存在。
全身が操り人形のように震え動き不安定。
言葉は発さない、その口からは唸り呻く声が底なしの闇から溢れ出すように漏れている。
ソレは災厄の存在。
古より災いをもたらし命を刈り取る。
ソレは絶望。
刈られた命は天に還らず、闇に囚われ呻くのみ。
「かかってこい....邪獣。」
ソレは邪獣...大昔に現れた災厄そのもの。
その姿は災いにして器、死の風は器を定め刈り取った命を注ぎ込む。命満たされた災厄、終焉をもたらす。
[邪獣...ハイドラ2]
「っ。」
黒い鱗に覆われた拳が桃花に向かう。
「ふんっ!!」
邪獣不安定な動きの隙を突き、腹部目掛けて猫パンチを決める。
「鎖術・四肢縛り。」
「轟天・猫パンチ!!!!」
蒼鈴は吹っ飛んだ邪獣を鎖で縛り、朱斗に向けて投げる。朱斗はそこに力を込めた一撃を与えた。
「どうだ、骨は砕いた感覚はあったぜ...。」
「...まぁ上手くいかないのは当然か。」
邪獣は立ち上がる、何事も無いかのように。
骨が砕けた部位はなんの問題もなく動いている、血も流れていない。
「邪獣にエネルギーが渦巻いとる、それで回復しとるみたい。」
「ちっ、破邪の力無しじゃ本当に手も足も出ないな....。」
「纏って攻撃して今のだがな。ケチって戦う時点で負け確定かもな。」
「母上、住民の避難は?」
「タビ中心で頑張っとる。この辺はもう大丈夫よ。」
「なら...事がややこしくなる前に決める。」
「玲瓏。」
「暁闇。」
「残夢。」
神獣の血の力を解放した。
「!」
邪獣の様子が変わる。
腕をグーパーグーパー、人形のような不安定な挙動が無くなった。
新たな器に慣れ始めているのだ。
「母上。」
朱斗は空間収納から三本の太刀を取り出した。
「そういえば...この刀、キジコちゃんに少し貸したそうやな。」
「ああ、空間収納の特訓には都合が良くてな。」
「おかげでとんでもない速度で高性能収納庫が完成だ。」
「酷い扱い方するわねぇ、これを取り出すのは...。」
三人は抜刀、
「神獣の力をもって対象を滅殺する証。それは神獣の力を使わなければならない最悪の事態。私達はこの力をもって邪獣...災厄を討つ。」
鞘から抜かれ現れるのは鈍く光る刀身、邪獣は本能的に構える。コイツらは強い、器が感じ取り震える。
「はあああ!!!」
神速の如くの一閃、邪獣は咄嗟に防御をするも後ろへ大きく吹っ飛び結界の壁に衝突する。
器が震える、今の一撃で勝てないと判断している。
まだ力が足りない、まだ死ねない。
ならばどうする、
...自分は何者だ。
「...蒼黒炎脚。」
「っ!?」
蒼鈴はその一撃を全力で避けた。
「これは...!?」
「蒼鈴!!」
「...!」
すでに拳が迫っていた。
「流転斬り!!!」
「っ!」
蒼鈴は身を回転させ反撃、
しかし邪獣はそれを読んでいたかのように躱した。
「おいおい...もう身のこなしが良くなってやがる、今のを避けるとは流石だな。」
「...覚えているのかしら。今のは[お母様]が得意としてた技でそれを受けた記憶を思い出したのだわ。」
「ウゲぇ、お祖母様の技は強いのに通じないのは嫌だな。」
「別に細かい動きは違うわ、少なくともあんた達はお母様よりは綺麗に動いてるわ。」
邪獣は探るような目をしている、次は何が来るか、この器で避けられるか、己の記憶にあるものなのか。
「朱斗、蒼鈴!!!」
「「はい!!!」」
それぞれ違う構えで三人同時に邪獣へ攻めた。
邪獣は考える、
あの刃の大きさでは連携は取りづらいはずだと。
全体に魔力の壁を作る、だが器が震えた。
それは間違っている。
「そこだ!!」
三人の中で朱斗が最も早く斬りにかかってきた。
バリアを張る事を読んでいたのか、斬ると言うより打ち上げる構えだった。体の動きが追いつかない、邪獣はそのまま宙へ飛ばされた。
蒼鈴が上にいた、下で桃花が構えていた。
蒼鈴は朱斗が打ち上げた邪獣を地面に打ち返す。そして地面に衝突する瞬間に桃花は斬ったのだ。
気づけば結界が広がっていた。
理解した、これだけ広いなら、あの三人ならこの程度の連携は容易いと。
単純な連携であるにも関わらず判断を間違えてしまった。
「...母上。」
「抵抗しているんだわ、ルザーナちゃんはまだいる...あそこにまだいるわ。」
三人は気づいていた。
今の邪獣の動きや細かな仕草やクセ、それがルザーナと一致している事に。
邪獣はルザーナを乗っ取りきれていないだと思った。
「探りながら戦った甲斐があったわ。朱斗、蒼鈴!」
三人が全力で戦えばこの器はとっくに壊れていた。
邪獣は理解した。
コイツらは甘いと。




