第270話 邪獣は
「...私達さ、師匠といたいけど...そろそろ自立、あの家から出るべきなんじゃないかな。」
「『...!』」
ある日、それは突然の話だった。
「...同じ事、考えていたのね。」
『いずれ、遅かれ早かれ決めていた事のなの。』
「うん...師匠にはもう娘さんがいる。師匠には師匠の家庭があるべきだなって思うのやっぱり。」
「ご主人様と居たい気持ちはあるけど...私達もいつまでもご主人様に甘える訳にはいかないよね...。」
『私達はいつまでも子供じゃない、だから今こうやって働いているの。主が死んでも頑張って生きていた、主のお陰で歩む事が出来た人生を精一杯生きている。ずっと甘えるのは自分の人生じゃないの。』
「そう...師匠と別れる訳じゃないけど私達はもう子供なんかじゃない。だからいずれはちゃんと自立をしなきゃいけない、今がその時なんじゃないかなって。」
彼女達は決めていた。
己が主人の元から巣立とうと。
主人と別れる訳ではない。
ただ、ずっと甘える訳にはいかないと。
「だから私達はもっとお金を貯めて行こうと思うの。己が家、生活を持つために。...せめてこの町に建てましょ?いきなりさよならしたら師匠とハルカちゃん大泣きしますからね。」
「ふふっ、間違いありません。」
『だったら今向こうで頑張ってる主に負けないよう私達も頑張るの。』
「ええ、ご主人様をまた驚かせましょう!成長した私達を見せます!」
ある意味キジコとハルカは不幸だろう。
己が可愛がってる家族が知らぬ間に立派に成長してゆくその姿を見れぬのだから。
彼女達の目に迷いはない、決意をした目である。
きっとキジコとハルカがこの光景を見たらそれだけで泣くだろう......。
「家が建ったらまずは私の家に来てもらいましょう。」
「いーえそこはまず私からです。」
『いや私からなの。』
フォンッ
「(ルザーナ、クロマ、スアはいますか?)」
「「『!!』」」
「(急いで重要会議室に来てもらえるかしら?)」
それは桃花の声。
だが妙に焦るような雰囲気を三人は感じ取っていた。
「...急ぐわよ。」
ーーーーー
花は舞い、
霧は吹き荒れ、
黒いその手は襲いくる。
「はぁ...はぁ、やられたね。邪獣は誰かがここに来る事くらい読んでいた。私達とこいつら戦わせて少しでも負のエネルギーとやらを集める腹らしい。」
「加えて帰す気も無いね、少なくともここに来るやつは国にとって信用出来る強者であるのは当然、閉じ込め手駒と戦わせれば外の戦力は削れこっちでは負のエネルギーを集めれる。さらにその戦力低下による痛い状況となり外の人間は困ってより負のエネルギーを集めやすくなる。一石二鳥どころか三鳥になりかねないよこれ。」
「そいつは嫌な鳥だな。」
霧が晴れない。
つまり...閉じ込められた。
「...観ていたんだ。」
「テューニ?」
「邪獣はおそらく観ていたんだ、今までの僕らの行動を。じゃなきゃここまで細かい行動は....、」
「半分当たってる、テュー兄。」
「ハルカ?」
「邪獣は確かに私達を観ていた...でも直接観た訳じゃ無い。思い出して、邪獣は負のエネルギーを集めるために何をした?」
「何って...前兆個体を.....ぁ!!」
「そう、前兆個体は負のエネルギーを集めるだけじゃ無い。私達の戦闘データを同時に集めていたんだ。」
「なるほど、通りでリアルタイムで嫌なところ突いてくる訳だ。前兆個体を人型に踏み込んだのも納得がいく。」
「一方俺達はその理由が分からず情報集めにいつしかここへ来る奴らを閉じ込める...邪獣ってのは本当に獣なのか?賢すぎる。」
「ダメだなぁ、完全に動き読まれてる。」
おそらく今の戦闘もデータが本体に送られているだろう。まずい、ここに来て一気に不利になった。
無事でいてくれ、みんな....!
「キジコ!」
「っ!!」
「しゃがんで!業炎玉!!!」
黒いオーラ個体は消えてゆく。
しかしまた湧いてくる。
「ええい、ペネトレーザ・レイン!!!」
「私も、ペネトレーザ・レイン!!!」
オーラ個体をとにかく単純な技で減らしてゆく。
囲んで襲ってきてるというより不規則に色んな方向から襲いかかってくる。
「ヴァルケオ、外のイグニールさんと連絡は!」
「ダメだ繋がらん!」
「っ!」
「...出来るのは2つ、1つはこのまま戦う、もう一つは...。」
「邪獣の封印地へ向かう...だな?」
「...行こう。邪獣が眠る場所へ。」
「みんな、場所はわかるな?」
皆は頷き魔力を込める。
「道を開けやがれ、お客様のご登場じゃあああああああ!!!!」
ーーーーーーーーーー
リーツ...
「桃花様!」
「来たわね、これよ。」
それは一冊の本。
「これって、エルフ国で貰いました本ですよね。」
「ええ。」
「みんな、これね...解読出来たわ。」
「...!!」
桃花は一枚の紙を出す。
「それは...?」
「それって確か師匠が誕生日の夜に書いてた...。」
(みんな、これが「あ」、「い」、「う」...、)
(お?キジコちゃんそれって?)
(ひらがなとカタカナの表。)
(?)
(ああ、私の世界の言語です。)
(...そういえばこれどこかで?)
(....キジコちゃん、これ私にも教えてもらえないかしら。)
(勿論です!これが「ネ」、「コ」......、)
「そう、そしてこの本は....。」
そこにはひらがなとカタカナがバラバラに書かれた文章。
「これって....!?」
「えーと...[くレろやマ]....?」
「そう、これをただそう読んでも意味がわからないわ。でも表を見て、後ろに二つずらすと...。」
これを よむ きみたちへ
これは じゃじゅう を ほろぼす
きっかけに なること を ねがい
かきしるす
じゃじゅう は ふういん きかない
ふういん される まえ に うつわ すてる
すてた うつわ ただ の
エネルギー の タンク
ほんたい は ながい とき かけて
あたらしい うつわ で
どこか で いきのび ちから たくわる
きょうつう てん は
あおく くろい ほのお つかう
桃花の目の前には血を流したクロマとスアがいた。




