第268話 境界門
「...って訳だ。」
「ふむふむ.....何一頭で鎧揚げ食っとんじゃバカヤロォーーーーーーーーー!!!!!」
「ブホォアッ!!?」
晴れた日の空、
重い一撃の音、
女性のアッパーカット、
ぶっ飛ぶ白い男、
「イグニール、ヴァルケオに八つ当たりしないで。」
「なんでよぉ!!キジコちゃんと一緒に鎧揚げ作ったのよ!?私鎧揚げ大好きなのになんでこいつだけ!!」
「いや、その日の夕食がたまたまそうであっただけだし、ヴァルケオもたまたまその時間に呼んだんだけど。」
現在レギスの森はギャーギャーうるさい。
彼女はイグニール、ドゥークの森の守護獣で近所の町であるドゥーカルンに売っている鎧揚げが大好物。というか鎧揚げが大好き。
それでヴァルケオはテュー兄とマウ姉に昨日キジコと鎧揚げ作りしてた事を話していたら、たまたまそのタイミングでやってきたイグニールの耳に入り悔しさ怒りのアッパーカットがヴァルケオにクリティカルヒィーット!!!って訳だ。
...ああやべ、怒りの追撃をしようとヴァルケオに突撃してる。止めろ止めろ。
「イグニールさん抑えて抑えて、今度家に招待しますから。」
「...わかったわ。」
「大丈夫ヴァルケオ?」
「...調査始める前に大怪我なんて聞いてない。」
そもそも今私達がレギスの森にいるかというと、レギスの森は邪獣封印の地であり神域の奥深く...禁足地と呼ばれる場所がある。
何度か付近にまでには行ったことがある、森で前兆個体が現れた際もその辺りだった。
今回私達はその禁足地の中に入って何が起きているかを調査するのだ。解き明かしてない謎はまだあるけど魔王の本拠地に乗り込むような事をするのです。
そろそろ調査を次のステップに移る頃合いかと私は昨日ヴァルケオに頼んだのだ。禁足地の入り口自体は封印ってわけでも無いので入る事自体は可能だ、せめてこの際一度調査しようと決めた。
突入メンバーは私、ハルカ、ヴァルケオ、マウリ、テューニの5人(人間形態なので)。
戦力は十分、守護獣の皆はとんでもない強さの化け物だ。詳しくは知らないけど....今のルザーナより強いのは確実だ。
...っと、ヴァルケオの治療が完了した。
「それじゃ...開錠するぞ。」
そこは神域の奥地のとある岩地、
守護獣達が手をかざすと巨大な魔法陣が現れた。
「我、聖獣ヴァルケオ。」
「我、聖獣マウリ。」
「我、聖獣テューニ。」
「我、聖獣イグニール。」
「我ら守護獣、災厄封じられし地への入り口、ここに開く。」
そう唱えると同時にヴァルケオ達は魔法陣にかけられている鍵...ロック?を解除し始める。
なんというか、模様替えカシャカシャ動き始め消えていくというか開いていく。
「...すごい。」
「ゲームやアニメでしか見た事ない光景だから感動だ。」
「だね...じゃあ、行くy...、
「キジコ、ハルカ。申し訳ないがあと30分かかるぞ?」
「「.....。」」
結局その後30分、ゲームのロードを長くしたような時間が続いた。
それは黒い円状の入り口、
地面に開いた異世界への扉のような、
「これは...。」
「究極魔法[境界門]....異なる次元とこの世界をつなぐ神の魔法だ。かつて大昔の勇者が神と協力し別次元に邪獣を封印したのだがな、これはその別次元へ行くための門だ。もし入るならば神が認め指定された存在がいなければ開くことが出来ない特別な魔法陣を開ける必要がある、さっきのやつがそれだ。」
「加えてこれを開けたのはその時以来、さぞ埃が溜まってるでしょう。」
「別次元ってのは夏季休暇に行く別荘か何かか?」
「これ作った神様って誰なの?」
「位階序列の2、精霊神様だ。」
「精霊神...?」
「2...つまり桃花様よりも...。」
「ああ強いな。」
敵に回したくないな。
「しかし...邪獣が封印された場所って別次元だったの?それにしてはだいぶこの世界に干渉してない?」
「作られた次元は永遠には保たない、いわばただの確率空間だ。老朽化するほど壊れやすくもなる。」
「精霊神様はどこにいるかわからないし僕らでもこの次元の壁を修復する事は出来ない。つまり壊れた部分の隙間を通って邪獣の力が干渉している感じだ。」
「そもそもこの別次元は精霊神様が作ったものだ、より確実に邪獣を封印するためにな。ただ封印するだけではもっと早くに邪獣は復活していたさ。」
「なるほど...。」
教授もその辺の何かに気づいたから邪獣が復活しようとしているのに気づいたのかな...?
精霊神ってのは次元...世界を越える、移動出来るって事はやっぱり向こうの世界....元いた世界に帰れなくもないってことか。
帰らないけど。
...待てよ、
その精霊神様ならあの子...ヴィオレットこと菫ちゃんがどうやってこの世界に転生したかわかるんじゃないのか?私はディメンによって来たけど菫ちゃんは違う、確か階段から落ちて...だったかな。でも魂だけがいきなりここに来るかな?次元を越える入り口ってのがある時点で世界の壁とかありそうじゃん?
まるでラノベのような人生を送るあの子の謎...これもなんか放って置けないなぁ、こういうのって放っておくと後で大変なことになるんだよな。
例
「なんで助けてくれなかったの、あの時!!」
「なんで見殺しにしたの!?」
「許せない...許さない!」
B A D E N D….、
ってなりかねない。
そうならないよう、
いつかは是非会ってみたいもんだ、
「...お母さん?」
「ん?ああ、ごめん。考え事さ。...準備はいい?」
「うん。」
「ハルカ、キジコ。破邪の力を纏え。」
「うん。...連結スキル。」
私は進み出す。
「無事に帰って来なさいよー、私はちゃんとここで見張ってるから森は心配するな。キジコ、鎧揚げ絶対だぞ!?」
「はーい!」
...しかしいざ入るとなるとなんか緊張するなぁ。
んーん、そんなしょうもないこと考えても仕方ない。
「じゃあ....行くよ!!」
私達は黒い穴へ飛び込んだ。




