第260話 少女と買い物
ムート王国、近隣の平原...
「魔力防壁空間!」
半円型のバリアの中に黒いオーラを纏う魔物が閉じ込められている。魔物は脱出しようとバリアを攻撃するも破壊出来ない。
「今だ!」
「火炎爆発!!」
「炎剣柱!!」
魔物はバリア中そのまま焼き尽くされ、跡形もなく消え去った。
「ふぅ、破邪の力を混ぜたバリアで覆った空間であれば通常の魔法や攻撃でも前兆個体を倒せる事が分かったな。」
「はい。ただしこれはバリア内の破邪の魔力の濃度が一定以上でなければならないと推測します、総団長。」
「だがこれでより効率の良い戦闘が可能だな。」
「ですね。まぁあのお方は関係無く見えますがね...。」
「掃討完了、結晶の探索を再開します。」
「...キジコ様張り切ってるなぁ。」
周囲は消滅を始める前兆魔物の遺体の数々、散らばり広がった黒っぽい血が消えゆく平原に佇む2本尻尾の獣人はシルト達に合図をする。
「バフッ!」
「ぉわぁっ!?」
シルトの部下、騎士団第三団長に寄りかかる青白い犬。
「って荒丸か。どうだ、結晶は見つかったか?」
毛がボサフワなことから荒丸と勝手に名付けられた幻魔召喚の狼。...ってかいつの間にあのオッさんに懐いた?
「ワフッ、クーン。」
「向こうだな、キジコ様ー!」
「え、もう見つけたの?」
なんてえらいワンちゃんなんでしょーね。
せっかく誕生日パーティをしてもらえてご機嫌なのにこれじゃ私ただの殺戮マシーンじゃないか。
はぁ、悪印象持たれたらどうするのよこれぇ。
まぁでも、今までよりもずっと良く戦う事は出来たかな。
「いつもより楽しそうですね。やっぱりルザーナさん達が作ったその靴のお陰ですか?」
「まぁね。」
魔法具[猫風]
・脚力機能上昇、隠密効果上昇、損傷自動修復、
蒸れ軽減、歩行走力上昇、足音軽減(任意)
跳躍力上昇、身体物理魔法耐性上昇、
周囲感知能力上昇、周囲認識力上昇、
身体熱調節上昇効果付与
「この世にもう2足も無い、世界でたった2足の私のために作ってくれた靴。とっってもいい靴だ。」
「はは、良かったですね。」
「あったぞ、結晶だー!!」
「お、では破壊するとしましょーかね。」
ーーーーー
「ハルカ、どこ行くの?」
「家に帰るの。遊びに来る?」
「え、いいの?」
「うん。」
一方リーツ。
晴れた日に空の下、ハルカとアイはキジコの家に向かって仲良くかけっこ。その光景を見る人々は、
「まぁ可愛い!」
「いやーん可愛いー!」
「はっはっは、元気だな!」
と、明るくその光景を見守っている。
「ねぇアイ。体力は大丈夫なの?」
「全然平気、別に病弱とかそう言うのではないから。」
「それは良かった、さぁそろそろ着くよ。」
「待って、そこのお店行ってみよ。」
「ん、わかった。」
そこは町の端にあるそれなりに大きい書店。
かけっこ少女は書店へ立ち寄る。
「何を買うの?」
「絵を描くための紙。そっちは何かペンはある?」
「お母さんのなら。」
「じゃあ私達のも買おう。」
「うん。」
ハルカはスケッチブックとペンを手に取る。
「これ...向こうの大陸で新しく開発された新しいペンなの。お母さんは最初なんだこれって言ってたけど便利らしいよ。」
「へぇ...じゃあそれを買おう。すみません、これください。」
「買ったはいいけど、何か描くの?」
「うん。」
「どうして?」
「ハルカ、疲れてる。」
「!」
「どうしても視えるの、ハルカの真相にある黒い何か。色んな疲れが積み重なった何か。今の暮らしではありえない何かの積み重ね。」
...アイ、貴方が観測したのは多分私...雉野小夏としての何か。死ぬ前に持った後悔や疲れ、未練の塊...なんだと思う。それ以外心辺りは少ない。
「...なんだろうね、わかんない。」
「そう。」
思い出せばこの世界にやって来た理由は前世の未練や後悔があまりにも濃い故のもの、一度転生してそう言ったのをなくさせ無事に天国地獄来世へ行くための特別措置。まぁ転生してすぐトラブル発生したけど。
この子はただ視力がいいだけではないようだ。視力が異常強化されていると言うのは、その目の力の一旦なのかもしれない。
「一つ言えるのは...アイ。」
「?」
「君は必死に努力してその力を制御する必要があると思う。アイは魔法適正が非常に高い上にその特殊な力は狙う奴がいると思う。前に攫われたのは教授だったからいいとして、ヤバい奴はいっぱいいる。」
「教授....そういえばアイツはなんだったの。私は結局一時的に洗脳を受けただけで他は何もされてなかった。ハルカは何か知ってるの?」
「...ここで話せる事じゃない。家に帰ってから話すよ。」




