第259話 少女とコーヒー
邪獣
それは災厄
その存在は果ての無い力
その存在は尽きぬ呪いを纏う
その存在は永劫に終わらぬ負の感情
その存在は終焉
その存在は終わりをもたらす
その存在は死を運ぶ
その存在は始まりなど生まない
あるのは無に帰る事のみ
「...今度こそ終わらせる。邪獣よ。」
暗い夜、空を見て呟く教授。
冷たい風に当たり白いため息を吐く。
「どうしたの、風邪ひくよ。」
「...ハルカか。」
「もう13月、年を越す前に邪獣なんとかしたいよね。」
「ああ、この前奴の波動を感じた。確実に復活が近づいている。」
「確か...12月27日の夕方だよね。」
「ああ、どういう訳か邪獣の力を強く感じた。」
「...ぁ、そういえば。」
「?」
「お母さんがその日その時間帯に前兆個体と戦っていた。でもその個体、今まで見てきたのと違ったんだ。」
「違った?」
「人型...と言うより人間。」
「それは...!」
「エルフ国に現れたヴェレンっていう奴と似ている、人間ベースで明確な知能を有している。」
「...そもそも邪獣が死霊之厄災を使うのは自身のエネルギーとなる生物の負の感情を集めるためだ。そのスキルは邪獣が低エネルギー状態で使う、その為人間のような知能が高く複雑な存在を複製するには魔力を多く消費しなければならない。」
まとめるとこう、
・複雑、賢い生物→消費魔力(大)
・単純、本能的 →消費魔力(低)
「だとすると...邪獣はそういうのを作っても良いくらいエネルギーが溜まってるって事?強い奴コピってより負のエネルギーを集めようって魂胆かな。」
「どうだろうな、まぁ今一番可能性あるのはそれかもなぁ。とりあえず共通点は適度に強い奴として覚えておこう。...それよりだ。」
「ん?」
「お前...最近よく向こうに遊びに行ってるが楽しいか?」
「!、...うん。」
「そうか。...この騒動が終われば正式な住民として向こうで生きろ。」
「...いいのか?」
「俺は自主でも打首拷問切腹でもしてやるよ、その覚悟で今を生きているんだからな。」
そう言って教授は研究所に戻って行った。
「...ありがとう。」
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13月3日...
「「コーヒー1杯ください。」」
「!」
「ん?」
リーツの中央公園、
ここはその隣にあるカフェ。
「貴方は...!」
「君...どこかで...。」
オシャレな椅子に座り店員に注文...
雉虎柄の猫耳髪の少女はキョトンとする、
夕日色の髪の目隠し少女はそちらを見る。
「確か...アイさんでしたっけ。」
「君...キジコ様に似てる。」
ハルカの向かいの椅子に少女は座る。
少女の名前はアイ。
以前この町に引っ越して来た特殊な能力を持った不思議な子。
「やっぱり、お母さんが前に...。」
「お母さん...え、君、キジコ様の娘?」
「はい、貴方の事は...一応知ってます。」
ある意味同一人物でもあるから....。
「君...何歳?身長からして私より年下っぽいけどなんだろ、もっと長く生きてるような何かが...。」
「よく視えるね、案外間違ってはいないよ。私は特殊な存在なんだ。」
「うん、目は良いんだ。」
この子は生まれつき物凄く目が良い、人体に悪影響を及ぼす程。それは成長するにつれて上昇し下手に意識すれば望遠鏡にもなる。当然それは目に激痛を伴い、太陽の下は彼女の死の領域も同然だった。
ある一件でキジコ達と出会い、今はとある魔法具の力で装備中視力が低下し魔力が増加している。彼女はもう自由に生きれるのだ。
「アイさんもこの店好きなの?」
「うん、ここのコーヒー美味しいんだ。」
「わかる、私もここのコーヒー好き。」
ここのコーヒーは挽きたて、香り良く人気なのだ。
「ねぇ、キジコ様は元気?」
「うん。今はまた館からの直接依頼で悪い魔物を倒しに行ってる。そういうのは死人が出やすい分金も出るからさ、財布事情は困ってないのだわ。」
「いいね。うちの兄、今は技師見習いで生きて、一方私は簡単な採取依頼仕事で稼いでる。もうか弱い肉体じゃなくなったからね、最近は魔法を習っては鍛えてる。」
「良かった、平和に暮らしてるようで。」
以前お母さんが助けた人が元気に生きてるのがわかっただけで良い気分だ。加えて夕日色少女、ずいぶん強い生き方をしているじゃないか。
自らか弱さという檻を破り今度は太陽のように輝こうとするその姿勢には感動するわ。
強い女はモテるぞ、良かったな。
「お待たせしました!」
お、コーヒーが来た。
「良い香りだ、挽きたてはいいな。」
「全くだ、そして良い味だ。」
「!、何も入れないの?」
「まーね、アイさんもいずれわかるさ。やたら苦ぇコーヒーっていうドリンクを。」
ふっ、私はただ苦いコーヒーが好きなだけだが。
「...一つ聞いてもいい?」
「何?」
「名前、なんて言うの?」
「ハルカ。」
「じゃあハルカ。私達は今日から友達。そして呼び捨てでいいね?」
「...いいよ、私達は友達だ。アイ、よろしくね。」
半分飲んだコーヒーカップをお互い打ちまた飲んだ。




