第257話 頼もしき狼
「....。」
「私としては頑張った。...でも悔しいな、まだ足りない気がするんだ。」
夜17時半....サプライズパーティの1時間半前、ヴァリールは悩んでいた。
「そうですか....?私には...。」
「そうだろうね...でも私にはわかるの、これじゃダメだ。なんだろう...私としてはこれはまだ完成じゃない気がするの。なんというか、時計の歯車が足りていないというか....、機能はしているけどそれを時計としてより良くする何かが欠けている...そんな感じかな?」
「つまり...魔法具として、靴としては重ブウだけどご主人様にプレゼントするにあたっては重要な何かが無いって事でしょうか?」
「そうよ。」
ヴァリールは職人ゆえに悩んでいた。
機能性だけではダメ、
大切な誰かに贈る物としてのこだわりに、
職人として何かを感じていた。
今その靴は一度館から回収、
クルジュさんの店にルザーナ達を集め話している。
「魔法具[閃光]...キジコちゃんの猫としての瞬発力、隠密能力、その他機能性に優れた性能を持ってる。多分今キジコちゃんが使ってる靴とは能力が違う点もあるけど...そこじゃないの。」
「師匠へ贈る物として何か....うーん...。」
『...一方的。』
「ん?」
『思いが重すぎる。この人数で込めた思いの数が多い。』
「えっ。」
『主を思う気持ちで出来ているのはわかる。でも使うのは主、主は誰かを守るために使うのにこれは私達が主を守りたい、力になりたいとかの塊。主が使うには噛み合わないの...主は主として皆を守りたいの。それに主は色んな生き方もある、だからこれではただの侵食...って感じなの。』
「....っ!!」
ヴァリールは顔を下に向けた。
ハッと気づいた顔で頭を抱えた。
キジコの生き方を理解していなかった。
職人としての過ち。
気持ちの押し付け。
「...ごめん...なさい。」
「ヴァリールさん...。」
「ごめんなさい...ごめんなさい..!ごめんなさい!!」
「お邪魔していいでしょうか?」
「...!」
オレンジ寄りの赤い色でフワボサ気味の長い髪、
頼もしさを感じさせる綺麗な青い瞳、
狼の尻尾。
「ちょうどキジコから依頼が来てねぇ、これを。」
「!!」
それは悲惨なくらいに破損した魔法具ガットスニーカー。
つまりキジコの靴。
「これは...!?」
「向こうで靴が壊れちゃったらしくてね。元々霊獣になる前に作った物のためか自動修復機能がダメージ追いついていないらしい。つまりこの魔法具は限界を超えてしまった...だからこうなったの。事実上壊れたの。」
「嘘....。」
「だからさ、直せない...かな?ヴァリールの気配があったからいけそうかと思ったけど。」
「...もしかして。」
ヴァリールは壊れた靴を手に取る。
「ヴァリールさん、その靴はまだ頑張りたいみたいだ。だから...お願い出来るかな。」
「...手を貸してもらえる?」
「言うと思った。[魔力変形]は私も使えるからね。」
ーーーーー
少し前の時間...
「やっと帰ってきた...。」
「代わりの靴、サイズ大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。」
ようやく家に帰って来たキジコと送ってきたヴェアート。
「靴どうしようかな....魔法具なんてそうそう作れるわけじゃないからな。」
「キジコ様の靴は一体何が...?」
「多分耐久出来なかったんだ、霊獣になる...いやそれどころか獣人に覚醒した時にほぼ無意識的に作った物だったから、ここまでよく頑張ってくれたと思うよ。」
やらかした事実は認め難いが受け入れるしかない。
だがその顔は悲しげ。
お気に入りの靴でした...........。
「...すみません、お茶いただいて。」
「いえいえ、送っていただいたお礼です。」
「それに...この机は一体。すごく暖かいと言いますか...。」
「こたつね、向こうの世界の技術。扱い間違えれば人を堕落させる恐ろしいアイテムです。」
「ひえっ。」
こたつの脅威は半端じゃねぇ、
前世で部長がうっかり寝落ちして会議に遅刻しかけた事だってあったからね。
「...ふぅ、私はこの辺で帝国に戻ります。転移術式板はこう見えて結構な枚数を所持してますのでご心配なく。」
「転移役の人は無事だったの?」
「はい、キジコ様がロティアートを引き付けたお陰で治療魔法で傷を治す事が出来ましたので。しかしまだ気を失っているようです。」
「そうでしたか...。」
「ではこれで....、
ガラッ
「やほっ。」
「うわぁっ!?」
転ぶヴェアート、
目の前には神獣。
「あれっ、ニコ。いらっしゃい。」
「遊びに....あら?」
ニコは壊れた靴を手に取る。
「どしたの、何かやばい戦闘でもあったの?」
「ああ、色々あってね。壊れてしまったんだ。」
「そっか...。」
「...ねぇキジコ、私に任せてくれないかな?」
「へ?」
「この靴...直すのに心辺りがあるの、任せてくれない?」
「...いいのか、そんな事任せちゃって。」
「うん、遊びに来たついで。私にお任せあれ!」
「自信のある声だ、アテがあるな?聞くのはやめておくよ。」
「いい耳持ってるねぇ、私も都合のいい鼻を持ってるのに最近やって気づいたからね!」
そして現在に至る。




