第245話 無理をするな若造
それは突然だった。
村で魔物鹿を追い込んでいた聖勇者達の前でそれは起こったのだ。
「ディザスター・ホーン・ディアー.....。」
「嘘でしょ、進化してるんだけどアレ...。」
少々離れててはっきり確認した訳ではないのだが、冒険図鑑を通して何者かは分かった。しかしこれはまずい、あの魔力からして間違いなくカラミアと互角。カラミアの強さ覚醒前の私の7割程、シルトさんならまだしもそれ以外は死んでしまう。
やばい、村が吹っ飛ぶどころか命が消える!
あの様子だと他の地域も襲撃する可能性が高い、
止めなくては...!!
「(キジコ様達はそのまま、持ち場を離れないでほしい。)」
「っ!?」
「(これは我々王国兵の仕事です、まるまる頼る訳にはいきません。)」
「馬鹿言ってんじゃないよ!?人が死ぬぞ!?」
「(大丈夫です、私がなんとしても食い止めます!キジコ様達は魔物をお願いします、あの個体の影響で暴れ出すかもしれません。)」
「でも....、」
「(すみません、それでは。)」
おいおい...王国の奴らは自殺したいのか!?
どうする、助けに行くべきか....このまま多くの兵を見殺しにするか!
「ブルル......!!!」
「「!!」」
どうやら答えは勝手に出ていたようだ。
森の方から先程逃げてきた鹿達がこちらを睨んでいる。シルトさんの予想通りボスが進化した影響で私達をやる気まんまんらしい。
放っておけばさらに被害が出る事間違いなし、ここで食い止める他ない。
鷹A「やべぇよ、やべぇよ!」
鷹B「アイツら、暴れる、凶暴!」
鷹C「鹿、だけじゃない!」
狼A「食い止めろ!」
狼B「俺達、防衛!」
鷹A「気をつけて!」
「お母さん、本格的にやばいよ。」
「うん、集中するぞ。どうやら鹿だけじないっぽいから対処には気をつけろ。」
「どうせならアレらも殺し無しで行けば良い特訓になるんじゃない?」
「勘弁してくれ....。」
「でやあああ!!!」
シルトは変異鹿に輝く魔力を纏った剣を振る。
その一撃で変異鹿の矛先はシルトに向いた。
「お前の相手は私だ!!」
「ブルルッ....!!!」
(こちらに視線が向いた、これで他の兵への攻撃が極力減るだろう。そして常にこちらへ集中が向くよう攻撃するのが重要。...そして倒す!)
「魔身強化!!!」
「ブルォオオーーーーーーッ!!!」
「はああああ!!!」
剣を輝かせたまま攻撃に入る。
勇者の称号を持ち、国の最強クラスの実力者だけあり一撃一撃の威力は高く、変異鹿はその脅威を無視出来ない。
「....ォォオオオ!!!」
「な、火炎の魔法か!!」
変異鹿は火属性に適正があった。
シルトを脅威と認識し力を解放、瞬く間に周囲を焼き尽くす。
「ならば、アクアスラッシュ!!!」
「ボオオオ!!!」
「っ、水属性は嫌いなんだな!!」
シルトは剣に水属性の魔法エネルギーも纏わせる。
「魔身強化、出力上昇!!!」
戦い方を変えた、向こうは多少距離があると魔法をメインで攻撃をする。そのため対魔法使用者への戦闘方法を行う。
「ウォーターカッター!!」
剣を振ると多量の水が飛び、強靭な刃となり変異鹿の肉に刺さり斬りつける。
変異鹿は後退し距離を取る。
「下がった!メガ・アクアブレード!!」
シルトは大きな水の刃で斬る。
「....ブルルルッ!!」
「斬った時の感覚、進化前から気になっていたその細身の肉体....やはり魔法が主体で生きてきたようだな。やたら距離を取ろうとする辺り属性どころか傷を受ける覚悟がなっていない、少々臆病者のようだな。」
「ブルルオオッ!!」
「その技は....、」
「う、うわあああ!!?」
「!?」
離れた位置から悲鳴、
「ブルルルル....。」
燃え盛る炎の柱が村の中や外に発生する。
シルトは気づいた、
今まで逃げ腰な戦いをしていたのはこの魔法を使うため。大きな魔法を使うために並行的に魔法を使っていたのだ。
「うわあああ!?」
「ぁ...貴様あああ!!!」
「ゥルルァアアッ!!」
「ァッ!?」
しかしそれは囮。
変異鹿は学んでいた。
仲間を傷つけられるのが嫌なのは向こうも同じであり、目立つ技を使い仲間を攻撃すればそちらを向くはずだと。大きな隙が生まれると。
そしてこの変異鹿は魔法向きであっても野生を生き抜く個体、その肉体が弱いはずがないのだ。
「がはっ...!?」
シルトは強い、もし闘王闘技に出ていたならば本大会に出ていたかもしれない。
だが変異鹿の状況学習力の方がシルトの戦い方を上回ったのだ。
厳しい野生を生き抜いた猛者故の、人間のシルトが持っていない才能と能力。
「甘...かった、私のせいだ....!!だが負ける訳には!」
しかし相手は化け物。
カラミアにしても覚醒前のキジコの力を持っても一人では倒せない。
文字通りの化け物、ゲームでいうレイドボス。
それを一人で倒すのはやはり無理があったのだ。
変異鹿は鋭い角をシルトに向け走る...。
ガァンッ!!
「..ぁ....!?」
「ルルァ!?」
「ブルルル....フーッ...!!!」
変異鹿の角を青い角が真正面から受け止め、シルトを守った。
「あ...!」
カラミアだ。
キジコが召喚したもう一頭野突然変異の魔物鹿、
カラミティ・ホーン・ディアーだ。
「総団長!!ご無事ですか!?」
「多少被害を受けましたが、我々は無事です!死者はいません!!」
「...!!」
「ブフゥー....。」
カラミアはどこか呆れた目をしている。
召喚魔物となってもカラミアも元は野生の存在。
シルトの戦い方に呆れていたのだ。
そして同時にその目は...
[あとは任せろ]
そんな目をしていた。
「「ブオオオオーーーーーーーッ!!!!」」
今からあ起きる戦いはもはや怪獣同士の戦い、
見守るのが野生の掟だろう。




