第244話 鹿さんこちら
村を歩き回るスティング・ホーン・ディアー。周囲には角で傷がついた壁、齧られた跡が目立つ作物の数々...。
この魔物は邪獣の前兆で現れたオーラ個体に住処を追われた群れ、たまたま見つけた村に侵入したのだ。
住民はすでに別の村に避難済み、さてあとは...、
「グオォォーーーーーー!!!!」
「!!?」
町の外から不気味で大きな鳴き声が響き渡る、鳴き声を聞いた魔物鹿は本能的な恐怖に震える。
「各自、配置が完了しました!!」
「わかった。皆、作戦開始だ!!!」
兵士と共に青白い召喚鹿が村に突撃。
「ブルルルッ.....!!!」
「...!!!」
村の中心にいるボス鹿が部下に指示をする追い返せと、
「ブオオッ!!!」
召喚したカラミアは指示する、コイツらを森に押し出せと。
向こうの村の守護は一般兵と狼に任せ、
空からの監視に鷹を使う。
これにより実力者不足をなんとかカバー、数は十分!
よーし、お仕事開始!
ーーーーーーーーーー
召喚鹿達は次々と
「よし、この様子なら大体は片付くだろう。私達は森へ移動する鹿の誘導に回ろう。」
「これなら先に中間地点にいた方が良かったね。シルトさんはこのまま兵士さん達の指示をお願い。」
「はい。」
魔物鷹が早速森へ向かう魔物鹿がいると合図している。誘導をするため私とハルカは村と森の中間へ走る。
「「魔身強化!!」」
私達は魔力を上げ、中間地点の鹿を挟むように立つ。圧倒的な強さと言う壁を本能に認識させる事で道を外れないようにするのだ。
普通の個体であればだが....、
「ルルオオオッ!!!」
「命知らずな個体がそっちに行った!」
「追加召喚、狼来い!!」
青白い狼が現れ.....なんかさっきよりふわふわだ。
「アオーーーンッ!!!」
「ワフンッ!」
「お手!」
「クーン。」
「ほぼ犬じゃん!?」
村と森は多少距離がある。
私達だけでは細かいカバーはやはり無理があったので狼...ワンちゃんに頼ろうと思う。
「ワンちゃん頼んだ!」
「バフッ。」
ワンちゃんはハルカをボスとして的確に動く。
まぁなんてエラい!
「ブォッ!?」
「ワンッ!!」
「ブルルォォォ!!!」
「ガルルルル...!!!」
「あの鹿も鳴き声可愛くないなぁ...この世界の鹿はピーって鳴かないの...?」
「ハルカ、残念ながらこの世界でピーって鳴く鹿、見た事無いわ。」
奈良県の鹿が恋しい....。
召喚鷹からの合図、
「森、住処、入ってる、...順調だ(キリッ)!」
「次々、こっち来てる、やったね!」
「おい、お前、監視、そっち。」
「あれ、てへっ!」
「よしよし上手くいってる。」
「お母さん余所見しないで、さらに来てる!」
「残りあと何頭だ?20頭目か?」
「22頭目!」
「にゃんにゃんだな!」
「言ってる場合じゃなーーーい!!」
娘に怒られた。
「そっち、23頭目!」
「にーさん(2、3)向こう行ってらっしゃい!」
「お前も一緒じゃん!?」
一方シルト達....、
「ブルル...ブオオオーーーーーッ!!!」
「!!....ブオオオッ!!!」
「うおお!?鹿の力が増した!?」
こちらは少し苦戦中。
やはり逃げた個体と違いこの場でボス鹿の指示を受け攻撃する魔物鹿は手強いようだ。気が立ってる事もあってか暴れるように攻めてくる上に、針のように尖った角を振り回してくるので下手に近づけば大怪我間違いなし。
そして重要なのは殺してはいけない事。
「う、うわああ!!」
「ふんっ!!」
シルトは大剣で部下を守る。
鹿を弾き跳ね飛ばした。
「大丈夫か!?」
「は、はい!」
「そろそろ数が半分ぐらいになってくるはずだがどうだ?」
「はっ、現在25頭が森に!」
「残り30か...皆、まだやれるな!」
「おー!!」
鹿の強さは問題無いがやはり人手がいる任務な上に皆がとても強い訳ではない。だが弱い訳では無いのでなんとか持ち堪えている。
「バウッ!!」
「おお、助かった!!」
「アゥン。」
「おい、来るぞ!!」
「ブルルッ!!」
「おお!?正面から抑えた!!」
召喚魔物達も自分達の出来る事を惜しみなく発揮、魔物だからこそ取れる動きで兵士達をアシスト。これに怯えて次々と魔物鹿が散らばってゆく。
「そっちへ行ったぞ!!」
「ブォォーーーーーッ!!!」
召喚カラミアが鳴くと、外側に配置した魔物達が通せんぼ。隙間を通り抜けた個体はカラミアが魔法を使い多少荒くても範囲外に出さない!
「35頭超えました!」
「そうか!あと少しだ、持ち堪えろ!!」
「おーー!!」
だが流石は異世界、自体は急変する事に誰もが予想していなかった。
ゴウッ
「ッ...なんだ、ボス鹿から感じる魔力が...?」
「ブルルォオオオーーーーーーッ!!!!」
「まさか....全員離れろ!!!!」
町から大きな光が発生した。
見た事ある光、
久しぶりに見る嫌な光り、
ここは異世界、
追い込まれピンチな時にパワーアップするのは物語の世界ではよくある事、現実...それも前世じゃありえない。
でもこんな異世界なら可能性はゼロじゃない。
ご都合とリスクに塗れた世界。
それを改めて実感した。
「そ...総団長....!!」
「...なんてことだ、総員...いや、周辺領域、王国に即時連絡せよ!...魔物の群れの長が...進化したと。」
冒険図鑑
[種族名:ディザスター・ホーン・ディアー]
・スティングホーンディアーが突然変異、進化個体。
「まずい...!!!」
「総員、後退せよおおおーーーーーーっ!!!!」




