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猫に転生しても私は多趣味!  作者: 亜土しゅうや
邪獣動乱編
246/302

第236話 ヴェレン

 結晶を破壊した。

 

 邪獣の前兆で現れた魔物は消えた。


 枯れた自然もいずれ戻るだろう。


 ...そう思っていた矢先だった。


 ソイツはいた。


 真っ黒なソイツはいた。


 「...倒す...敵....。」

 「な...なんで、なんで消えてないの!?」

 「ただのオーラ個体じゃない、貴様は何者なんだ!?」


 黒い霧は晴れてゆく。


 赤い目が光る。


 長い耳がはっきり見える。


 金色の髪は毛先が黒い。


 「....!?」


 フィースィは膝をつき崩れ落ちた。


 そのエルフの顔を見て驚愕した、


 そのエルフの姿を見て悲しんだ。


 「なぜだ....なぜだ...お前が...どうして!?」


 フィースィは涙を流している。


 とても悲しい涙を。


 「貴様ら...何者...敵....魔力...高い....。」


 「どうしてだ...どうしてこうなったんだ!?なんでだよ...なんでお前がそうなった!?なんでいるんだ、ヴェレン!!!」

 

 漆黒の鎧を着たエルフの名はヴェレン。


 エルフナイト、フィースィがかつて亡くした弟だ。



ーーーーーーーーーー


 「なぜ...ヴェレンが...。」

 「我...主....シモベ。貴様...知らない。」

 「....!!!」

 「フィースィさん下がって!彼は貴方の関係者かも知れませんがあくまで複製体、本人ではありません!!!!」


 ヴェレンは水の斬撃を飛ばしてくる。

 私達は間一髪避ける。


 「フィースィさん!!」

 「...取り乱して申し訳ありません。あのエルフの複製元は私の弟であるヴェレン。剣と魔法の才能は若くして私と肩を並べる程でした。」

 「...つまりフィースィさん以上の実力を。」

 「ええ持っています、そして目の前には強化された複製がいる。はっきり言ってまずいです、ヴェレンの身体能力的な弱点は私が一番知っているのですが今のままでは負けるでしょう。...実力不足というのは本当に心に痛いものですね。」

 「敵...倒す....。」

 「...それでも挫ける訳にはいきません。お見苦しい姿を見せてしまいましたが、私はお前を倒す、お前より弱くても俺は立ち向かう。」


 流石はエルフナイトのリーダーと言うべきでしょう、強い心を持っています。


 「お前...敵...!!」

 「参る!!!」


 フィースィさんは実力が負けているとわかって立ち向かった。


 「フィースィさん!!」

 「ルザーナさんは待機していてください!!さっきの攻撃を見たでしょう、見極める事に集中してください、私が囮になります!!!」 

 「...わかりました!」


 フィースィさんは覚悟を決めている。 

 その覚悟に目を逸らす訳にはいかない。

 私は役目を果たそう。


 「でやああ!!!」

 「....!」


 二人は剣を打つ。

 その速さは闘王闘技で見た時以上。

 剣術という点で見ればご主人様を超えています。


 ヴェレンは攻め一方、防御を考えない猛攻。しかし攻撃は最大の防御とも言います、フィースィさんをなかなか寄せ付けずかなり押しています。その上変則的な攻撃も混ぜ、引きもしないので下手に攻めが出来ない戦法です。


 「アイシング...シャード...バレット。」

 「ふんっ!!!」


 一方フィースィさんは攻防一体の剣術で安定感のある戦い方、多少押されても鋭い反撃をしています。シンプルながら変則的な攻撃にしっかり対応しています。すごい、これなら確かに相手の行動がわかる!


 「シャインスラッシュ!!!」

 「ぐっ...。」

 「からの...陽光斬!!!」

 「ぐああっ....!?」


 光の一撃はヴェレンの胴体を斬った。

 

 だが、


 「...効いていない!?」

 「痛み...ない...命....ない...我...。」

 「...!!」

 「我...ない....力...ある...力...のみ....!!!」

 「フィースィさん!!!」


 ヴェレンの一撃がフィースィさんの顔を掠める。

 その速さはさっきまでの比じゃない、神速と呼べるその剣は私の目でもギリギリ認識出来るくらいだ。ヴェレンの動きは止まらない、それどころか加速している!


 「バカな...!?」

 「加速撃アクセルラッシュ....!!」

 「な、さらに速さを!!」

 「フィースィさん!!」

 「まだです!!」

 「...!!!」


 そうだ、まだ二人の戦いは始まったばかり。

 私は私の役目のために...まだ戦ってはいけない。

 実際今相手はあのような手を持っていた!

 魔力量に合わない剣の速度を、あれだけの速度を出せば返って肉体を傷つけるだけでしかない!だがヴェレンは命も痛覚も無いといった、それは言い換えれば失う物がない、肉体に無理を強いてでも動ける!


 ...命がない?


 そうだ、命がないのです!

 この前のワイバーンと同じです、破邪の能力に加えて回復、治療魔法が効くはずです!!

 私は治療魔法は持っていません...ならば!!


 「クロマ!!!」

 「高治療ハイヒール!!!」

 「ぐあああああ.....!??」

 「!!」


 クロマが飛んできて治療魔法をヴェレンに向かってかける。予想通りヴェレンは動きを止め苦しんでいる。


 ようやく...わかりました!


 「オーラ個体は操り人形ではありません!命令があるとしたら精々、その地で生きる物を襲うかなるべく結晶を守るようという程度でしょう、実際結晶を守るオーラ個体が少ない、強い個体任せです!それはつまり、オーラ個体は聞いた通り殺意や負の感情で動いてるのであっても邪獣そのものが操っているわけじゃ無いんです!だから生命を犠牲に他を強化されてもその個体は動くはずがありません!そういった場合はアンデッドとして無理矢理でも動く仕組みなんだと考えます!だから人間の場合は悪意に染められても多少知識は残っているはずです!!記憶がなくても内秘める使命、エルフナイトを目指した心、誰かを守りたい気持ちは消えていないはずです!魔物の熊を斬ったのは誰かを守るという気持ちがそあったから、そこにいたエルフナイトの皆さんを守ろうとしたから!色々忘れようがその人の動かすきっかけは根っからのヴェレンさんの心なんだと思います!だから...その人の行動はどんな姿になろうとも[その人に依存している]のです!フィースィさん、ヴェレンさんの動きを思い出してください!今のヴェレンさんは貴方よりも強い、でも彼の事を一番知っているのは...貴方です!!!彼を止められるのは貴方だけです!!!」


 私は思い切り叫んだ。

 フィースィさんとヴェレンが戦っているなかに必死に叫んだ。

 この場の希望は私ではなく...フィースィさんである事を。


 「...そうか...そうだったな...。」

 

 フィースィさんはヴェレンの一撃を弾く。


 「お前はいつも隙を見せれば、カッコつけようと大振りな攻撃をしてきたな。悪い癖だったよな。」

 「敵...動かない....トドメ。」


 フィースィさんは剣を捨てた。

 ヴェレンは剣を上に大振りの一撃をかまそうと迫る。


 「ありがとうルザーナさん、いい目だ。一番気が付くべき奴が気づけないなんてダメだよな。...兄失格だな。」

 「...!!?」 

 

 フィースィさんは純粋な魔力だけで光の剣を作る。 

 ヴェレンは大きな隙を作ってしまった。


 「ごめんな....ヴェレン!!!!!」


 フィースィさんはヴェレンの胴体を斬った。



ーーーーーーーーーー


 ヴェレンは消えてゆく。

 塵となって消えてゆく。


 「倒せた...!」

 『おーい!!』

 「隊長ー!!」


 第3番隊と1番隊の皆さんがこちら来た。

 どうやらクロマがスアに念話で伝えたようです。


 「フィースィ様...お辛い決断をさせた事を申し訳なく....。」

 「いいんだ、いい、別にいいんだ...。」

 「....。」


 「んーそれにしても...結晶も無しにこの者は一体どこから...?」

 「わからない、だが他のオーラ個体とは一緒なようでどこか違うはずで...。」


 「...死ね...ない...!!」

 「!!?」


 散り行く光は収束した。

 人の形を取り戻した。


 「破邪の力を受けてもなお蘇るのですか!?」

 「っ、蒼黒炎玉!!」

 「水之防壁《アクアウォール!!」

 「!」


 さっきと様子が違う、

 なんだ、何が起きたのですか!?

 呻きのような声が今はっきりとした声で聞こえました、生きているような人の声で...!!


 「どういう事だ!?なんで...!」

 「...肉体を作り変えられたか、命を感じる、何かの感情が...気持ちが実感できる、生を得たのか...我は。」

 「な...!?」

 「まだ生きろというのか...我が主は。」

 「ヴェレン!!」

 「...我は記憶が無い、その名は知らない。だが貴様と戦っていて悪い気はしなかった。」

 「え...。」

 「親しみも感じた、きっとこうなる前の我は貴様と知人だったのだろう。また会おう、次はこうも行かない、絶対に倒す。我が信ずる道で。」

 

 ヴェレンはそう言って、黒い霧の中に消えていった。


 「...ああ、相手になってやるよ...。」

 「フィースィさん...。」

 「ふぅ....お騒がせして申し訳ありませんでした、皆さん。遅くなりましたが我らの国へ案内します。」

 「は、はい!」

 

 私達は再びエルフ国に向け足を運ぶ。

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